MR-071「格上食い」
「はぁ……はぁ……」
「動きを止めるな! 相手の動きを誘え!」
エルナとドレイクが戦い始めてしばらく。今のところエルナは怪我を負うような状態になっていない。本来一対一となれば勝つのは難しいだろうが、すぐそばに俺がいることでドレイク側の牽制になっているのだ。
いつ俺に攻撃されるかというのを気にしながらのドレイクの行動は、遅い。それでも小柄な少女にとっては死、そのもの。自然と大きく回避することになる。そんな中でも、ドレイクの口元や足に砂がぶつかったり、植物が絡まるのはよくやっていると称賛されるべき動きだ。
「えいやっ!」
「よしっ!」
思わずそう口にしてしまうほど、今のエルナの行動は上手い具合に決まった。勢いよく走りだそうとしたドレイクの眼前に、光を集めた目つぶしを放ったのだ。勢いは止まらず、姿勢を崩して倒れ込むドレイク。そこにありったけの祈祷術……一番想像しやすかったのか、岩による穂先のような物がどんどんとぶつかる。打撃にはなっているようだが、まだ致命傷には遠いようだ。例えエルナの手に、エルダートレントの杖が握られていても、ドレイクの皮は……丈夫だ。
「あんまり効いてないんだけどおじ様っ」
「当り前だ。ドレイク相手にはなまくらで切り付けても弾かれるぐらいの相手だ。よく観察してみろ! 相手が嫌がることは何なのか、その理由を!」
少しばかり助言をし過ぎたかな、と思いながらもめまいから復活してきたドレイクを誘導し、俺を殴るべく片足が上がったとこですれ違いざまにもう片足に切り付けて転がしてやる。それまでの動きと違い、慌てた様子で回転するドレイク。砂煙が少し舞い上がるほどの勢いだ。わずかな時間に少しでも息を整えようとしているエルナは今の動きを見れたかどうか……後何回かやってやるか。
何度か本命の動きを交え、ドレイクを捌き続けていると……エルナの気配が変わった。怯え、迷っていた瞳から俺にあの時、天使討伐を依頼した時のような決意のこもった瞳。そうだ、それでいい。
「そういうことっ! ほら、こっちよ!」
調子を取り戻したことがすぐにわかる声を上げ、エルナの放った岩の塊がドレイクの目元を襲う。たまらず回避した相手の怒りは彼女に向かい……逃げるエルナをドレイクは追いかける。そのままエルナはちょっとした岩の上に飛び乗る。ドレイクにとっては一息に上れそうな岩……だがそれが正解だ。
「結局はトカゲと同じっ!」
興奮した声と共に、岩を駆けあがりかけたドレイクの首元に岩の杭が地面から伸びる。決まった術しか使えないウィザードと比べて、柔軟性に富むのがドルイドの強みだ。状況に合わせて、本人の素質と実力がかみ合えばなんだって出来る。エルナの思う通りに生み出された岩の杭はドレイクの大きな体を跳ね上げ、見事にひっくり返す。
「静かなる隣人よ、束縛に力をっ!」
さらに霊力を練り上げ、杖を振り下ろすと同時に周囲にある草が爆発でもしたかのように一気に膨らみ、あおむけになったドレイクの四肢と首を縛り上げる。尻尾はびたんびたんと動いているがそれだけだ。
そして見事に、緑色と砂の茶色の中に、やや白い無防備な腹が目立つ図が出来上がる。
「さよならっ!」
一際大きく、鋭い岩が少し上に産まれ……しっかりとドレイクの胸のあたりを貫いた。このやり方は手順や細かいところは違えども、ドレイクを倒す一般的な手法の1つだ。前衛が防御し、盾等でひっくり返し、そこを攻撃するのだ。
「はー……はー……」
ドレイクが口から大量の血を吐き、痙攣し始めたことで終わったと思ったのだろう。ふらふらとしながらもドレイクに近づいていくエルナ。だが俺はそれを褒めることなく、咄嗟に分け入っていた。
「!?」
「とどめの確認をせずに近づくんじゃない!」
言い終わった直後、瀕死だったドレイクの顔がこちらを向き、力がさく裂する。収束も出来ず、自爆気味のブレスだ。障壁は間に合わず、咄嗟に圧縮した風を即席の障壁に見立ててなんとか相殺をした。周囲には力が散り散りに暴れ、砂地はえぐれ、小さな岩は転がっていった。散らしてもこれだ……食らっていたら危ないところだった。
「最後は課題だが……まあ、よくやった」
「おじ様……あっ、怪我……血が……」
言われ、ようやく両手や顔に防ぎきれなかったブレスのせいで痛みがあることに気が付いた。大きな怪我ではないし、すぐに治ると思える物だ。それでもエルナにとっては自分の油断で怪我をしたということが衝撃なのか、おろおろとしだす。
「大丈夫だ。それより、ちゃんと死んだかの確認と、討伐部位を切り取って来い。まあ、ドレイクは全身金になるがな」
「う、うん……」
よろよろとした足取りだけのままではあるがエルナは霊力を練り、ドレイクの傷口と目玉に霊力の塊のような光を放つ。衝撃を与える簡単な術だ。それがぶつかっても動かないドレイクを見て、ようやく相手が死んだことの実感がやってきたらしく、ふらついていた足元もしっかりとしてきたようだ。
「ほぼ初見でやれるなら、十分だね」
「ちょっと厳しすぎたかなと思ってるよ。援護が間に合ってよかった」
解体を始めたエルナを少し離れたところで見ながら、怪我の具合を確認していた俺。背中にかかった声に振り向かずにそう答え……解体を手伝いに向かった。さすがに少女1人にやらせるにはでかすぎる。
地面に穴を術で掘り、内臓やらいらない部分は放り込み匂い対策とする。しばらくはドレイクがいた場所に他の魔獣だとかが来ることはないだろうが……まあ念のためだ。本来ならばどう持って帰るか悩むところだが、大体に切り分けたところで今回は俺の影袋に放り込む。通常は何人もで組んで戦う相手だからな……このぐらいはいいだろうさ。
「ほれ、コイツがドレイクの一番のお宝だ」
「綺麗……これ、石?」
赤い、炎のようなきらめきの赤ん坊の拳ほどの石。竜石と呼ばれるドレイクに限らず、竜種の胸元にあるものだ。霊力の塊とも言われる、貴重な1品である。お守りにもなると言われるし、霊力をためることも出来る祈祷術士垂涎の品だ。
「うっ、じゃあ杖と同じみたいに高いのね」
「一流は道具も一流を持つもんさ。生き残るには妥協は厳禁だよ。ほら、終わったんなら帰って休むかね」
「婆さんの言うとおりだな」
この場には俺達3人しかいない。そしていちいち説明もしていないのでエルナがそのことを知ることはしばらくないだろう。ドレイクの討伐が、世間的にはどれだけの難易度かを。
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