神様の説明会
目覚めると、そこは床も壁も天井も真っ白な空間だった。
この景色には見覚えがある。
(がっかり女神に説明されたあそこだわ)
ということは、また何かの説明がある。つまり。
(私、死んだのね)
グレンは昨年他界していた。
生活のどこにでもグレンとの思い出ばかりで辛かった。
ただ、子供と孫が心の支えだった。
(あの子達は、先にグレンが逝ったから心配してないでしょう)
まだグレンも生きていた頃、きっとすぐに見付けてくれると冗談のように何度も言っていた。
「こほん」
「!」
背中から咳払いがして振り返ると、がっかり女神ともう一人いる。
「貴方は……」
「私は君が元々いた世界の神だよ。
今世はこいつのせいで色々不便をかけたな」
「いいえ」
がっかり女神が頭を叩かれ、大人しく言うことを聞いている。
どうやら神様の方が上のようだ。
「君は分かっていると思うけど、亡くなった」
「はい」
「そこで、元々の世界に戻す」
「……え?」
フェリシアは呆然と神様を見上げた。
「戻されたら、私、グレンとはもう……」
「亡くなったら記憶も縁も消されるんだよ。どこの世界に行こうとね」
「でも!」
「そうでなければ、君がこの世界に来たことで、誰かが君の伴侶からあぶれてしまっているよね」
「!」
前世の記憶は確かにない。
だとしたらグレンの記憶もなくなるのだろう。
「……戻る、べき、なんですか?」
「戻りたくない理由があるのか?」
「だってグレンが……」
「生まれ変わる時に消える記憶だよ」
聞き分けのない子を諭すように、神様の声は優しい。
フェリシアは泣きたくなった。
なくなると言われても、今こうして記憶があるのだ。
愛しい人と、別の世界に生まれ変わるなど、そんな絶望を受け止められない。
「……またこの世界に生まれ変わるかい?」
「!」
「記憶はなくなるし、なりよりこのポンコツの世界だよ」
「ポンコツって……」
「例えこの世界の女神がポンコツでも、私はグレンのいるこの世界がいいです」
「ポンコツを否定してよ……」
がっかり女神が何か言っているが、今はそこに気をとられている場合ではなかった。
フェリシアはただ神様を見上げ、祈る。
「お願いです。
私をグレンと同じ世界でいさせてください」
神様はため息をつき、それから女神を軽く睨んだ。
「分かったよ。君をもう一度この世界で生まれ変わらせよう」
「ありがとうございます」
神様は何かを唱え、フェリシアの頭を撫でた。
「来世の君が、幸せであるように」
「ありがとうございます。
私、今世も幸せでした」
フェリシアが言うと、神様は嬉しそうに微笑んだ。
「そうか。それは良かった」
神様の呟きを最後に、フェリシアは姿を消した。
□ □ □ □ □
フェリシアが転生の流れに乗ったのを確認し、二人はのんびりお茶をしていた。
「わざわざこの世界を選ぶなんて、変わり者ですねえ」
「作った本人が何を言うんだ」
「だって記憶がなくなるのに」
「お前はまだ半人前だからな」
意味ありげな神様の言葉に気付かず、女神がふくれる。
「お前、きちんと記憶を消せてないだろ」
「……え?……ええっ?!」
ガタン、と派手な音をたてて女神が立ち上がった。
神様は女神が立ち上がる前に自分のカップを手にした。経験による被害からの回避行動だ。
「だから選ばせた。それだけだよ」
「え?じゃああの子はまた同じ人と……」
「さあな。どこまで記憶が残るか分からないし」
言いながら、神様は少し楽しそうだ。
「転生した頃、また来るよ」
「あの子は神様まで味方につけるんですね」
「もう書き込むなよ?」
「うっ」
「それできちんと勉強しろよ」
「何をですか?」
「女子力と恋愛力」
うっ、と崩れ落ちた女神に肩を竦め、神様は転生の流れを見つめた。
「次の転生は、こいつに邪魔されないで好きに生きろよ」
呟いて、神様は自分の世界へと戻っていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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