14 鼓舞
静寂が訪れた暗闇の中。
男と旅人は、ひっそりと作戦会議を始めようとしていた。
「よっしゃ。とにもかくにも、まずはお互いのこと知らなあかんな。
まあ言うても時間もない。せやから今は大事なとこだけ話すで。
俺の能力はな、“物質が動いたときに生まれる運動エネルギーを扱う”ことができる力や。」
男の声は静かだが、どこか誇りを帯びていた。
「……せやけど万能やない。欠点も多いし、扱いもむずい。
細かい説明しとったら長なるから、要点だけ言うで。
どんな物でも動いてる時には必ず運動エネルギーが発生するやろ?それが俺の体がちょっとでも触れると運動エネルギーをリセットする事ができる。
ほんで、そのリセットしたもんと同じエネルギーを出力する事ができるや。
せやけどな、デメリットもある。
行き場失うた元のエネルギーは、10秒後に溢れ出そうとする。
10秒間なんもせんかったら――そのまま爆発や。」
淡々と語られる内容は、あまりにも危険だった。
「発散方法は三つ。
一つ目は無機物にエネルギー流して、全方位にぶちまける。……まあつまり、爆発やな。
二つ目は流れてきたエネルギーを別の方向に向けて発射させる事ができる。
もう一つは、自分の体のどっかでそのエネルギーを体現する方法や。
せやけど対象の物質と同じ質量の体の部位が勝手に選ばれるし、向きも指定できへん。
これが一番の弱点やな。
……ま、とりあえず俺の話はこんなもんや。
ほな次はあんちゃんの番やな。
どんな能力持っとるんか、聞かせてもらおか」
自らの能力の欠点、その理解、そして補完方法。
それらを男はあまりに軽やかに語った。
だが、こんな芸当が簡単にできるはずがない。
恐らく血の滲むような試行錯誤を繰り返してきたのだろう。
――それに比べて、僕は。
そう思った瞬間、言葉が喉で止まり、息を呑んだ。
「どないしたん? 大丈夫か?」
沈黙した僕を案じ、男が声をかける。
「……ごめんなさい。
正直、僕は最近能力を認識したばかりなんです。
だから戦力には、ほとんどならないと思います。
それどころか、旅に出る前の記憶……自分のことさえ、最近は分からなくなることが多くて。」
以前なら、気にも留めなかったこと。
けれど能力を知ったあの日から、胸に引っかかるようになった疑問。
「――自分は一体、誰なんだろう。」
気づけば、口にしていた。
男はしばらく黙り、それから柔らかく言った。
「なんやよう分からんけど、あんちゃんも色々大変そうやな。
俺はあんちゃんと話し始めたばっかりやし、
正直、あんちゃんのことなんも知らん。
せやけどな、知らんからこそ“分かろうとする”ことはできるやろ。
せやから聞かせてほしい。
思い出せへん記憶があって、
自分が能力者やって知ったとき――
あんちゃん、どう思ったんや?」
静かな問いだった。
「……それは……知りたいって思いました。
自分の能力をもっと知りたい。
失った記憶を思い出したい。
そして、あの頃のような素敵な朗読をする――
“僕になりたい”。
だからこそ、僕は旅を続けてるんです。
一流の朗読家になるために。」
男は、わずかに微笑んだ気配を見せた。
「誰だってな、どっかしらに見えへん闇抱えとる。
せやけどな、いつかはその闇と向き合わなあかん時が来るんや。
どんだけ逃げたってな、
結局どっかで闇に喰われるだけや。
……でもあんちゃんは違う。
逃げんと向き合う道を選んだ。
その意味、分かるか?
あんちゃんはもう一歩踏み出しとる。
しかも、とんでもなく大きい一歩や。
これはな、簡単なことやない。
誰にでもできることちゃう。
自分のことが分からんのやったらな、
あんちゃんが“なりたいもん”になってしまえばええ。
それを自分にしてまえばええんや。
今のあんちゃんなら、なんにだってなれる。
それくらい、その一歩はでかかったんや。
せやから――絶対に諦めるな。
向き合って、戦え。
ほしたらな、いつか必ず光は見えてくる。」
「……ありがとう。」
喜び、感謝、そして救われたような感情が胸に溢れ出す。
込み上げる想いを抑えながら、僕は今伝えられる精一杯の気持ちを込めて礼を述べた。
やがて、短い沈黙のあと。
僕は――現時点で分かっている自分の能力を、隠すことなくすべて男に語り始めた。




