挨拶
今日、ルディルのご両親に挨拶に行く。
商人と聞いていたので身なりは確りととは思っていたが、まるで貴族のお茶会にでも参加するような気合いが使用人から感じられた。
もしかしたら、ルディルのご両親は厳格な人なのかもしれないと思い朝から私も緊張している。
「ニルヴァーナさん行きましょうか?」
「はっ…はい」
準備が整い、ルディルに馬車までエスコートされると上質な馬車が用意されていた。
これが、ウェルトンリンブライドの通常なのか。
今日がとてつもなく重要なのかを考えた方が良いのか。
何も考えずいた方がまだ平常心が保てるのか。
もう何が正しいのか分からなかった。
「…ニルヴァーナに伝えていなかったんだが、俺達の婚約には国王両陛下の許可が必要となるんだ」
「国王両陛下…ですか?」
ルディルは平民の商人と聞いていたので、婚約に国王の許可を必要とするのはオーガスクレメン王国では無いこと。
ウェルトンリンブライドは平民の婚約も王家の許可を必要とするのだろうか?
私が他国籍の者だから身元調査やスパイや謀反など様々な疑いがあるのかもしれない。
そう思うと、別の緊張感が生まれる。
もし、怪しまれたらその場で投獄もあり得るのかもしれない。
「…ニルヴァーナさん、俺はあなたに言ってない事が…あるんだて」
「はっはいっ、なんでしょう?」
分かりやすく私は緊張している。
「俺…その…」
ルディルはその後黙ってしまう。
馬車も停車し降りた方が良いのでは?と思うも真剣な彼に何も言えず、彼の言葉を待ち続けた。
「…降りようか」
「…はい」
馬車から降りると私たちを出迎えるように執事と使用人の方々待ち構えていた。
誰かに出迎えられるなんて経験はなく、それが王宮だと思えば尚更緊張してしまう。
私が緊張してしまうのに、平民のルディルの方は何ともないように見える。
「こちらでお待ちください」
執事に案内された部屋で粗相がないよう振る舞うも緊張は隠しきれずにいた。
「ニルヴァーナさん…あの…俺は実はっ…」
「はぃ」
ガチャ
扉が開かれ王族が登場する。
私にとっては国王陛下という方に出会うのは初めて。
オーガスクレメン王国でも国王陛下の姿を拝見したことはなく、頭を下げたまま相手の反応を全神経で探っていた。
「面をあげなさい」
「はい…ぁっ…」
失礼だと思いながらも、国王の顔がルディルに似ていたので視線を逸らす事が出来なかった。
「ん?どうかしたか?」
「ぃぇっ…本日は、国王両陛下にお会いでき光栄に存じます」
「ここは公の場ではない、堅苦しく考える必要はない。フィルが婚約を決めたと聞いて、驚いたが嬉しく思ったよ」
「…フィル?」
フィルとは誰の事?
「ん?まさか、貴方まだ名乗ってないの?」
王妃陛下も驚いたようにルディルに視線を向ける。
「…はい」
「ルディルさん?」
「…ニルヴァーナさんにはまだ話していなかったが、俺の本当の名前はフィルディカル・ウェルトンリンブライド…ウェルトンリンブライドの…第三王子…なんだ」
王宮で、王族の前でルディルが冗談を言う人ではない。
彼の表情からも真剣さが伝わる。
「第三…王子…本当…なの?」
「あぁ。いつ言おうか迷ってたら今になってしまった…」
ルディルがどこにいても誰が相手でも臆することはないのは、商人として貴族との交渉で培われた能力だと思っていた。
まさかウェルトンリンブライドの王族だと考えたことは一度もなかった。
「ルディ…えっと…フィ…ルディカル様」
「いや、ルディルでいいよ」
「あの…本当に…私で良いの?」
ルディルが王族と聞いてしまえば、私のような者が相手で本当に良いのか不安になる。
私はオーガスクレメンでさえ誰にも認められない貴族だったのに…
「ニルヴァーナさんしか考えていない」
ルディルの真剣な思いを聞いても、本当に私で良いんだろうかと踏みとどまってしまう。
「そうなのよ。フィルは誰にも興味を示さなくて、このままでは誰とも婚約しないんじゃないかと心配していたのよ」
微笑みながら近付いてくる王妃からも婚約について反対な様子は見えない。
ガチャ
再び扉が開くとルディルによく似た男性が二人も登場する。
「おっ、ルディルが漸く婚約を決めたと聞いて急いで来てみたら、こんなに綺麗な令嬢とは…」
「婚約から逃げる為に留学したと思ったが、婚約者連れてくるとはなっ」
揶揄われるルディルは途端に幼さが溢れ彼らと親しいのだと分かる。
ルディルは第三王子と名乗ったので、二人はお兄さん…なんだよね?
顔もそっくり…
だけど、家族が揃うと国王とお兄さん二人は赤い髪に瞳をしている。
王妃は金色の髪に緑色色の瞳。
何故ルディルだけ黒髪黒目なんだろうか?
疑問を口にする暇もなく、お兄さん二人に囲まれ
「留学先で弟はどうだったか」
「二人はどこで知り合ったのか」
「今後はどこに住むのか」
矢継ぎ早に質問をされ答えるのに必死だった。
「今日は客室に泊まると良いわ」
失礼に当たると分かりながら断ることも出来ず、王妃の提案通り客室のお世話になることになった。
食事も王族たから厳かな雰囲気なのかと思ったが、そうでもなく家族というものはあんなに楽しい食事をするのかと驚いた。
そこでもお兄さん二人は
「フィルはよく令嬢達から逃げ回っていたな」
「令嬢達は王族という肩書きで近付いているだけだって頑なにお茶会も顔をださなかったな」
思い出話のようにルディルの事を沢山教えてくれた。
その間
「もう、その話は良いから」
照れるルディルは家族に愛されているのが分かる。




