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MR-022「過去の決断」


 金属と、それに負けないような硬い物とがぶつかる音が無数に響く。音の主は他でもない、俺自身とメリッサだ。訓練の範囲内とはいえ、遠慮なしの斬撃が生み出された障壁にぶつかりその力を削る。まるで霊力で出来た氷を薄く削り取るかのように周囲にきらめく破片が舞っていた。


「おいおい、前より強度が増してるんじゃないのか?」


「そっちこそ。力は衰えたかもしれないけど、えぐい角度で切り付けて来るじゃないの」


 実際には障壁にはメリッサ自身の霊力はあまり使わない。その土地土地に流れる霊力を自分の物のように使い、障壁としているらしい。適当にやると土地神に怒られ、しっぺ返しを食らうと言われている状況でこれだけの障壁を展開し続けられるのはメリッサならではと言えるだろう。


 俺も負けてはいられないとばかりに、メリッサの意識が集中する場所、つまりは障壁の強度が増す部分に切りかかるように見せて実際は少し違う場所にぶつけていく。よくわからない力で壁を張ることもある天使相手には必須ともいえる技能だ。別に正面からぶち破るだけの威力のある祈祷術を使えるなら必要ないんだがな。


 何度も立つ場所を変え、何度も切りつけては何度も防がれる。それは演武のように美しく、相対するメリッサの姿がかつて一緒に戦った大人の姿が幻視出来たほどだった。だが、今の彼女は子供の姿だ。それでも勇ましい声が何度もその小さな口から紡がれる。


「どんな猛攻でも防ぎきれば隙は出る物よっ」


「同じく、1つでも通せば攻め手の勝ちだ」


 これまでの俺だったらこんな見世物のような戦いはやらなかっただろうなと考える。メリッサと2人きりの状態であれば別かもしれないが、こんな……尊敬と恐怖、そのほかいろんな感情の混ざった瞳で見られながらというのは出来れば遠慮こうむりたい。


 ただ、こちらを見る目にも尊敬のような物がちゃんとあることには内心で驚いていた。メリッサの教育故か、あるいはそういう素質があるのか、ちゃんとこの戦いの意味をわかっているのだ。むしろ、俺の方を見ずにメリッサの方を心配そうに見ているエルナのほうが問題に思えた。


「はわわわ……どっちを応援したらいいのかしら?」


「どっちでもねえ。今、お前たちが見るべきはどんな風に攻め手は狙うのか、受け手はどんな風に防ぐと良いのか、そういうことだ」


 叱るように言いながら、少し距離を取って鉄剣を構えなおした。また買い直さないといけないかもしれないな……たぶんこの戦いでも結構な疲労が剣に溜まってるはずだった。相手は未だに現役の英雄の1人なのだから……。


「その構え……そうね、一度終わりにしましょうか」


「うむ。障壁破り……押し通る!」


 どんな障壁でもほころびやつけ入る隙がある。そのことを俺は実戦で学び、多くの天使や魔獣どもを葬り去って来た。上手くいけば、今もその技術は前線で人間の命を救い続けているはずだった。あるいは命を吸い続けてる(・・・・・・)かもな。


 一見すると一枚の板のように見える霊力による障壁。そこに作り出されたからこそどうしても残る境目を見出し、霊力をまとわせた剣をそこに合わせてぶつける。言葉にするとたったそれだけ。だが戦いの最中にそれを見抜き、実際にその通りにするのは多くの鍛錬と素質が必要になる。


「はぁっ!」


「くっ」


 恐らくは最近は障壁破りをするほどの相手には出会っていなかったのだろう。記憶にあるよりも若干甘い制御を見つけた俺は無造作に見えるような動きであっさりとそこに剣を突き入れ、砕いた。ガラスをたたきつけたような音が響き、メリッサの障壁が一気に崩れていく。霊力による障壁や天使の壁は強力だが、こうして一度弱点を突かれると一気に崩れるのが難点だった。その意味では、どちらも同じ力を使っていると言えるのかもしれない。


「さすがね……くうっ!? しまった、そろそろだったわ……」


「んん? お、おい!」


 最初は障壁を破られたことによるショックで座り込んだかと思ったが、どうも様子がおかしい。慌てて近づいてくる少女たちに先んじて駆け寄り、その体を抱える。軽い……羽根のようにというのが大げさではないように思うほどに軽かった。思い返せば、彼女をこんな風に抱きかかえたことも抱き寄せたこともなかったな。あの時だって俺は……。


(それよりもこの状況は……霊力が枯渇しかかっている!?)


 俺の腕の中でメリッサは荒い息を上げ、意識を失っていた。少女たちは慌てるばかり。体調不良による霊力の減少? いや、そんな感じはしなかった。腕の中のメリッサはひどく苦しそうで、何かがおかしい……この感じは?


「おじ様、メリッサ様の胸元の!」


「そうか!」


 後で謝罪しようと決心しつつ、少女の姿のメリッサ、その胸元を破るようにしてあらわにする。周囲から悲鳴のような物が聞こえるが緊急事態だ。そして思った通りに、メリッサの胸元で羽根付どもが放ったという呪いの文様が小さい塊でうごめいており、その拘束を破ろうとしているかのようだった。


「ちぃ……俺じゃこの封印は厳しいな……ディアナ、エーヴ、レーヌ、お前たちはいけるか!?」


「術は教わりましたけどとても私達では」


「霊力とその出力が足りないよぉー」


 前2人、レーヌも同様だった。そして周囲の少女たちも……くそっ。顔を上げると、エルナと目が合う。その瞳にはあきらめは無かった。そうだな、そうだよな。俺たちが先にあきらめるわけにもいかない。こうしてる間にもメリッサは無意識にか呪いに抵抗しているようだがその力は弱弱しい。やはり意識が無い状態では厳しいようだった。


「やり方がわかってるなら上等だ。霊力は俺が供給する。エルナ、お前がそれをメリッサにぶちこめ。お前たちもだ! 師匠を救いたいだろう!」


 実際のところ、もしかしたら……俺との模擬戦に力を使いすぎたせいなのではないか?という思いが頭をよぎる。とはいえ、それを考えるのはこれが終わってからでいいだろう。戸惑う3人娘をメリッサのそばに寄せ、祈祷術を詠唱させる。なるほど、そういう仕組みか……。


 詠唱から大体の術のあたりをつけた俺は、それに出来るだけあうようにと霊力を練り始めた。幸い今のところ俺の右腕は反応していない。攻撃ではないと呪いが判断しているんだろう。それ自体は不思議なことだが……今は良い。


「エルナ、いいな」


「うんっ」


 苦しそうなメリッサの手を握り、じっと呪いを見つめるエルナ。彼女がどんなことを考えているかはわからないが、メリッサを救いたいとは思っているはずだ。であればきっとうまくいく。霊力が足りないのか、詠唱は進むが術が発動する気配はない。だがそこに俺が霊力を注ぐ。


「っ!? 信じられませんわ。こんな……」


「おじさん……すごい、おっきい……」


「うう、私溢れちゃいます……」


 自覚のないところで焦りがあったのかもしれない。3人が耐えるにはぎりぎりの霊力が一気に俺から噴き出していたようだった。それを必死で制御し、術としてくみ上げていく3人。それは出口を求めて近くにいるエルナとつながり……腕の中のメリッサへと注がれた。


 名もなき封印術、メリッサ独自の術式は俺も完全には理解しきれない物だった。しかし、効果は間違いないようだ……霊力で出来たような輝きの糸が無数に伸び、呪いを包み込むようにして集まり、いつしか呪いの動きはほぼ止まっていた。


「成功、か?」


「ええ、恐らくは」


 穏やかな表情になったメリッサ。根拠と呼べるような物はない状態だが、窮地は脱したと感じられた。大きく息を吐き……エルナや3人娘、周囲で待機していた少女たちに頷いた。歓声のような声が上がりかけ、静かになったのはまだメリッサが寝ているからだろう。少女の姿とは言え人間一人を抱えて行けというのは難しい話だと思った俺はそのままメリッサを抱きかかえる。


「寝床はどこだ?」


「あ、こっちですわ」


 そのままぞろぞろと少女たちを引き連れて屋敷に入り、汚れているのも構わずに寝床に寝かす。寝具は後で洗濯すればいいだろう。それよりも俺が脱がせるような事態になるほうが問題だった。どこかに走っていった少女たちがあれこれ持って帰ってくるから、俺がいない間に勝手にやるだろうなと思い、部屋から出る。


「あ、おじ様。どう?」


「たぶん大丈夫だろう……俺は部屋で休んでいる。お前も無理しないようにな」


 頭をわしゃわしゃと撫でてやると、顔を膨らませて抗議はしてくるが嫌という訳ではなさそうだった。子ども扱いが嫌なような、それでも心配されていることに気が付いた……といったところか。

 

 割り当てられた部屋に向かい、装備を脱いで簡単な服だけになり……窓際の椅子に座りこんだ。昔も、こうして訓練をしては疲れ果てたメリッサを微妙な気持ちで見送りながら一人佇んでいたような気がする。あのころとは何もかもが違うが、同じものもある。変わらない物、取り戻せない物ともいえるだろうか。


「そうだな。俺がアイツを振ったことは事実だ……」


 自分でもわからない感情のこもったつぶやきが、誰もいない部屋に響いた。





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