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第28話 出発、ホルマの街

「よし、おれの準備は終わったよ。」


 下駄もどきと、この世界でもらった布の服に荷物背負い用の胸鎧。

そして体ごと振り向かないと後ろが見えないほど大きなカバン。


 いやぁ、この鞄の重さが懐かしいね。


 ……懐かしいで済むくらいには、

おれの体は鍛えられたみたいなのがねぇ……



「後は、あの二人を待つだけね。」


 アルテナは左腰に剣を帯び、いつも通りの露出度の高いビキニアーマー。


 おれとアルテナは、お揃いのサンバイザーもどきの額当ても、

しっかりとつけた。



 早朝から旅の準備を終えたおれとアルテナだったけど、

その目論見は速くも崩れ去ってしまった。


 屋敷を空けるブラウさんが街へ話をつけに行って、

帰って来る頃には昼を過ぎていたからだった。


 それにシアンさんもシアンさんで珍しく寝坊するし、

荷物をまとめるのにも時間がかかっていたし。


 屋敷の中に貯蔵していた食べ物とかの始末にも手間取ったっけ……


 今までおれとアルテナだけだったからなぁ……



「いや、すまなかったね。

思ってた以上に街のみんなが放してくれなくてね。」

「い、いろいろ手伝っていただいて、ありがとうございます……」


 ちょっと出端を挫かれた気もするけど、

ブラウさんとシアンさんも一緒に、おれたちはホルマの街を出ていく。


 街を囲う石壁のところまで、ブラウさんを見送りにきた人達に見送られ、

まるで自分が見送られるようで悪い気はしなかった。


 旅が終われば当然――


(二人ともこの街に帰っていくんだろうなぁ……)


 ――なんてことを、

始まったばかりの今なのに そう思ってしまっていた。



 村ののどかな感じも悪くないけど、このホルマの街も悪くないんだよね。


 ……ブラウさんの屋敷に泊まっていたからなのが、

大きな理由なんだけども。



*



「……やっと行っちまいやがったか。」


 彼ら四人がホルマの街から旅立っていくのを、

建物の二階の一室から僅(わず)かに開けた木窓から眺め、

吐き捨てるように男が呟いた。


 この男、前日にソーマに改心させられた荒くれ者な冒険者であった。


 いなくなって清々するようなもしくは名残惜しいような、

そんな気持ちで、ただただ見送っていたのだが、



「ん? 」


 そこから見渡せれる範囲でだけでも、

こそこそと動く者たちの姿が彼の目に付いた。


 彼らの後を尾行する者、

街中に散らばっていく不審な者達の姿。



 いずれも彼から見れば、


(なんぞ悪さでもしようってのか? )


 なのである。



「ちっ、しょうがねぇなぁ。」


 ガシガシと頭を掻いて男は舌打ちをし、

武器と装備を着こんで一階へと降りていった。



「おうギンよ どうした? 冒険か? 」

「それとも喧嘩か? そっちなら手を貸すぜ? 」


 一階では酒場になっており、

昼間から酒瓶片手に赤い顔をした男達が彼を迎え入れた。


 彼同様ホルマの街の冒険者であり、

彼の取り巻きとして暴れてたりする連中であった。



 酒場には他にも老人であったり給仕の女性もいるのだが、

彼らが集まっているだけに誰も彼もみんな血の気が多いようであった。


「どうなるかは おれにもまだわからねぇ、だが、悪者退治にはなるだろうよ。」


「ギンにしちゃ妙な話だな? 」

「この前からどうしたんだよ? 」


 そう言って口の端をニィっと吊り上げている彼を見て、

男達は顔を見合わせ不思議そうにしていた。


 視界の端で彼の様子を見ていた他の連中も

いつの間にか各々の会話を止め、ギンの次の言葉を待っていた。


「まぁなんせ、おれはこの街を守る冒険者だからな!

ついさっき、この街で変なことをやらかそうとしている連中を見つけた。

だが数が多そうなんでな……お前ぇら、手ぇ貸してくれるか? 」


「……あ、ああ! 」

「もちろんさ! 」


 ギンの誘いに目をぱちくりとさせていた男達も、我に返ると快く乗っていた。


「なんだいなんだいお前らだけで、あたいも仲間に入れとくれよ! 」

「そうじゃ、面白そうなことならこの爺も加えてくれよ! 」

「ギンさん、そういうことなら手伝うぜ? 」

「おれもおれも! 」


 と、その場にいた他の連中もわいわいと協力を名乗りを上げて騒ぎ立てた。


「へっ、騒ぐの好きだもんなぁお前ぇら……

わかった! お前ぇらまとめておれに手ぇ貸せや!! 」


「「「「「おう!! 」」」」」


 この日より、ギンは以前ほどに冒険の依頼を受けることはなくなった。


 なぜなら、ホルマの街の治安維持や自衛に

持てる力を注ぐようになったからだ。


 酒と暴力に明け暮れ『刃こぼれのギン』だの『暴狼のギン』だのと

呼ばれていた彼は、後にこう呼ばれるようになる。


 『ホルマのギン』または『護鬼王のギン』と――。


 だがそれは、後々の別のお話。

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