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MR-013「狂乱の宴-3」



「背中を見せるな! 飛びかかってくるぞ!」


 主を守るためにか、抜剣している兵士達に助言として叫ぶ。守るべき相手を守るためにと背中を向けて移動すると、羽根付もどきはそこを容赦なく襲い、鎧や兜の隙間に爪を突き立てようとするのだ。人間という物をよくわかっているいやらしい相手だ。だから、正面に向き合って切りかかる必要がある。


「祈りの月夜……我が願いにて……束縛に一時の安息を……」


 他の連中が見たら、こんな時に立ち止まって何を悠長に祈りを捧げてるんだと怒るかもしれない。だが、俺や一部の祈祷術使いはその本当の理由に気が付くだろう。エルナが祈祷術を使うために祈りを捧げていることに。


 背中に届く、優しい感触の何か。エルナの祈りが生み出した特別な物だ。それは俺の体に宿り、主に右手に集まり……何かと争い始めた。他でもない、天使の親玉が相打ち気味に俺に撃ち込んだ呪いの力だ。これがあるせいで俺はある程度以上の……羽根付を確実に滅ぼせる威力の祈祷術を使えない。使おうとすると激痛が全身に走るのだ。我慢したとしてもそれは碌に祈祷術とならないだけだ。


「やった、成功したわ!」


「よくやった!」


 あの時、碌な祈りも無しに発動したエルナの力。才能と一言で言うには色々とおかしい物だった。その証拠にあれから同じようなことを試しているが成功は5回に1回ぐらいにとどまっている。調子がいい時には連続で成功するのだが……腕の問題か、他に理由があるのか。ただこの呪いを受けた当時、他の誰も一時的にでも治せなかったのだからそれだけでもう奇跡と言っていいことには変わりがない。


(まったく、大した奴だよ……)


 内心の感嘆を声には出さず、狂乱の宴となっている現場へと飛び込み、俺は両手に力を生み出して振るう。

 月夜の青のような光が刃となって、空を飛ぶ羽根付もどきたちを断ち切っては床に落とし、その数を減らす。


「おっさん!? なんだよ手加減してたのか?」


「ちげえよ。年寄りは活動時間が短いんだ」


 アルフの頭上から迫っていた1匹に力による短剣を打ち出して貫く。それに驚いたアルフの問いかけには適当に答えながら俺は周囲の状況を確かめた。下手に外に出るわけにも行かず、参加者たちは部屋の隅に固まってその前を兵士達が必死に防衛している。そして……肝心の羽根付はなんとか胸元の剣を抜ききる直前といったところだった。


 一人で敵地に飛び込むのとは違い、犠牲者を出すわけにもいかないという戦いは思ったよりも俺の体力を削っていた。本当ならばあれがまだ抜ける前にどうにかする予定だったが仕方ない。


「おっさん、あれは何なんだよ……本物か?」


「俺に聞くのか? まあ、本物って言えば本物だ。彫像が運悪く召喚の呼び水となってあの形で天使になったんだ。何度か見た覚えがある。動かない石像かと思ったら動く。ろくでもない門番みたいなもんだったよ」


 それって……等とつぶやくアルフに、喋りすぎたなと思いながら俺は駆けだした。ちらりと見えた限りではエルナも自分自身を壁際に置いて、祈祷術で羽根付もどきを叩き落している。練習通り、良い動きだ。


「だったら師匠もいいところ見せないとなぁ!」


 やや重くなった体に内心で叱咤し、天使像に駆け寄る。ようやく胸元の剣を抜き終わったのか、背中の羽根を大きく広げ、無表情に思えた顔に憤怒の表情を張り付けた天使がこちらを睨む。小虫のような人間ごとき羽根無しが、なんて言い始めそうだが俺はそれを許さない。


「霞み斬月……細切れとなれ!」


 途中で拾ったごくごく普通の鉄剣に、無理やり気味に祈祷術の力を流し込んで一時的に魔剣と化す。後で使い物にならなくなるだろうけども、緊急事態だ。隕鉄剣は見る奴が見れば目立つしな……出来ればもっときれいに仕留めたいが時間も無い。


『ギッ!?』


 悲鳴のような物を一声上げ、天使の体は頭、首、肩、胸、腰といったところからずれていく。血しぶきが霞のように散らばる……まあ、趣味は良くないが得意な技の1つだ。

 羽根付は血という物がまともにないのか、ただ単にいくつかに斬られるだけなんだけどな。


 天使が床に肉塊となって落ち、溶けて消えていくのと、鉄剣が音を立ててひび割れたのはほとんど同じだった。やはり、普通の剣にやるにはなかなか無謀なようだった。


 そして、頭を失った羽根付もどきは苦しみ出したかと思うとそのまま溶けて消えていく。羽根付もどきは天使本体と一心同体。本体が消えると一緒に消えてしまうのだ。逆に言うと、天使本体が生きている限り湧き出てくるので厄介この上ない。


 静けさが戻る会場。人々の顔には不安が多い。まあ、当然だよな。俺は疲れた体に気合を入れて周囲を確認する。主賓たちが無事な姿で会場の隅にいるのを見つけ、そちらに膝を折って頭を下げた。


「晴れの日にお騒がせして申し訳ない。西のウェズロー家、そして偉大なる将軍家が連なれば平原に敵は無し……そのための趣向でしたが思ったよりも術使いが頑張ってしまったようで。転げてけがをしてしまった方、衣服や手荷物を痛めてしまった方、後ほどお話があるかと思われます。当主様……片づけを始めてもよろしいでしょうか?」


「っ! そ、そうだな……もう少し後片付けが楽な方法を考えておくように術使いを叱っておいてくれ」


 ごまかしもごまかし、本当に仕込みによる演技だと思う奴がどれぐらいいるかは未知数だが、馬鹿正直に彫像が天使になって襲われました、なんてこと広まったら両家並びに彫像の送り主の破滅は免れない。ほとんどの出席者はそれそのものは望まないはずで、話の意図を悟れないような馬鹿ばかりではない……と思いたかった。


 ウェズロー家当主に頭を下げてその場を下がると……どっと疲れが全身を襲った。正直、羽根付を相手にしている方がいくらかマシだったと思える。この後、彫像を送って来たライマン家だったか?がどうなるかは俺の知るところではない。そこそこ目立ったような気はするが、隠居生活を辞めたのならばいつかそういう日は来るだろうとは思っていた。若干、早かった気もするがな。


「おじ様、怪我はない?」


「おかげさんでな。エルナの方はどうだ」


 言いながらも、怪我はしていなさそうなことは見て取れた。疲れた様子なのは、いきなりの実戦で立て続けに祈りをささげ、祈祷術を行使したからだろう。実際、エルナは首を振っただけでどこにも怪我はないとその場で回転して見せる。


「ならばよし……さっさとひっこむぞ」


「了解っ」


 落ち着けば、ウェズロー家が俺を探しにきたり、何か話を持ってくる可能性が高い。その前にひとまずこの場は退散である。他の貴族と何やら話し込んでいるマスクルと目が合い、互いに頷きあうことで了承とした。普通の貴族ではこうはいかない。ここぞとばかりに俺を中心に売り込みにいくだろう。そうして俺を裏切らないところがマスクルを気に入っているところなのだ。






「ははは。あれから大変だった。あの男は誰だ。君のところの部下と聞いたが、なんてのがたくさんだ」


「面倒をかける……まあ、マスクルのことだ。それを逆に利用したんだろう?」


 俺が笑みを浮かべながら問いかければ、マスクルもまた、貴族らしい笑みを浮かべて頷いた。優しいだけじゃなく、こういうしたたかさもないとな、生き残れない。


「ああ、もちろん。ウェズロー家もああ言われては無関係ですとは言えない。君の言葉に乗って、最初から考えられていた物が思ったより派手になった……そうしておかないと、何をどう言われるか。こちらも昔の縁でたまたま来てくれた元兵士が最後のつもりで無理をしたようです、なんて風に当主には言っておいた。全部は信じないだろうが、相手も頷くしかない。ふふっ……君に見せたかったよ」


 これでマスクル自身の目的、この式に参加しての自分の売り込みは大成功と言っていい状態になったわけだ。あの兵士の強さの秘訣は……なんて形でな。実際、ああいった食事が訓練先や戦の場で食べられるとなれば兵士達は十分に力を発揮し、一味違う兵士となれるだろう。


「おっと、悪いが今日は休ませてもらう。こっちが限界のようだ」


「ん? はは……うむ、今日はゆっくりしてくれ」


 横で舟をこぎ始めたエルナを抱えた俺を、マスクルは快く送り出してくれた。抱きかかえても声を出すものの、起きる気配がない……色々あったが、頑張ったな、エルナ。

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