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MR-021「秘密の一端」


 メリッサからの依頼による水と薬草の採取、そして聖女見習いな3人の実地訓練のような戦いを終え、俺たちはメリッサとエルナのいる街へ戻る。道中、多少獣は見かけたが魔獣となるような相手はいなかった。田舎ならいざ知らず、こんな街道側で見るようになったら危険だからな、それはいい。


「馬車が多いな……」


「あら、知らないんですの? 最近は景気が良いのか、街もにぎわってますのよ」


「そうそう、市場のおじちゃんも小麦が良く売れるって言ってたなー」


 ディアナとエーヴ、元気そうな2人の言葉に頷きながらも俺は引っかかるものを感じていた。もやっとした気持ちを抱えながらも、静かなレーヌを見ると……雑貨屋のような場所に並んでいる毛皮や牙等を見ていた。視線の先には恐らく狼であろう牙。大きさは今回俺たちが相手をした奴らの方がわずかだが大きそうだ。


「これもあのぐらいで売れる?」


「それは無理だな。仕入れて売ることで利益を出すわけだから売値より安く仕入れる必要があるのは常識だろう?」


 敢えて俺は少女3人、あるいは他も巻き込んで市場で店を出すという選択は出さなかった。本人達に言うと色々と勘繰られそうだが、乙女だけの露店なんてのは荒らしてくださいと言わんばかりだと俺は思う。実際、レーヌが見ている店の店員はいかにも自分で狩ってきましたと言えそうな屈強な男だ。


「こいつを貰おう。最近獲物はどうだ? 街道が平和過ぎてちょっと場所を変えるか悩んでるんだ」


「ありがとよ。そうだな……あんたがこの街で稼ぐと言い出したら困るぐらいには平和だな」


 商売が下手なのか、あるいは俺をうまく誘導しようとしているのか、あっさりと応えてくれた情報に頷きながら待ちぼうけな3人のところに戻った。俺が何故わざわざ買い物をしたのかはわかっていない顔だな。

 混ぜてもわからないだろうと思い、ディアナの持っている取り分の中に買ったばかりの牙を混ぜ、再び歩き出した俺。


「ちょっと、どういうことですの?」


「ん? ふむ……まあ、お前らにはあまり関係がないかもしれんが……嫌な平和だと思ってな」


 ぼかした言い方に、3人が3人とも疑問を浮かべた顔になる。それでも足を止めることなくついてくるので俺はその顔をそのままにしてメリッサたちのいる屋敷に向かい……爆音に足を止めた。


「なんだぁ!?」


「あっ、私達の家の方!」


 レーヌが指さす先では、確かに屋敷の庭あたりに土煙が上がっている。突然の衝撃に周囲の視線が一斉に屋敷に集まる。


(まずい、何か襲撃でもあったか!?)

 

 慌てて駆けだそうとした俺だったが、意外にも3人娘がそのまま歩いているのを見て今度は俺が不思議な顔をする番だった。メリッサを尊敬し、慕っているこいつらが焦らずにいるということは……どういうことだ?


「おじさん、いつものことなんだよ。それに、危ない何かがあったらお屋敷全体がビカビカーって光るようになってるんだー」


「これだけはやめてほしいなあと思っていますの……」


 一体どういうことだと首を傾げながら屋敷につき、庭に顔を出すと……そこには少女たちを引き連れた少女、もといメリッサがおり、その前でエルナがしりもちをついていた。両手を突き出したままで……状況的にはメリッサとエルナがさっきの音を立て、それからずっとこの姿勢のままということか?


「戻ったぞ」


「あら、お帰りなさい。早かったわね」


 なんでもないように俺たちを出迎えるメリッサ。その笑顔には裏は感じない。むしろ予想より早く帰って来たらしい状況に喜んでいるようだった。こうしてると俺より年上だとは思えn……むむ、何か嫌な予感だ。この辺にしておこう。


 気を取り直して今度はエルナを見ると、両手を突き出したままの姿勢からは戻ったがまだ立てないようだった。一体何をしたというのだろうか?


「師匠、またですの?」


「またとはなんですか、ディアナ。研鑽と研究は日々の積み重ねですよ」


 見た目の年齢通りならぴったりだろうなという仕草で頬を膨らませ、ディアナに抗議するメリッサ。だがディアナと他の少女も慣れた物なのか、てきぱきとどこからか道具を取り出して庭を慣らし始めた。気が付くと草はないが土の整った庭が戻ってくる。


「で? 何があった?」


「何が……そう、何があったのかしら? メリッサ様、今私は何をしたんです?」


 座り込んだままのエルナを立ち上がらせ、問いかけるも要領は得ない。視線をメリッサに向けると、今度は得意げな表情になって自らの手を前に出し……何度も見た障壁が展開された。生半可な攻撃では突破できない聖域の力。メリッサは何かを持っているようには見えない。それでも祈祷術が使えるのは、来ている服そのものに陣が刺繍や模様となり、いくつも身に着けた状態だからだ。ウィザードとマジクル、両方の要素を取り入れた戦い方がメリッサの強みだ。


「この子の力を見ようと思って、障壁同士をぶつけてみたの。ゼル、すごいわね。準備をしてからというのもあるけど、碌に教えていないのにちゃんと天使級の攻撃を防ぐ障壁とほぼ同じ強度で作り出したのよ」


「そうか、それでか……」


 一般的に障壁は術者が指定できずにすべての物をはじく。メリッサのように通す物と通さないものを選べるような障壁を作るのはかなりの訓練がいる。ともあれ、その障壁も当然ながら強度に差があり、矢をそらすのが精一杯の物もあれば俺が本気で切り付けても破るには苦労するほどのものまで様々だ。そんな中、前線で使えるかどうかの指標の1つが天使の攻撃を防げるかどうか、だ。


 人間の戦士ではある程度以上の手練れでなければ組み合うことすら困難な相手、それが天使だ。その斬撃は金属鎧とて安心できない強さを誇る。それを防げる障壁を使えるのであれば前線でも戦えるというわけだ。便利に見える障壁だが難点がある。隣り合う術者同士で障壁が重なると……互いをはじくのだ。先ほどの大きな音は2人の障壁がぶつかった時の物らしい。


「おじ様?」


「よくやったな。動けるドルイドが障壁を使いこなせば守れる相手がグンっと増える」


 これは俺の偽りない本音だ。やられる前にやれ、それが早いという俺のような戦い方は英雄だったころでも異端の扱いだ。普通は役割を持ち、それぞれに特色を生かして連携して戦うわけだ。そう考えると戦況に合わせて移動し、そこで障壁を展開できる強みはいうまでもない。


「そっか……やったっ」


 ぴょんぴょんと跳ねまわりそうな勢いで喜び出すエルナ。そんな彼女を見る少女たち聖女見習いは複雑そうだ。それはそうだろう、修行を積んで頑張っている自分たちが果たして正しいのか、みたいな気分になることは想像に難くない。ここは何かフォローしておくべきか……そう思った時。


「じゃ、ゼル。久しぶりにやりましょ」


「……? おい、俺は依頼帰りだぞ?」


 そんなの良いハンデでしょう?などと言いながら俺の抗議はあっさりと却下された。そうして俺は荷物を降ろし、戸惑いの視線をいくつも浴びながら……メリッサの前に立った。隕鉄剣はさすがに無しだ。

 対するメリッサも少女の1人に何事かを伝え、屋敷から少女が持ってきたのは……いつか見た物と同じ意匠のローブ。


「怪我したくないし、このぐらいはいいわよね?」


「まあ、そうだな。よし、エルナ。よく見ておけよ」


「え? ちょっと!?」


 状況がよくわかっていないエルナを置き去りに、俺は鉄剣の剣先に至るまでを知覚するかのように集中し、霊力を練り始めた。攻撃の祈祷術は使えないが、これからやることを考えると全く問題ない。なぜなら……。


「では皆さん。障壁で戦うということのお手本を見せますよ。ゼル」


「おうよっ!」


 若い時、何度も繰り返した訓練、俺の剣戟をメリッサが防ぐという荒々しさしかない2人だけの語り合いが始まった。

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