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MR-050「信じる者たち」


 王都そばの街で起きている行方不明事件、そして増えている狂信者たち。わかっていても打開策を打てない……そう兵士である父親から話を聞き、俺たちは自分に出来ることをということで探索に向かっていた。


 上流階級の住む区画にある市場、並んでる物も中流以下の区画とはやはり違う……そんなそばに霊力のよどみを感じた。あの狂信者と呼ぶにはなんとも情けない集まりの時とは似ているようで違う。


「エルナ、もし相手の言うことがその通りだな……と思う時があれば頭の中で天使を罵倒しろ。相手の祈祷術にかかりかけてる場合にはそれで解ける」


「そういう物なのね? わかったわ」


 実際問題としては、俺やエルナほどの霊力があればそうそう術にかかることも無いのだが、こういう場合には色々と道理を覆してくるのが狂信者の怖いところだ。ある意味では一心不乱に祈りを捧げている形になるので力が妙な向きに働くときもあるのだ。


「少し、聞きたいことがある」


「へい、らっしゃい。なんだい、探し物かい?」


 干したベリーを売っている店に立ち寄り、普通に試食もしつついくらかを買い、相手の懐に入り込む。と言ってもちょっとした雑談程度で終わっても構わない。目的は、このあたりの治安やそれに関係するうわさ話などだ。そのまま聞いたのでは怪しまれるからな、手はある。


「このあたりは住むにはよさそうだ……そう思ってな。どのあたりに話を持っていくのが良いだろうか?」


「へぇ……じゃあお得意さんになるかもしれないな。多少騒がしくても良ければいくつか空き家はあるんじゃないかな? 最近、引っ越した人が何人かいるからな」


 ちらりと、皮袋に詰め込んである金色の硬貨を見せてやれば相手の口も軽くなる。自分の物になるわけでもないのに、俺がここで家を借りるか、買い上げることのできそうな金持ちだと分かった途端にこれだ。

 そうして得られた情報はなかなか有意義な物だ。ぼかしてはいるが、このあたりに奴らがいる。


「ねえ、おじ様。どうしてアレでわかるの?」


「ん? そうだな……1つは基本的に祈りは夜だ。昼間は出歩くと目立つからな。2つ目は教会がいくつぐらいあるかどうか、だな。教会のそばだと奴らは活動しにくい。それらを合わせると……見えてくる」


 実際のところ、歩きながら怪しい個所を訪れればほとんどの場合、あたりにぶつかるだろうが余り騒がしくしてもな。泥を巻き上げすぎても後が困る。目標だけを一撃で、だ。


 適当に宿を取り、夜を待つ。エルナにもいつでも出かけられるようにとだけ言っておき、念のために窓からその様子をうかがう。平和……そのものである。だが、平和の陰には厄介事があることは俺がガキだったころから変わらない。


(天使を信じても……何にもならないのにな。何故人は天使を崇めるのか)


「よし、行くか。おっと、そっちじゃないぞ。上だ上」


「上?」


 夜も更け、あたりが暗くなったところで俺はエルナを抱えて窓枠から外に身を乗り出すと……上に飛び上がった。風をまとわせての少しばかり特殊な移動方法だ。叫ばないようにか、自分の口元を抑えているエルナに微笑みつつ屋上に着地する。


「出来れば飛び上がる前に言ってほしかったわ」


「次からはな」


 半月の出ている闇の中、そのまま建物の上を走り始める。いくつかの建物を飛び越え、向かう先は霊力の道を感じたあたり。上から下を伺い、道を確かめてさらに進む。そうしてたどり着いたのは大きな庭のある屋敷だった。


(そこそこ金持ちだろうが……変な誘いで傾いたか?)


 狂信者は基本的に食っていけなくなった奴らか、神さまに裏切られたと思うような奴らが多い。こっちがだめならあっち、というわけだ。そのことがどれだけ意味のないことか自覚が薄いか全くないのだろう。


「あのあたり、灯りがある。あそこ?」


「たぶんな。ゆっくり行くぞ」


 敷地の中にある離れのような場所から灯りが漏れていた。もしあの場所が祈りの場であれば、隠れた場所でこっそりとというよくある狂信者の集いとはやや方向性の違う場所になるが……どうだろうな。少なくとも、霊力の道はつながっている。


 気配を殺し、建物に近づいたときにそれを感じた。中の気配に、ではない。その離れ自体に感じたのだ。


「おいおい、冗談だろう……どうやってこんな町中にここまで……」


 何度目かの遭遇。何かといえば遺跡を建材として流用した物の気配だ。あれだけ危険だからと当時も破壊して回り、俺以外の英雄らも危険性を訴え、厳重な管理か破壊を推し進めていたのにだ。こんな場所で建物の中に多く感じるほどに遺跡だった物が残っている。


 俺たちの頑張りは無駄だったのか、そんな気持ちが湧きあがってくるのを感じた。


「どうしたの、おじ様」


「大丈夫だ……中を伺うぞ」


 ささやきにはささやきで答え、2人でゆっくりと窓を覗き込む。果たして、そこには10名ほどの男女が空を仰ぎ見る天使像に祈りを捧げている、狂信者の集まりがあった。聞こえてくる祈りの句であろう言葉はかなりはっきりしている。


(変な香を焚いている様子もない……単純に、祈っているのか)


 ただ祈っているのなら問題がないかというと、問題しかない。何度も言うが、天使は人間も、魔獣も、獣も自分たちの神以外を信じることを認めないからだ。少なくとも一般的には、な。


 頭を一瞬、例の黒い天使がよぎるがあんなものは例外中の例外だろう。他の奴に話したところで信じてくれる奴は片手の指ほどもいない自信がある。


 祈りは強弱を繰り返しながら続き、一通りの祈りは終わったようだった。天使像へと、奴らからの霊力が移っていくのを見た。祈りは……確実に結果に近づいているのだ。放っておくわけにもいかないが……さて。


「あれは……」


 視線の先で、一人増えた。中に入って来たのは老人。偶然というほかないが、例の男女の集まりに毒を放り投げた老人その人であった。まさかここも……そう思いつつも言葉通りなら正しく天使に祈りを捧げるこの場所はあれとは真逆に思えた。


「不届き者らには神罰が下ったぞ」


「「おお……」」


 淡々と語られる内容に、老人以外の男女たちから声が漏れる。こういった集まりでは一番いい場所へと案内されているのを見るとこの老人がリーダー格ということなのかもしれない。その後も話は賑わい、中身を気にしなければ地域の集まりのようにさえ感じるほどだった。


(いつ踏み込むか……そもそも踏み込む必要があるか? っと、あれは……)


 屋敷の門に、気配が近づいてきていた。しかも複数。慌てて俺もエルナを抱えて物陰に隠れて様子を伺うと……気配の主は明らかに兵士だった。この感じだと恐らくは……この場所のことを掴んでいたということか?


 予想を裏付けるように、俺たちが隠れていることに気が付かないまま兵士は屋敷の門番を押しのけながら庭に突入した。向かう先は集まりのある離れ。あれよあれよという間に、離れは混乱に包まれた。


「何もしてないわね、私たち」


「そのぐらいでいいのさ。半端にでも召喚されなくてよかったじゃないか? あの坊主のためには殴っておいた方がよかったかもしれないがな」


 準備を入念に行い、そしていざとなったらそれがいらなくなった。むなしくもあるが、そんな日もある。問題は王のおひざ元と言えるようなこの街で、こういった狂信者がいるということだった。


 平和は、もう遠ざかってしまっているのかもしれない。そんな不安を胸に、宿に戻る俺たちだった。


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