MR-029「人の業」
ご飯食べてたら遅れました。。。
時に、詩人の唄うモノよりも現実が可笑しなことになることがある。英雄を唄った物より、実際の戦いの方が派手だった、なんてこともあるが大体は……とんでもないことが起きている場合が多いだろう。
天使の遺跡らしきものがある山へと調査の依頼で来ていた俺達。一夜明けて、念のためにと道ではない部分を時間をかけて進んだのだが……。
「私、今日ほどおじ様の言うことを聞いていてよかったと思ったことは無いわ」
「そうか? それならこれまでのことでじっくり話し合う必要があるが……まあいい。どうするよ、カミルさんよ」
小声で問いかけながらも、酷なことだなと自分でも思っていた。俺のすぐ横で、物陰に隠れながらもカミルは細かく体を震わせていた。恐怖……ばかりじゃあないな、怒りもあるか。それも仕方ないだろうなとは思う。それなりに距離があるとはいえ、こんな街のそばで……天使共に信仰を捧げる狂信者の集会が開かれていたのだから。
「……随分と多いような気がするね」
「ああ、ざっと30人か。昼間の集会にしちゃ結構な人数だな。普通はと言っても普通じゃない奴らだが、人目を気にする部分はあるのか大体は夜だ。どうもこの場所に来て既に何日も立ってるようだな。昨日とかに見つからなくてよかったと思う他ない」
最悪、山登りの途中でこいつらと遭遇していたと考えると背筋が寒くなる。いや、この後の万が一を考えると先に出会っていたほうがよかったのかもしれないが……狂人とは話1つしたくないのが本音だった。天使の狂信者どもは、天使こそが命の最上種、人も天使に導かれるべき、そんな思想の集まりだ。普段は日常生活を送っている奴もいるからか、なかなか見つからないことで有名だ。
「今のところは召喚される気配はないが……皆殺しにするか?」
「それは……私が決めれることでもないというか……依頼金が出せないね」
ようやく心が状況に追いついてきたのか、顔は紅潮しつつも落ち着いた声色でカミルは狂信者どもを見ながらそんな冗談を口にして見せる。実際、狂信者の討伐はその地方の領主や貴族から直々に出る物だ。そうでなければ依頼金が出てこないのだ。不気味ではあるが、こちらに手を出してこない限りは一般人は放置するのが一番と考えている。後からでは……遅いんだがな。
「ねえおじ様。あの中心にある像かしら? どこかで見たような気がするんだけど」
「んん?……ほう、よくわかったな」
集団の中心、岩のような何かに隠れ気味でしっかり見えないが、その背中の特徴的な羽根はここからでもよくわかる。前々からここに運び込んできたのだろうか? あるいはここで仕上げたのかもしれないな。大きさは結婚式の時に見た物より半分ぐらいと随分と小さいようだ。だがその造形にはこの距離からでもわかるほど、いつかの物によく似ている。と言っても、こういった彫刻はある程度似てくるものだ。
「崇拝用の像まで用意してるなんて……これは一度戻って通報した方がいいんじゃないだろうか?」
「普通に考えたらそうだな……ん? 伏せろっ」
両隣の2人の肩を掴み、地面に押し付けるようにして伏せる。そのまま体をひねるようにして姿勢を変え、手のひらから術を1つ行使する。遠くの物を写す、霊力の鏡のような物を作り出すものだ。見つからないようにこっそりとそれを狂信者どもへ向け……状況を確認する。
「何あれ……」
「さあな。だがろくでもない話になるだろうぜ」
俺たちが来たのとは反対側からもここには来ることが出来るらしい。そちらから運ばれてきたのは、中身のわからない古ぼけた袋に詰められた何か。大きさは一抱えもあるような酒樽ほどだがそれが10ほど。染みのように見える模様は……まあ、果物でした、ということはないだろうな。
「あれの中身が魔獣かそれ以外か……確かめたくはないが放っておくのもまずいな。恐らく、本当に降りて来る」
言いながら悩んでいた。このまま飛び込み、奴らをなぎ倒すことは可能だろうと思う。その代り、殺す理由が危ないから、怖いから、といった自分たちの理由となる。俺はそれでもかまわないが、エルナにそういった理由で人殺しをさせるのもどうかと思う自分がいたのだ。
すぐに召喚には取り掛からないだろうという考えの元、しばらく時間が過ぎていく。
「戻ろう。私から依頼が出せないか掛け合ってみるよ」
「了解した。依頼人の言うことがまず一番だからな。ならさっそく……ん? どういうことだ」
「おじ様? あれ、どこの兵士かしら……」
あの謎の袋を追跡していたのだろうか? 袋が運ばれてきた山道に鎧を着こんだ集団が見えた。手には槍を持った武装した集団。その鎧姿からは、なんとなくだが狂信者どもと合流する意思は感じなかった。となると状況的には……討伐に来た?
「どうやら先を越されそうだな。依頼には入っていないからこれはこれで構わないんだが」
「どこから話を聞きつけたのだろうか? 街では私の話は信じる人はほとんどいなかったよ。だからこそ依頼は放置されていたんだが……」
仮説であればいくつか口に出来るが、それが正しいかは何とも言えなかった。そうこうしてるうちに、下が騒がしくなる。一度はひっこめた体をまた乗り出すようにすると、眼下では狂信者どもと兵士達の戦いが始まっていた。
「祈祷術? ううん、何アレ」
「あれが狂信者どもが使う禁忌の術だ。天使共に祈りと共に自分という存在を捧げて使う魂を削る術だよ」
禍々しい、という言葉が一番似合う術だと俺がひそかに思っている術でもあった。黒い光が狂信者の何人かから伸び、前線の兵士に突き刺さり……兵士は倒れる。このままだとどちらが勝つか何とも言えんな。
「仕方ない、行くか」
「うんっ!」
「私はここで隠れてるよ。ハハハ」
自分の力をよくわかっているカミルを置いて行く形で、俺たちは斜面を駆け下り始めた。何もなければ急な坂だが、上手くバランスを取れば一気に加速する坂ともいえる。後衛が気が付いたときには、俺たちは戦いの最中に飛び込んでいた。
「報酬は切り落とした羽根でいい!」
「助かるっ!」
端的に、俺たちが天使共の敵だと宣言して答えを背中で聞きながら狂信者たちの中に俺は飛び込んだ。相手はまともに鎧も着こんでいない。鉄剣でも十分な状況だった。エルナはそのまま兵士達の方へと駆け寄ると、いくつかの呪文を呟いて障壁を展開した。あの忌まわしい黒い光を防ぐためだった。
「おじ様! 何人かが逃げるわ!」
「はっ! あきらめの速いこった! ん? あれは!」
状況が不利と見るや、狂信者の数名は袋へと駆け寄り、何かの札を張り付けた。その正体を確かめる前に……周囲に嫌な気配が吹き抜ける。その本体は袋の中と、小さな像だった。なおも2人ほど狂信者を切り捨てると、俺はエルナの元へと駆け寄る。この感じが正しければ、この後に出てくるのは……。
「出てきてしまったか……」
「時間をかけられるよりマシだと思おうぜ」
兵士達の隊長格らしい男のつぶやきにそうつぶやき、すぐ横で小さくエルナが詠唱するのを聞いていた。相手の正体を感じるや否や、すぐに始まった詠唱。それは俺の右腕の呪いを一時的に解除するエルナだけの祈祷術だ。一度失敗したようだが二度目は……よし、効いたな。
『GRUUUU!!!』
「人の言葉も喋られない……か、袋の中身は魔獣だったようだな」
「冷静に分析してる場合かね?」
もっともなツッコミにも肩をすくめるしかない。なぜなら、どんな相手だろうがこうなったら倒すほかないのだ。であれば特に気負うことなく、いつも通りの実力を発揮するべきなのだ。いつの間にか狂信者どもは倒され、残すところは……全身を毛皮のような物で包み、下半身を魔獣と化した天使像の化け物1体だけであった。
「少しは儲けになるような状態になれってんだ」
そんな悪態をつきながらも、無造作に天使像へと近寄り……飛び出て来た何かを切り捨てる。ちらりと見えたそれは異形の鳥。視界を戻すと、天使像全体から小さなものがいくつも飛び出し始めた。
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