第93話 助けを望む者
さぁこれから街を立て直していこう!
―― という気風みたいなのが鳴りを潜め、
元から住んでいた人達と 復興のために新たに入ってきた人達の間で
ちょっと溝ができている……みたいな話を、
食材を買うために少し街中を歩いただけで、
立ち話している人達や 店の客と主人との話で聞き取ることができた。
どちらが悪いということはないはずなんだけど、
段々と軋轢ができていくのは、おれだってマズいと思ってる。
けど、それをおれがどうこうすることもできないし……
おれも結局は、流れてきただけの旅人だしね……
アルテナが街から出よう と言えば、
おれも一緒に出ていくだけだし……
自分が世話になってる(むしろ世話してる? )お店へ戻るために、
ちょくちょく表の大通りと裏の通りを行き来しながら おれは、
自分が変な揉め事に巻き込まれないように気を付けながら歩いていた。
おやっさんのお弟子さん達と買い物に来てた時も、
ガラの悪い奴に絡まれたこともあったから、
本当は独りで出歩きたくなかったんだけどね……
それに この世界じゃ黒髪は本当に珍しいみたいだし、
今でも見知らぬ他人からジロジロと見られて何か言われるのも嫌だった。
以前アルテナと一緒に歩いていた時は、
アルテナが露出度の高い鎧を着てたから、
男の自分よりアルテナの方に視線がいってたからなぁ……
アルテナは、またあんな恰好をするんだろうか?
―― ん?
「―― !? 」
「へへっ、やっと捕まえたっ!! 」
―― くぐもった声と男の声?
裏通りの更に奥、家と家の間の細長い路地から聞こえた。
(もしかしてヤバいことにっ!? )
そう思って、慌てて周囲を見たうえで 建物の角からそっと覗き見た。
家々の影で うす暗くなっているけど――
「んん~~!! 」
「お前、うちの屋敷に来たことのある『色売り女』だろ! 」
―― ピンクの長い髪をポニーテールにした女性を、
男が後ろから抱き着いて 手で口を押さえていた。
このままじゃヤバイ。
それがわかっていたけど、覗き見ているだけで、
おれは頭が真っ白になって動けなくなっていた。
アニメとか漫画とか動画とか、そういう場面はよく見てきた。
助けられている場面も助からない場面も見てきた。
「 ~~ !! ~~ !! 」
「暴れんな! こっちは屋敷が潰れて溜まってんだよ!! 」
女性が、口を押さえている手を引き剥がそうとしたり、
抱き締めている手を剥がそうとしても、男の力の方が強く解けなかった。
自分が『襲われた』時と同じように――
(助けないと……)
呼吸が荒くなる。目もチカチカしてきた。
―― 今、襲われている彼女を助けられるのは 誰だ?
(助けなイと……)
吐き気がしてきた……足も震えて、今すぐ逃げ出したい……
―― おれが、彼女を助けられるのか? 本当に?
(誰か助けを……)
「おれ独りだけ生き残って……ヤらせろよ!! 」
周りを見るけど、誰も来そうにない……
―― おれが助けに行っても、返り討ちに遭うだけでは?
(誰か……誰が……? ―― )
「っ、助けて―― !! 」
わずかに緩んだ男の手から 女性の声が耳に――
頬から伝い落ちて、薄暗い空間でキラりと涙が落ちたのが目に――
―― を助けられるのは『誰』だ?
今、ここで彼女を助けに行けるのは――
―― おれ以外の誰がいる!?
「―― っ、ぁぁぁああああああああっ!! 」
気づけば大声を上げて二人の元へ駆け出し、
「っ!? 」
「な、なんだっ!? 」
目を見開き驚く女性と、
同じく驚きながらも女性を盾に向きを変えた男、
おれは女性に抱き着くようにして、二人ごと 石畳の地面に押し倒した。
「っ!? 」
女性は おれ達に挟まれて苦しそうな声を上げ、
「がっ!? 」
ドンッ とも、ゴッ とも聞き取れる鈍い音とともに、
男は声を漏らし、女性から手を放して ぐったりとしていた。
背中に背負った荷物が重くて起き上がるのに苦労したけど、
おれは起き上がりついでに 女性の手を引いて起こすのを手伝い、
「逃げるよ!! 」
そのまま女性の手を引いて、
この空間から表へ―― 店の方向へと逃げ出した。
*
「―― ということがありまして……」
ソーマの報告を聞いた加工屋のヒューズは、
(……独りにさせるな って、お嬢ちゃんに言われたからなぁ……)
単独で出歩いたことを叱るべきか、
襲われていた女性を守ったことを褒めて良いのか、
複雑な心境になっていた。
その襲われていた女性はソーマに手を引かれるまま、
義弟の店の 義弟の嫁の私室に連れられて、
安堵から緊張の糸がきれて泣いて、そのまま疲れて眠っているらしい。
「まぁ守れたから良かったが、あまり危ない真似はするな。」
ヒューズはそう言って、彼の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「それと、次からは誰か連れていけ。休んでようが かまわねぇよ。
おれからも言っといてやる。わかったな? 」
「は、はい……」
ソーマは されるがまま、ヒューズの言葉に同意していた。
その日の夜、ソーマには内緒でヒューズ達は、
『ソーマが女性を助けた』ことを祝って
加工屋の職人連中も巻き込んで全員で酒を飲んで騒ぎ、
翌日は酔いの残りが酷く、仕事ができなくなって義弟の嫁に怒鳴られていた。




