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9 共同戦線



 “人”を『消滅』した日から、私の生活に変化が起きた。



「レテ、まだ朝だ。起きるには早い」


「レテ、今日は何を食べたいんだ」


「レテ、レテ————」



『ああ、もう!鬱陶しいよ!』


 …………あの日以降、騎士が過保護になった。

 朝に叩き起こしてくるどころか、堕落を促進するようなことをしてくるようになった。


 シンプルに怖い。


『あと、その名はどこで———』


 ———いや、愚問だった。

 絶対にどっかのボスが言っていたのを聞いたんだろう。

 

 「レテ」という名は確かに私の名前だ。

 「タブラ」は偽名みたいなもの。

 だから「レテ」と呼ぶのは間違ってない。


(でも、おかしい)


 今まで「レテ」という名は知っていても、そう呼べたのはボスだけなのだ。

 おそらく、その名を呼ぶには何かしらの条件が必要なはず。

 私自身もわかっていないその条件を、どうやら騎士はその条件をクリアしてしまったらしい。


 これは緊急事態である。

 なぜなら、私の名を呼べるようになったということは即ち、悪魔契約に百歩くらい近づいてしまったことを意味するから。


「レテ、今日の仕事は休んでおけ」


『いや、何日休んだと思ってるの?』


 今日も今日とて騎士は、私をニートへ誘ってくる。

 「働かざる者食うべからず」という言葉を知らないのだろうか。


『もう一週間は休んだんだけど』


「いや、まだ体が万全ではないだろう」


『元気いっぱいで破裂しそうですが!』


 押し問答の末、私は何とか仕事に行くことができた。



















 現在、午前5時。

 私は『イドラのサーカス』の最下階を駆けていた。

 そして、目的の部屋のドアを蹴破る。


 バンッ


「うおっ!なんだ!?」


 ナイトキャップを被った標的がベッドから飛び上がる。

 その一瞬をとらえ、私は引き金を引いた。


 パシュッ


 放たれたものは、標的の顔に命中する。


「………………」


 びしょ濡れになったナイトキャップは、力なく項垂れている。

 完璧なエイム調整だ。

 頬から落ちる水滴が、布団を濡らしていく。


『ミッションコンプリート』


「―――こぉんのクソピエロォォォオオオーーー!!!」


 怒声が部屋を揺らす。

 あらかじめ用意していた耳栓をつけていたため、難を逃れた。

 

 しかし、困った。

 激怒させた後のことを考えてなかった。

 

 さて、どうしよう?


 迫りくる危機に、私は唇へ手を当てた。














「テメェ、次はないと思えよ」


『うんうん、わかってるわかってる』


 ボスの寝顔写真を渡すことで、オクトは怒りをおさめた。

 なんてチョロイ厄介オタクだ。


「…………やっぱブチのめすか」


 オクトが拳を構えた。

 その様子を、私は鼻で笑った。


『でもさ、私の情報を騎士に売ったのはそっちでしょ』


「………………」


 そう、この報復には大義があった。


 こいつはあろうことか、私の情報を騎士に売っていたのだ。

 その対価として何を受け取ったのかは知らないが、どうせろくでもないものだろう。


 例の騎士団潜入捜査バレちゃった事件も、こいつのせいである。


 よくも私の情報を売ってくれたな。

 あと、なんで私の動向を知ってんだ。

 ストーカーしてたのか?ああん?


「で、何の用だよ」


(話を逸らしやがった)


 その態度にイラッとしたが、その通りだった。

 ここに来たのは、なにも報復するためだけじゃない。


『騎士を家に帰すの手伝って』


 本題を単刀直入に切り出す。


「は?無理」


 すげなく断られる。

 だが、断られるのは想定内だ。


『手伝ってくれたら、ボスの写真集を作成してやってもいい』


「いいだろう」


 秒で同意した。

 こいつは本当にボスのオタクだと思う。


「作戦たてるぞ」


『意欲がすごいな……』

 

 やはり、人を動かすにはニンジンが必要らしい。

 でも、ここまで前のめりだと、なんかこっちが気圧されるんだけど。


 そうして私たちは、早朝から「騎士送還」作戦を話し合った。

 














 ある日の昼下がり。

 威勢のいい屋台の掛け声が頭上を飛び交っている。


「らっしゃいらっしゃい!」


「魚が安いよー!」


「果物はいかがー!」


 人の多さに酔いそうだ。


『なんで私がこんな目に……』


「騎士を強制送還したいんだろ?我慢しろ」


 隣には、平民の服装をしたオクトがいる。

 私は勿論、透明カッパを羽織っている。


 今日は、下見のために来た。


 何の下見かって?

 それは当然、騎士を強制送還する場所を探すためだ。


 “あの騎士を騎士共が受け入れることはない。だったら、別の勢力に受け入れさせればいい”


 このオクトの提案によって、私は他の勢力とやらを探すことになった。


『でも、そんな場所がここにあるの?』


「ある」


 断言するオクト。

 私は疑いながらも、そんなオクトを信じてついていった。






















「さあ!スパゲソーモンスター様に祈りを捧げるのです!」


『…………』


「おい、何してんだ。祈れって」


 ついた先は普通の教会だった。


 ———しかし、中で行われていたことはとち狂っていた。

 スパゲソーモンスターと呼ばれる神に祈っているらしいが、これは…………。


『いやこれ、スパゲッティじゃん』


 スパゲッティに目と口をつけたモンスターがタペストリーに描かれている。

 それに向かって祈っている人々。

 滑稽が一周回って、もはや狂気。


 え?ここに騎士を託すの?


『流石に良心が痛むんですが』


「んなモン捨てろ」


 なるほど、どうやらオクトに良心はないらしい。

 まあ、彼にとって重要なのはボスのことのみだからなぁ。


『いや、もうちょっと考えよう!?』


「めんどい」


『それが本音だな!』


 明らかにやる気がない。

 こいつを信じた私が悪かった。


 でも、アイディア自体は悪くない。

 騎士団以外の勢力に騎士を託すのはいい選択だ。

 ただ、どんな勢力に託すかが問題である。


「そこのお方、祈りを捧げるのです!」


(…………絶対にここではないかな)


 スパゲソーモンスター教会は、選択肢からすぐに削除した。




 


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