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MR-064「歪な豊穣」


 王国の東の土地。隣国とのきな臭い噂も出ているこの街で、俺たちが出会ったのは戦争の噂……だけでなく、天使が祈りを受け取って土地を富めさせているのではないかという疑惑だった。あり得ないと否定するには問題の多い現実から、俺たちはその調査と必要であれば討伐の依頼を受けたのだった。


「とはいえ、正面から乗り込むのは考え無しのすることだ」


「それはそうよね……けど、どうするの? おじ様だけで忍び込むのは簡単だとは思うけれど……」


 彼女の言うように、俺一人、あるいはエルナを連れてでも夜に忍び込むといったことは簡単である。が、それでは調査がしっかり出来るとは言い難い。天使が原因であるというのが誤りで、ただ単にいつもと違う狂信者の集まりがあっただけ、というのが一番簡単な結末なのだが……さて。


 恐らくだが、その怪しい土地にたどり着いた後……地面を確かめれば一発である。というのも、天使とその上にあたるであろう存在と、この世界にいる神々は敵対関係にある。当然のことと言えば当然のことだ。なにせ、天使は他の神々の存在とそちらへの祈り、信仰を許容しないのだから。つまり、天使と神々の祝福のようなものが同居することはあり得ない。そうなると……天使が原因で豊作になるという土地は、他の神々の気配が全くない場所になるわけだ。


「とまあ、そういう状況のはずだ。まずは依頼を他にも受けながら土地の確認をしていく」


「はーい! そんな土地があったら……祈祷術が使えなさそう」


 そうあっては欲しくないなと思いながら、外に出ようとして気が付く。今のままというのも芸がないなと。俺は変装はお手の物だが、エルナはそうもいかない。服装や体つきさえなければ少年と思われてもおかしくないような短い髪だ。街で俺たちのことを既に見ているかもしれないと考え、ちょっと小手先だが仕掛けを使うことにした。


 エルナは宿に待機させ、一人買い出しに出ることにした。前準備として影袋から取り出すのは付け髭の類。ついでにちょっとした化粧品のような道具もだ。元々は夜間潜入用に使っていたそれらを身に着けると……。


「完全に別人だわ。私でも外じゃ服まで変えたらわかんないと思う」


「ならいいんだが。ちょっとお前用の物も買ってくる」


 そうして向かった先で買ったのは、カツラ。黄色という表現の似合うエルナの髪からあまり離れては本人がどう思うかと思ったので、あめ色に近い長髪の物を選んだ。汗も籠らず、外れにくい仕組みがくっついているのが気に入ったのだ。その分値段も結構……というかかなりする。どうも話を聞くと、人間の物ではなさそうだった。その正体はともかく、良い物なのは間違いないということでエルナの元へそれを持っていく。


「どう?」


「ああ、似合ってるぞ」


 実際にはそう細かいことはわからないが、メリッサらかつての仲間たちは女性にはこうする物だと散々言ってきたことがあるからな。迷わずに恐らく誉め言葉になるであろう答えを口にすることが出来た。そんな俺の感覚ではあるが、被る前とはやはり別人としての印象だ。女は変わる物である。


 そうして新しい2人組を装いながら、俺たちは周囲の探索と依頼にあった場所の探索を並行して進めることにした。両方やることで、その違いを明確に感じたかったのだ。


 約1週間後、俺たちは件の村の近くまでやってきていた。このあたりにも薬草の類はしっかりと繁殖しており、もし村人に見つかり問い詰められてもここまで取りに来ていると言えるような状況だった。


 だが……。


「おじ様。これ……変ね。このあたりからはっきりと違うわ」


「そうだな。これほどとは思わなかった。だが偽装は上手い。疑ってかからなければ見つからないだろうな」


 街道から村へと入っていくであろう道。村まではまだそこそこ歩くであろう距離で、その間に多くの畑があるだろうと思われた。そんな場所に……俺たちは明確な境界を感じた。壁があるというより、理屈が変わるという感覚と言えばなんとなくわかるだろうか?


「なんだか川とかに泳ぎ出したみたい。足元が不安だわ」


「祈りは……届くことは届くか」


 試しにそれを感じる場所に10歩ほど踏み入り、適当に祈祷術を試すと発動はするがそれまでに若干時間がかかる。祈りが遠くなっているというと大げさかもしれない。それよりもあまりやっていると土地の存在、天使に気が付かれるかもしれない。


「間違いないな……この土地は天使が汚染しきっている」


「そんな。じゃあここにいた神様たちは?」


 きっとわかってはいるのだろうが、聞かないわけにもいかなかったのだろう。悲しい表情のエルナに、俺も硬い表情で頷き返す。もうこの土地に、元々いた神々はいないのだと。ただ外に追い出されただけならいいのだが……この世界に降りてこられない強い神様と違い、自然に宿っていて身近な状態の神々は意外とその存在をあちこちに感じられる。逆に言えば、干渉できる神と言えるだろう。


「障害を排除して、元の状態に頑張って戻してもらうしかないな」


 総じて、そういった神々はその土地だけで考えるとあまり力は強くない。多くの祈りと、多くの同じような神々が集まることでその土地は栄えていくだけの力を得るのだ。そう考えると、この後の土地の具合を考えると少々頭が痛いがだからと言ってこのまま土地を放置するわけにはいかない。


「もし、土地の中で問題を起こすことで天使が気が付くなら、長居は出来ないがただ入って誰かをどうにかするだけでは終わらない。天使を引きづりださないといけないわけだ」


「それはそうよね。元から断たないと……でもどうするの? 村人を脅すの?」


 そんなことはしなくていいさ、とつぶやき準備をさせた。と言っても、エルナの場合はトレントの杖をしっかりと手にして、特定の祈りを捧げるだけでいい。その祈りとは……恵みを求める古来からの祈り。ただし、祈りを捧げる先は当然のことながら、元の神々である。


 怪しい村へと続く道を歩き始めてしばらくして、見えて来た村のそばにあった大岩に運命を感じながら2人して乗った。たまたま近くにいた村人であろう数名の男が俺とエルナを見て騒ぎ始める。そうだ、それでこそやる意味がある。村人が集まる前に、始めるとしよう。まずは念のために俺の腕の呪いをエルナに解除してもらい、別の祈りを始める。


「今日の糧に感謝し、明日の糧を願う。我は汝らの子……」


 実際のところ、こういった祈りはどこの村でもやっていることだ。ということは言い換えれば難しい言葉でなくても構わない。俺もエルナも同じような言葉を口にしているが、別にもっと簡単でもいい。大事なのは、そこに込められた真摯な祈りである。


 2人を中心に、土地から追い出された状況らしかった神々の気配を感じた。それは敵の集団に占領された戦地で、儚さすら感じるわずかな味方の集団のようだった。けれども、たった2人、たった2人の祈りはただの祈りではない。


「お前たち! ここは天使様を祈る村だ! 出ていけ!」


「そうもいかんさ。お前たちだって、前は天使ではない神々を信仰していたのに良く言えるな」


 祈りはエルナに任せ、俺は村人の相手をする。祈りを止めないエルナに対して何かしてこないとも限らないからだ。徐々にこちら側の神々の気配は強く、広くなっていく。元々この土地は……彼らの物なのだから。


 街道からじわりじわりと天使たちの影響力を侵食するように元の世界が近づいてくるのがわかる。だいぶ昔に、天使が闊歩している街を攻める時にも似たようなことをした覚えがある。英雄たち総出で祈りを捧げ、街を天使の支配下から取り戻したうえで仕留めたのだ。


 やることは、同じだ。


「さあ、出てきやがれ羽根付ども!」


 そして、俺の叫びに答えるように村の方向からなじみのある気配が複数近づいてくるのだった。

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