入学式の日
19時にあげるんだって思ってたんですけど、書いてたら20時になってました。不思議。
「それじゃあお父さん、行ってきます!」
「行ってらっしゃい、みゆ」
お父さんにハグをしてもらって、お母さんと手を繋いで小学校の校門をくぐった。
綺麗に開花した桜が良く映える。なんだか気分がいいね!
いわゆる小学校の入学式です。数年前に今の両親に引き取ってもらって、すくすくと育ちました。
自分で言うのもあれだけど、小さい頃からの積み重ねで文武両道と言っても良いのでは、というレベルまでいけたと思う。勉強は前世のお陰で得意だし、運動も結構体力がついたはず。お母さんとお父さんの方針は子どもの好きなようにさせてくれているので、基本的になんでもできた。
それに、わたしはこの小学校生活のために様々な準備をしてきたのだ! さっきも言ったような勉強とスポーツ、聞き取りやすい話し方とか、常に笑顔……は無理でも微笑んでいられるように表情筋を鍛えたりとか。もうとにかくぼっちにならないためだけにすっごい頑張った。
ということで、準備は万端。入学式ということもあって、荷物も少ないので自然と足取りが軽くなる。
なんなら鼻歌もつける大盤振る舞い! ふんふん~ふふ~♪
「みゆは本当に声が綺麗ね~」
こんな感じでお母さんがよく褒めてくれるので、それなりに自信も持てる。
「お母さんありがとう!」
「どういたしまして~」
お母さんはニコニコしてる。誰かが少しでも喜んでくれるなら、いろんな声を出せるようになる練習も頑張れる。
そうそう、今の目標なんだけど、低い声と高い声、細い声と太い声。そういうのが全部出せるようになるために、頑張っています。
それもあくまでもひっそりと。なるべくはやく独立したいと考えてるわたしにとって、そういった特技は今後必要になる……と思う。
「ご入学、おめでとうございます。お名前の確認を……新一年生の方はここ、保護者の方はこちらです」
小学校の玄関前で、机が置かれて出席確認とクラス紹介がされている。
お母さんが全部やってくれるだろうけど、気になったので机に手を置いて背伸びして見てみる。
ほうほう、1クラス30人ぴったしか……1年1組から1年4組まであるらしい。120人ってこの学校、結構大きいですね……。
わたしの名前は2組にあった。とりあえず1年2組のクラスみんなの名前を覚えたので、背伸びをやめる。
「あ、これからよろしくお願いします!」
そういって、受け付けをしてくれた先生っぽい人におじぎをした。これで心証良くなったはず……え、下心があるって? 良いんだよぅ! 内申点のためなんだからさぁ! レン君もそう思うよね? うん、レン君も天才! って言ってくれてるよ。
あ、レン君はわたしの友だちです。
「それじゃあみゆちゃん、そこのお姉さんと手を繋いで、体育館に行ってくれるかな?」
「はい!」
返事は元気よく。ここ大事。
先生に言われた方を見ると、おそらく高学年……5年生くらいかな? の子が手を振っていたので、小走りで向かう。
お母さんとはここで一度お別れだ。周りで泣き出す子もいるのかなぁって思ったけど、幼稚園保育園である程度の親離れができているみたいで、駄々を捏ねる子がいても泣く子はいないみたい。
「はじめまして、お姉さん。わたしはみゆ! お姉さんは?」
「はじめまして、みゆちゃん。私の名前は美鈴って言うの。よろしくね」
「みすずお姉さん、よろしくお願いします!」
小学生にしては大人びてるみすずお姉さんに手を繋いでもらって、体育館まで歩く。
体育館は教室のある棟とは別の棟にあるみたい。本当に広い学校だなぁ。低学年の子とか絶対に迷いそうだけども。あ、おはようございます!
「元気があって良いね。おはよう」
廊下を歩きながら、すれ違う人全員に挨拶をする。こういうの大事だと思うの。小学校で何をしているのかっていう話だけど、第二の人生な訳だし前世でしなかったことをしてみたかった。
そのひとつが、これ。挨拶とか明るくしたりとか。あるのなら生徒会にも入ってみたい。学校生活の満喫するのだ!
歩いて数分で体育館について、みすずお姉さんに指示された場所に固まっておいてある椅子に座る。
「みすずお姉さん、ありがとうございました!」
「どういたしまして。入学おめでとう、めいっぱい楽しんでね」
「はい!」
そうしてみすずお姉さんは手を振りながら戻っていった。まだお手伝いがあるんだろう。
歩きながら見た感じだと、ある程度の感覚を置いて固まってる椅子群が四つ、その後方にパイプ椅子が大量に置いてある。前方にある四つが一年生用で、後方のは保護者用と見た。
一年生用の椅子の前には舞台があって、その真ん中に教壇っぽいのがあるので、校長先生がそこでお話をするんだろう。
ちなみにわたしの右隣の椅子には誰もいない。というか空気。最前列の一番右に座っていて、左側はまだ誰もいない。
1年2組では一番乗りだ、やったね。
でも周りに誰もいないのでぼーっとしていると、左の席に誰かが座った。
来た! そっちを向いて、肩をとんとんとつついてみる。
「はじめまして! 同じクラスのみゆって言うの。あなたは?」
「え、と……しほ。星野しほ」
「しほちゃんだね! これからよろしく~」
さっと手をだす。しほちゃんはキョトンとしてたけど気づいたのかゆっくり手を出してきたので、そのまま握手。
これでもう友だち!
「ふふふ……友だち1号ゲット……」
「み、みゆちゃん? どうしたの?」
「あ、なんでもないの! ちなみにしほちゃんは好きなものってなーにー?」
「す、好きなもの? ……本、とかアニメとか、かな」
「アニメかぁ。キュアプリとか?」
「! みゆちゃんも、キュアプリ好きなの?」
「うん、好きだよ! しほちゃんと一緒だ!」
「この前の放送の――」
しほちゃんと話すのが楽しくて、女性の先生が「入学式をはじめるけど、みんなは静かにできるかな~?」という言葉が聞こえてくるまで夢中で話していた。
お互いに「しーっ」と口に指を立ててお話を止めたのがおかしくて、つい笑ってしまう。
こんなのは前世の記憶になかった。友だちと話すのがすごい楽しい……今まで頑張ってきて良かった。
しほちゃんとの会話を思い出すとニマニマしてしまい、それに気づいたしほちゃんが少しだけ笑って手を繋いでくれたのでまたニマニマしてしまった。
ちなみに校長先生の話は全く頭に入ってこなかった。
気づいたら終わっていた校長先生のお話のあとは、各クラスの先生紹介だった。1組はかっこいい男の人で野原先生。2組は優しそうな女の人で古郡先生。3組は綺麗な女性の古河先生。4組はタンクトップっぽいのを着たいかにも体育会系の河合先生だった。ちゃんと覚えておこう。
紹介が終わると、各クラスの先生の後を着いていって教室に移動することになった。
古郡先生の後ろを、わたしとしほちゃんで並んで手を繋いで歩く。するとその後ろの子たちも、2列になって手を繋いで歩き始めた。
ほぅ……誰かと同じ行動を取るだなんて……日本人だなぁ。あっ、そこ! 男女で手を繋ぐだなんて全くもってけしからん! そういうの、よくない! 不純異性交遊……いや不純じゃなく純粋か。
くっ、こうしてリア充教育がなされていくのか……。
「みゆちゃん、どうしたの?」
「いや、リア充教育がね……」
「?」
小声で言ったため、しほちゃんにぎりぎり聞こえてるかそうじゃないかくらい。でもしほちゃんはそんな言葉知らないはず。
あぁ、どうか君だけは純粋のままでいてくれ!
そんな気持ちが伝わったのか伝わってないのか、手をにぎにぎしてきたのでわたしもにぎにぎする。なんかちょっと楽しい。
「ここが1年2組の教室です。左の奥から二列ずつに、今となりにいる子と座っていってくださいね」
ほーん、名前順で座るわけじゃないのかな? しほちゃんの手を優しく引っ張って、隣どうしですわる。黒板を前にしたときに左後ろの窓側の席だ。やったね。
わたしたちが動いてから、止まっていた他の子たちも動き出した。わたしの前に座ったのは少し肌が焼けている男の子で、その子の隣にいるのは大人しそうな男の子だ。
大人しそうというだけで、人見知りが発動しているだけかもしれないけども。
「わたし、みゆって言うの。これからよろしくね」
「……しほです。よろしくお願いします」
「オレは赤羽充。んでこっちが寺内裕太、幼なじみなんだ。よろしく!」
「よ、よろしく」
肩をつついてから挨拶すると、みちる君は体ごと振り返って、ゆうた君は振り向いて答えてくれた。
「オレのお兄ちゃんが言ってたんだけど、この席順ってもう変わらないんだってよ」
「あ、それ先輩も言ってた……」
「そうなんだ? じゃあしほちゃんずっと一緒だね!」
「うん、嬉しい。ゆうた君とみちる君もよろしくね」
「あぁ、こういうとき、末長くよろしくお願いしますって言うんだ!お兄ちゃんが言ってた」
「みちる、それは微妙に違う気がするよ……」
「あはははっ、それ結婚するときに言うことだよ!」
「確かにそうかも。みちる君のお兄さん……」
しほちゃんの中で会ってもないみちる君のお兄さんへの評価が下がっている気がする。ちょっと面白い。
「はーい、静かに~。……ホームルームを始めます」
小学1年生にしてはかなりはやく静かになったんじゃないだろうか? もちろんわたしたちもお互いに唇に人差し指を当てるジェスチャーをして静かになった。
後ろの教室はまだガヤガヤしてるから、誇っても良いんじゃないだろうか。
「まず、1年2組のみんな、入学おめでとう。既に友だちを作っている子もいるけども、明日は一年生どうしの交流会と、教科書の配布があります。交流会と言っても軽いレクリエーションをするだけだから、体操着じゃなくても動きやすい服装で来ること。教科書は学校に置いていって良いけど、持ち帰りたいときはカバンを忘れないようにね。詳しいことは今から配る手紙に書いてあるから、お家に帰って親に見せてあげてね」
そう言って配られたプリントを、事前に用意してもらったクリアファイルに入れる。うすくて柔らかい、透明なかばんっぽいのもあるけど、嵩張りそうなのでクリアファイルにしたのだ。
「みんなしまったね? それじゃあ起立。気をつけ、礼」
『さよーなら!』
教室のすぐそばの廊下で待っていた親の元に子どもが歩いていって、帰りはじめる。
わたしのお母さんも見つけたので、軽く手を振っておく。
「しほちゃん、一緒に帰ろ!」
「うん!」
しほちゃんと一緒に廊下に出ると、しほちゃんのお母さんらしき人が来て、わたしの近くにいたママと挨拶をしている。
「お母さん、しほちゃんっていうの。一緒に帰ってもいい?」
「みゆ、友だちができたの? もちろん良いのよ」
「ママ、みゆちゃんと一緒に帰りたい」
「しほにお友だちが! みゆちゃんって言うのね。ちょっとだけ待っててくれる?」
しほママがそう言うと、わたしのお母さんと何かを話しはじめる。とりあえず、しほちゃんと手を繋いでにぎにぎしたりして待つ。
「しほ、みゆちゃんのお家としほのお家は近いから、毎日一緒に登下校できるわよ」
「ほんと! やった、うれしい……」
「お母さんそうなの? やったぁ、しほちゃんと一緒だ~」
二人で歩く帰り道は、入学式に行くときよりも楽しかったのは当然だった。




