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MR-030「天使を構成するモノ」

多分明日からは朝更新です



「その姿では空にも帰れまいよ!」


『GYYYYY!!』


 顔だけはなじみの天使のまま、腰から下は不釣り合いな獣の姿。伝説に聞く人馬を思い浮かべる不思議な姿だった。しかし、それは美しさはカケラも持ち合わせておらず、ただただこちらを不快にさせるだけの存在であった。


「ふっ!」


 視界を遮ろうとする小さな影を鉄剣を何度も振るうことで叩き落す。それは鳥、あるいはネズミのような姿。天使自身、あるいは恐らくは魔獣の死体の詰まった袋からにじみ出るようにしてそれらは出てきていた。天使といつも一緒の羽根付もどきと同じような物に違いない。


(あの袋を何とかしたいな……よし)


 左手を天使に向け、迫る相手がこちらに届く前に力を解放した。それは暴風、相手を倒す力はないので呪いも元々反応しない程度の祈祷術である。しかし、一か所に集まった風は容易に相手を吹き飛ばす力となっていた。出来うる限り遠くに天使を吹き飛ばした後、羽根付もどきと奮戦する兵士達の元に一度駆け寄る。


「おい、油の1つぐらい持ってきてないのか!」


「あるにはある。しかし火を起こす余裕が!」


「おじ様、あっち!」


 エルナの指し示す先には兵士達が運んできた荷車。そこに積まれた大小の箱や壺。恐らく壺が最後に燃やすように持ってきた油であろう。となれば話は早い。術で強化した足は瞬きの間に間合いを詰めることが出来る。すぐさま壺を手にした俺は思いっきり布袋たちへとそれをぶつける。


「燃えろ!」


 着火のためならば術の規模はどうでもよかった。簡単な祈りと詠唱により、手のひらほどの火球が産まれ……布袋とその表面にぶちまけられた油にぶつかった。当然のことながら、火の手があがり確実に周囲を燃やし始める。


「祈祷術が使える奴は一緒に来い! 頭を潰すぞ!」


「「応っ!」」


 威勢よく一緒に駆けだしたのは最初に話した隊長格の兵士と、もう1人だった。2人いるなら上等ともいえる。第一、倒すだけなら俺だけでもなんとかなる……だろうとは思う。こちらが狙いをつけたことに本能で気が付いたのか、天使は吠え、同時に羽根付もどきが狙いを変えてくる。


「陰に潜む二の刃よ!」


 俺を中心に霊力が膨らみ、それは風のように広がっていく。羽根付もどきは自分に近づく葉っぱほどの霊力の刃を避け……隠れていた別の刃に羽根を切り裂かれていく。兵士となればいちいち口外はしないと判断しての大盤振る舞いその一、であった。見知らぬ相手の手助けにより任務は成功しました、等と馬鹿正直に報告するような奴はそうはいないからな。


「俺が足止めをする」


「了解した」


 もう1人の答えを待たず、そのまま風のように突撃した俺は自分を狙う天使の腕、そして獣の足を横っ飛びで回避すると勢いを利用して即座に飛びかかった。狙うは……獣の足。毛皮の表面ではなく、膝裏になるような部分へと剣をたたきつけるようにして切り付け、半ばまで断ち切っていく。しっかりと霊力を込めた剣ではあるが、本当に天使の体ならこうまでは切れない。やはり、獣を使っている分弱点も増えているのだ。


「そこだ……ヴァロワよ……雄々しき戦の神よ! 我が槍に力を!」


 隊長格が繰り出すのは槍を中心に練り上げられた霊力の突き。感じた限りでは俺のムーンエッジには及ばないが、このぐらいのまさに天使未満であれば……しっかりと力を発揮する。口元から後頭部までを一気に貫いた槍の穂先には、紫色の血のような物がこびりついているのが見えた。


「逃がすなよ! 増えられでもしたら厄介だぞ!」


「まっかせて!」


 後の懸念は羽根付もどき。通常ならば消えていくところだが速さは遅くなったが消える気配はない。魔獣を元にした亜種のようなものだからだろうか? こんなものが拡散し、各地で増えでもしたら厄介この上なかった。

 そこに活躍したのがエルナだ。敢えて強度は弱くし、範囲自体は大きく広げたそれは本来ならば外からの攻撃を防ぐもの。しかし、街の広場よりも広く広がったそれは今回は羽根付もどきにとって檻となった。外にも出れず、見えない壁にぶつかる羽根付もどき。そこを兵士達が順次仕留めていき……途中で羽根付もどきの向きが変わった。


「馬鹿野郎! 自分を守る分ぐらいは展開しておけ!」


「えへへ……おじ様が守ってくれるかなって」


 追い詰められた羽根付もどきがどうしてか壁を作ったのがエルナだと感じたのか、彼女に襲い掛かろうとする何体かを割り込むようにして切り裂いた。自然と兵士達もエルナの周囲に集まり……やがて周囲は沈黙に包まれる。


「気配はない。終わったようだな」


「ご助力、感謝する」


 丁寧に一礼してくる隊長格にひらひらと手を振り、成り行きだと答える。本当はこの遺跡らしい場所の調査をするために来たのだと告げつつ。見上げれば、戦いが終わったことを見て取ったカミルが危なっかし足取りで斜面を降りてくるのが見えた。


(そういえば、こいつらはどこの兵士だ? カミルと同じ街ならそれはそれで厄介だが……)


「私たちは依頼のために麓から来たの」


「ふむ……詳細は明かせませんが、別口でしょうな。アレを壊すというのであれば是非もありません。お嬢さん、世間を脅かす遺跡の破壊の誉れを私達にいただけますかな?」


 芝居がかった仕草でエルナへと頭を下げる隊長格……これは、どこぞの騎士か? 街のきな臭さと比べると、逆に疑わしいぐらいの丁寧な姿勢である。案の定、エルナは初めての待遇に慌てている。俺が頷いてやると、頭を下げたままの騎士へと了承を告げた。


「はぁはぁ……ご無事で何よりです」


「今さっきだが、遺跡らしい物の破壊を譲ったが構わんよな?」


 学者としては破壊前に研究したいという欲求もあるだろうが、ここは命を優先してもらおう。幸い、カミルは賢明な男の様だった。やや惜しむような視線を遺跡らしきものに向けるが、そのまま頷く。少しかわいそうになった俺は、力を失わせた状態の破片ぐらいなら持ち帰れるように処理しようと言い、召喚の媒体にならないような部分を手に入れることにした。


「最近はああいうのが増えているのか?」


「答えにくい質問ですな。腕を見込んで語るとしたら……明らかに増えてはいますよ。狂信者と共にね」


 物言わぬ躯となった狂信者たちは一か所に集められ、残った油を使って燃やされていた。風向きは幸いにも俺たちとは逆に吹いており、嫌な臭いに覆われることもない。燃える音が、まるで狂信者たちの恨みの声のように聞こえるのは俺の気にしすぎであろうか。


「貴方方が旅をされるというのなら、常に一人にはならないことです。特にあのお嬢さんぐらいの歳頃の娘さんがいなくなるという悲しい事件が増えているそうですので」


「ご忠告ありがとうよ。じゃあ俺達は帰るよ」


 これ以上踏み込むと聞きたくないことまで聞かされそうな気がした俺は話を切り上げ、2人を引き連れて山を下りることにした。途中、行きと同じように何度か襲われたがそれ以外には平和な帰り道だった。


「予定よりあわただしいものになってしまってすまないね」


「世の中はそうそう上手くはいかない、そうよね、おじ様」


「ああ。無事に終わった、それでいいじゃないか」


 責任を感じているらしいカミルの肩を叩きつつ、どうしても気になるなら一杯おごるように囁いておく。エルナは甘味の1つでも食わせておけば文句はないだろう。それはそれとして、だ。


「狂信者や天使召喚が増えているだと? 時代が巻き戻るとでもいうのか……冗談じゃない」


 小さなつぶやきは空に溶け、重くなった胸の空気をため息と同時に吐き出した。空は俺の気持ちと裏腹に、どこまでも晴れ渡っていた。



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