↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/87

MR-075「柱の元にあった物」


 少し、昔の話をしよう。


 まだこの国が天使の脅威に常に晒されていた頃の話だ。周辺国と比べていち早く、祈祷術を使うドルイド、マジクル、ウィザードたちへと報奨金を出すようにしたのがこの国だ。それまではただ強いというだけの評価だった術士たちを、対魔獣……そして、対天使での切り札であると明確に位置付けた。


 その中でも、特に強力な力を持った者たちを国は英雄と呼び、率先して魔獣や天使の情報を流していた。時には兵士の援軍さえ行い、戦力を集中的に運用することで国内の脅威をどんどんと削り取っていったのだ。結果として、この国からは多くの脅威が姿を消した。それまでは常に天使たちにおびえているような生活だったのが、いつしか限られた土地でしか見ることがない、そんな状況になっていったのだ。


 人は、困難が遠ざかればそれを忘れていく。それでもなお、天使という物は人々の心の中に恐怖の対象として刻み込まれているはずの存在であった。一部の狂信者を除けば、まさに恐怖そのもの……。


「そいつが互いにつぶし合う場面に出くわすとはなあ……」


「クロ……強い」


「こいつはたまげたねえ」


 正直、クロのことを甘く見ていたと言っていい。俺が知っているのは怪我をした1対の翼の状態だったからなおさらだろうか? 少なくとも、今のクロとあの時出会っていたらエルナを逃がしつつ、討伐を選んでいただろうと思う。


 体格も、二回りほど大きくなったクロは同じような顔をした天使たちを相手に、全くひるむ様子はなかった。あいつの言っていた通りならば、クロは今まで俺たちが見て、滅ぼしてきた天使とは目的が違うのだという。全てを信じるわけにもいかないが、今……目の前で天使たちに無造作に見えるほどの動きで切り付ける姿は違いを感じさせた。


 共存と話し合い。そう言っていたクロは確かに話しているようで話していない天使と違い、会話が出来ていたように思う。これだけの天使を相手にし、演技ということがあればそれはもう、俺たちの見る目が無かったと思うしかないだろう。


「この気配は……魔獣たちも出てきやがったか。星の決戦を再現するつもりだというのか?」


「規模は大したことが無いが、確かに見たような光景だねえ」


 いつしか、俺たちから離れた森から明らかに普通の姿ではない獣たちが飛び出してきた。それは魔獣……人間の敵でもある彼らは、天使の敵でもある。結果的に共存が出来ている人間と魔獣と違い、天使は魔獣も排除の対象としていた。正確には、従わない魔獣は全てその対象だった、だが。


 かつての戦いでの人間の役目を、たった1人……と呼んでいいのかわからないがクロだけが行っている。


「ねえ、おじ様」


「ちっ、仕方ねえ。アイツが負けて散らばっても面倒だからな……エルナ、婆さんから離れるなよ」


「腕が鳴るねえ。土産話にはちょうどいいさね。こっちは任せて思いっきりやっておいで」


 今のところ、光の柱から出てくる天使たちはせいぜいが20体。倒すだけならなんの問題もない……そんな程度だ。右腕に、エルナからの霊力が絡みつく。解呪の祈祷術を使う前にそうやってなじませると成功しやすいと訓練の結果学んだことだ。何度も味わった独特の感覚と共に、俺の右腕から重い呪いの感覚が消えていく。


「援護は任せるぜ、婆さん」


「誰に言ってるんだい?」


 普段見るような婆さんらしい顔から、一人の戦士としての顔に戻るのを見て……かつての大戦時、俺とは別の意味で一人軍隊のような呼ばれ方をしていたことを思い出した。むしろ、降り注ぐ攻撃からどう逃れるかを気にしていたような気がするな。


 2人の視線を背中に浴びながら、勢いよく駆け出してクロと天使共の戦いの中へと突入していく。


「邪魔するぜ!」


「オマエは……好きにするとイイ」


 見た目は多少変わってもカタコトなのは相変わらずであった。周囲に遮るものが何もない、俺と敵しかいない空間。思えば、誰かを守らずに天使と戦うのはいつ以来だろうか? アイツが死んでしまって……俺は一人でつっこむのがどこかで怖くなっていたのかもしれない。


 だが、今の俺は一人でもつっこめる。生きて、帰るという覚悟が出来たからだ。


 乱入者である俺に、無表情なままで何体かの天使が振り向くのがわかる。普通の人にとっては絶望そのものであるその相手に対し、俺がしたことは剣を持ったまま切っ先をそちらに向けて言葉を紡ぐだけであった。


「貫け、月光槍!」


 太さはちょうど剣ほど。そんな光の槍がまだ太陽の高い時間帯だというのにはっきりと見える。当然と言えば当然だが、その威力は夜よりも低い。それでも1体の天使の額をあっさりと貫通し、天使の仮面に太い杭を打ち込んだかのような姿となって相手は倒れ込む。そのまま全体が崩れていくのを視界で確認しながら、次の相手に切りかかっていた。


 元々、クロ1人でもなんとかなっていたところに俺が乱入するのだ。一気にバランスは崩れ去る。そこにさらに降り注ぐ力の雨。太い物と、細い物があるのは恐らくは婆さんと同じ祈祷術をエルナが合わせて使っているからだろう。習熟の差が出た形だが、逆にそれは回避しにくい物になっている。天使だけでなく、この後相手にすることになるだろう魔獣たちまでもがその力、炎の矢の前に被害を広げていく。


「ナント、見事ナ」


「それで全部倒せばいいのか!?」


 こうしてる間にも、少し離れた場所にある光の柱からは天使が徐々に出てきている。顔だけ、手だけなんて奴もいるが何かあると考えると下手に柱には術は打ち込めない。なんとなくだが、壊すのは簡単に感じるのだが……。


「あのハシラの下に翼がウマッテいる。柱をコワシ、それを取り除けバ」


「それを早く言え! 行くぜ!」


 我ながら無茶を言うなとは思うが、だったら最初からこうしておけばよかったと思ったのも確かなのだ。群がる天使共を隕鉄剣で切り裂き、婆さんとエルナの援護の術に焼いてもらう。それを繰り返しながら柱に近づき、一気に霊力を解放した。


「夜の嵐よ、吹き荒れろ!」


 熟睡していても叩き起こされる突然の嵐のように、俺の前側に暴風が吹き荒れる。それはただの風ではなく、祈祷術としての力の混ざった風だ。地面ごとえぐるように俺の前を力ある風が襲い……柱がねじ切れるようにそがれていく。


「おいっ!」


 俺がそう叫ぶが早いか、横を影が通り過ぎ……この風でも舞い上がっていない人の腕程の大きさはある翼をつかみ取ったクロ。まさか取り込むのかと思いきや、その手の中に太陽とも月とも思えない光が産まれ、翼は光の粒となって消えていった。


「コレデ、終わりダ」


 クロのいうように、目に見えて天使たちの動きが変わった。まるで指示を出す奴がいなくなった兵士のように、半ば棒立ちを始めたのだ。まだ残っていた魔獣たちに噛みつかれてもそのままというのは不気味ですらある。


「おい、話を聞かせてもらうぞ」


「カマワナイ」


 そうして残りを片づけようとエルナたちに振り返った時のことだ。俺は、その気配を感じた。天使……その出現場所は……エルナと婆さんの後ろ!


「避けろ!」


「え?」


 叫びもむなしく、エルナの真後ろに出現した天使は……彼女を背後から羽交い絞めにしたのだった。


感想、拍手はいつでもお待ちしております

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。

小説家になろう 勝手にランキング

○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。