MR-045「天使のようなナニカ」
200話は行かずに終わる予定です。
よろしくです。
森の中で出会った相手、それは自身も天使でありながら天使を討つために降りてきたという前代未聞の存在だった。ギリギリの距離を保ち、相手と向かい合う。力を感じる体……けれども、確かにこれまで見た相手とはどこかが違った。
「怪我……してる」
「既に何体か戦ったのか?」
そう、羽根の一部は失われ、怪我が治りかけているが明らかに戦闘の後だ。マスクルの話の通りなら、今のところ目撃されただけで戦った相手は人間側にはいないはずであった。では魔獣かというと、そういった牙のような跡ではない。
『ザンネンながら、同胞の多くはモクテキを失ったようダ。私のオシエは異端である。そういって襲い掛かってキタ』
こちらに敵意がないと伝えたいのか、天使は武器も持たず、丸太に座ったままだ。本当に目的は違うのか? そう思いたいところだが間違った時には俺とエルナの命が危険にさらされるわけだから簡単に信じるわけにもいかない。
「お前が目的を達成した後、人間に襲い掛からないという保証はどこにもない」
「おじ様、待って」
何を、とエルナの方を向いて目を見張る。エルナにあげた守護の指輪、それが何故か光をまとっていたのだ。由来のよくわからない遺跡で見つけた物だが、霊力を糧に障壁を張ったりする便利な指輪だからと上げたわけだが……この状況で光るということは、天使に関係しているのか?
『オオ、それは私とオナジ目的の同胞が地上の生き物をマモルために授けた物。まだノコッテいたか』
「自分でもよくわからないんだけど、おじ様が倒してくれたアレと、この天使は違うと感じるの」
「賭けに出るにはこっちのチップが重すぎる気がするがな……」
つぶやきながらも、冷静に相手との戦力差を考える。相手は強い、強いが……なんとかするのが俺の役目だ。いざとなれば斬る……それだけだ。視線は外さないまま、ゆっくりと殺気を納めていく。いよいよ隕鉄剣を下げるだけ、その状態になってしっかりと天使を見た。
やや虚ろな瞳。珍しく顔には苦渋のような物が浮かんでいる。それが、人間と話が通じるか迷っているからだ、なんてことを誰に言ったら信用されるというのか? 少なくとも俺だったらすぐには信用できない。けれど、これまでがそうだったからこの先もずっと同じ、そうとも限らない現実を俺は散々見て来た。
「ちっ、何かあれば俺が斬る。覚悟しておけよ」
「ねえ、貴方はどこに向かうの? この先には何もないみたいだけど……」
『価値観がチガエバ争いはある。その時はゾンブンニ。この先に、カツテ降りた強き同胞の気配がノコッテイル。そこに向かい、そのコンセキを消す』
語りながらも、時折心の中で天使を罵倒する俺。天使に洗脳されかかっていると、こういったことも考えられなくなっていくとかつての仲間に聞いたことがあるからだ。自分たちの賞賛以外は認めない、それが俺の知っている天使の手法だ。それが否定できるということは一応、洗脳行為は受けていないことになる。
そして、天使の目的地は予想通り、例の穴だということがわかる。やはり、何もないように見えて何かがあるのだ。天使だけにわかるような目印となる何かが。
「それは、空白に惹かれるという天使の特性ということか?」
『ソノトオリ。布教に失敗したバアイ、あるいはまだフキョウしていないところ、ソコに天使は目を向ける。天使がいるということは、布教中トイウコト』
だんだんとからくりが見えて来た。道理でこれまでの天使共は、全く出てこなかったところか、殲滅された場所に出てくるわけだ。最初の増援以外、後から天使が追加されたという話は聞いたことが無かった。先任の顔を潰すようなことはしない、ということになるわけか……そんなところだけ人間臭い。
「助言をくれてやる。もっと北から回れ。出ないと人間が多い」
『ソウカ。そうしよう……ではサラバダ』
流れるような仕草で立ち上がり、天使は歩き出そうとする。今斬りかかれば恐らく簡単に倒せる。だというのに俺はそうしなかった。その代わり、その背中に向け俺は思わず声をかけていた。
「待て。次に出会った時に天使と呼ぶのも問題だ。名前は」
『我らにナマエハ……いや、クロ。そう呼んでクレ。黒天使クロ』
安直だな、そう思いつつも意味があるのだろうと思うことにした。怪我を感じさせない動きで、森の北側へとクロは消えていった。しばらくその背中を見送っていたが、いつしか森の気配が恐らくは元に戻ったのを感じ、クロがそうしていたように丸太に腰を下ろした。隣にはエルナもだ。
「変な天使ね。天使なのに……なんだか憎めなかった」
「混乱してるんだろう。俺も初めての相手だ。倒そうとしたが逃げられた、ということにしておくしかないな」
ついでに、目的があるのか邪魔をしようとすると抵抗が激しいだろうとも付け加えておこう。天使の目的など碌な物じゃないと思われる可能性も十分にあるが、下手に襲い掛かると手痛い反撃が来るかも、そう思わせるだけでも違うだろう。
「奴の気配は覚えた。仮にこちらに敵対するにしてもすぐにわかるさ」
「うん……おじ様。天使って何なのかしらね?」
それは俺が知りたいな……エルナにはそう答えるしかなかった。クロが野営の知識などどこで手に入れたのか、どうやって戦っているのか。本当はもう少し聞いておくべきだったのかもしれない。
ただ、俺は奴の背中に……孤独を感じた。どちらを向いても敵、そんな状況で何を信じて生きているのか。そもそも天使とは生き物なのか? そんな疑問が浮かんでは消え、夜は更けていく。
魔獣の襲撃もなく、翌朝。俺たちは麓の村へと戻り、原因はいなくなったと思うとだけ告げて村を後にした。実際、山の様子は平和が戻ってきたように感じるから問題はないとは思う。
数日かけ、マスクルの元に戻った俺はすぐに肝心の部分はぼかしながらも報告をした。天使はいた、だが逃げていったと。マスクルは俺の正体に恐らくある程度は予想がついている。そんな相手が天使を逃がしたという裏に何かがあることも。ここでつっこんでこないのは信用の結果だと思いたい。
「一度、中央を探ってみる必要があるかもしれない。国の異常を中央が全く知らないというのも考えにくいとは思わないかね?」
「悩むところだな。大男は手足の痛みに時に鈍感だという。だが、会いたい相手もいる……俺も別口で探ってみよう」
たった数日だというのに、エルナはマスクルの家で出される食事がよほど恋しかったらしい。話し込む2人の横で、主が気にしないのを良いことに遠慮なく食事を進めている。確かに冷めるより食べる方が礼儀と言えば礼儀だが……大胆な奴だな。
「はははは。若いうちは食べるのも仕事だという。良い食べっぷりだ。旅に出る時にはぜひ買っていってくれよ」
「持つのは俺なんだがな……まあいい。後で店を紹介してくれ」
その後は和やかな食事が続き、俺も他の場所では味わえない奥深さを感じながらその時間を楽しんだ。ふと、天使は何かを食べるのだろうかということが気になった。奴らの食事風景は見たことが無い。集まって祈りを捧げるような光景は見たことがあるが……まあ、知らなくても問題はないか。
ぬぐい切れない将来への不安はあるが、今は自分たちに出来ることをやっていく必要がある。次なる目標は中央、王都での再会と過去への決別となった。
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