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MR-031「怖いのは化け物よりも人の……」

普段より展開を早めにしてるつもりです。



 天使もどきの召喚劇から早4日。思ってもいなかった戦いにどこか疲れた俺は、エルナを従えるように市場を冷やかしては情報を集めるという日々を過ごしていた。その間、仕事は受けていない。どうせ鉱山の採掘手伝いや護衛、採掘場所の安全確保ばかりなのだから……面白味が無いというのが一番大きい。


 そして5日目。朝市でにぎわう市場に、見覚えのある相手を見つけた。何かを買うでもなく、きょろきょろと周囲を見渡す冴えない学者風の男、カミルだ。何か研究対象になるような物が無いかを探してるのだろうか?


「よう、元気そうだな」


「ああ! ようやく会えたね」


「おじ様を探してたの?」


 依頼の話をしてる時のような必死という様子ではないが、カミルの顔には安堵の色が浮かんでいる。ここで俺たちを探しているということは……まさか、あの事件の続報でよくない話が舞い込んできたのだろうか? 天使召喚につながりそうなものは全て砕くか無力化したはずだが……。


「立ち話もなんだ、そこに入ろう。今の時期、安いはずだからね」


 誘われるままに、市場の一角にある外に椅子等を置いた店に入る。隣には果物を積み上げた露店。どうやら新鮮な果物などを絞り飲ませる店のようだ。思ったより盛況なのは、店員の中に祈祷術で物を冷やすことが出来る奴がいるからだろうな。先ほどから何度も器を冷やしているのを感じられる。


「それで? 何がどうなった? 退治なら金は相手によるぞ?」


「そうではないんだが……無関係ではないとも言えるか。実は叔父がお二人に会って先日のことで話がしたいと」


(俺たちに話を? カミルがわざわざ例の話をしたということはそれなりに立場がある人間だろうな……)


 内容が内容だ。ただの家族に話すような物でもない。話すとしたらそういったことを知っておきたいような立場ある人間。例えばそう、あの騎士たちの上司であったり、地方の領主であったり……ふむ。


「俺は構わんぞ」


「じゃあ私も」


 しがらみが増えるのは厄介だ。だが、今の周囲の状況を考えると情報源は多い方がよさそうであった。小麦の取引増加、武具のための鉱石採取優先の政策、そして……今年に入って目立つ行方不明者の数。

 どれもが平和から遠ざかるであろう未来を示していると俺は感じていたのだ。






「どうしよう、おじ様。私、どんな顔をしたらいいのかしら」


「女は少し顔を伏せてろ。そうすれば奥ゆかしく思ってもらえる。問題は俺だな……顔に出てないと良いが」


「あの……身内を前にそう言われると……叔父も気にしているだから」


 俺達3人だけが待たせれている応接間。見せたいものがあるからここで待つようにとカミルの叔父に言われたからであるが……叔父の姿は正直、苦労を感じさせた。疲れが、というものではなくまるでカエルと人間の顔を合わせたように膨らみ、それでいてたるみのある顔、その表面には吹き出物がいくつも見えた。

 正面から見て、同情や思わず吹き出してしまわないかが心配な絶妙な顔であった。


「そうか。病気でもあるのか?」


「そう見てるんだけどね。なかなかいい手立てがないのさ。良い薬があるようなら教えてくれないかな」


 頷きつつも、近づいてくる気配に向き直る。大きな扉を自ら開き、カミルの叔父が入ってくる。まるで使用人が食事でも運ぶかのような台の上にあるのは……よくわからない鉱石だな。ただ、何かしらの力を感じる不思議な物でもあるようだ。


「お待たせした。そこのカミルの叔父、アロイスだ。家名は今は伏せておこう。今日は甥の悩みを解決してくれたお礼を言いたくて誘ったのだからね」


「その割には随分と思わせぶりな物が出てきたが……採掘品か?」


 身なりからしてそこそこいい家であろうと思われた。もちろん、屋敷や調度品からもそれがうかがえる。嫌味なところはないが、長い家にありがちな古ぼけた感じは無いし、逆に新しい家らしいぎらつきもない。どっちつかずのように思えた。


「ふふふ。話が早いのは良いことだがまずは礼を言わせてほしい。予定外の出来事があった中、依頼を遂げてくれてありがとう」


「依頼を受けたらこなすのが仕事だ。大したことじゃない」


「私はおじ様について行っていただけなので……」


 顔を伏せ気味にしているエルナの姿に謙遜を感じたのか、アロイスは少し目を大きくした後、何かに納得したように何度も頷いた。よくわからないなと思っているうちに、部屋に使用人が入ってくる。何かが入った小袋も一緒にだ。


「現金が一番気楽だとは思うのだが、こんなのはどうかと思ってね」


「これは……台の上の奴といい、まさかこれもここで掘れたというのか?」


 よくわかっていないエルナと、黙っているように言われているのか静かなカミルを置いてけぼりにし、俺はアロイスと向き合う。二人の間には謎の鉱石と、袋に入っていた青さを感じる銀色の石粒が手のひらほど。


「おじ様、それなあに?」


「そうだな、後学のためにもよく見ておけ。金よりも高く取引されるというミスリル銀だ。この霊力の通り具合、間違いない。……礼に出すには高額すぎないか?」


 何かを作るには足りないと思うかもしれないが、これは既存の鉄などに混ぜ込むだけでも十分な力を発揮する。純ミスリルの装備なんかはいくら金貨を積み上げても手に入れるのは困難を極めるというぐらいの代物だ。

 決して、何かの駄賃にといった具合にこうやって出てくるような物ではない。


 少しばかりにらみつけるようにしてアロイスを見ると……満足そうにうなずかれた。なるほど、この反応も想定内か……。


「その目利きに期待しての前払い……と言ったら怒るかね?」


「話による。黒い話は色々な意味で遠慮したい。が……どうもみんな笑顔にとはいかなそうだな」


 まるで悪役との密会だな、等と思いつつアロイスの目を見て先を促す。頷くアロイスの顔には既に汗がそこそこ。運動しているわけでもないのにご苦労なことだ。


「最近と言ってもここ数年になるが……大陸のあちこちで魔獣が活発に活動している。と同時に、厄介な相手の目撃例も少しだが増えてきているのだ。そう、今回カミルと君たちが出会ったような相手だ」


「天使……あんなのが出てきたら小さい村なんかは全滅だわ」


「その通り。開拓地のいくらかは既に犠牲が出ているようだよ」


 悪役が似合いそうな顔とは裏腹に、アロイスの口から出てくるのは被害にあった一般人を憂うような言葉だった。俺もまだ修行が足りないか?と心の中で問いかけつつ、話の続きを聞く。それによると、いつもよりは多いな、ぐらいに魔獣は森から出てきているらしい。時には街道を塞ぐような形で、だ。


「冒険者たちは稼ぎ時とばかりに元気なようだが……土地を治める物としては喜んでばかりもいられない。平和だからと軍備の費用も控えめにしていた場所も多いわけでな……その状況が一変した」


「叔父はこの街の流通を半分は抑えているのだが……もっと採掘量を増やせと注文が増えてきていてね」


 頭をよぎるのは、戦争。何故だか人間はこうやって外敵が増えている時ほどその後のことを考えたり、自分がどさくさに被害を受けるのではないか?と考える物らしい。そうするとやられる前にやれ、なんて気持ちになるわけだ。


 そうでなくても、魔獣相手となれば武具の消耗も激しくなる。当然、碌な装備が無ければ兵士の被害も増えるだろう。それを解消するために取引が増えている……か。


「それは全国的にか? 偏りはあったりしないのか?」


「そこが問題なのだよ。当然私も売買先を追った。結果はすぐにわかったよ。隠すつもりがないのか、隠しきれないのか……ピヨル運河付近、そしてライマン家の2つだったよ。ただ、その先が追えない」


 思っていなかった場所で、聞き覚えのある単語が2つも出てきたことに俺は表情を作るのを失敗した。あるいはそれが狙いだったのかもしれない。こうなれば聞くだけ聞いて去るという手は難しくなった。


「詳しく聞こうか」


 いつの世も、真に怖いのは化け物よりも人が行うことだな、そう思った瞬間だった。


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