8話 通りすがりの草刈男(過激派)
空から爆音で垂れ流しにされる不快な声に、すっかり【さすらいシッター】さんは参っていた。
「やはり、私たち目立ってるようです」
今更だよねぇ。
とはいえ、だ。このゲームでは空が飛べるのか!
原理はわからないが、非常に魅力的だね!
もし【名称公開】のデバフを受けた状態でも飛べるのなら、自爆特攻に他人の手を煩わせる必要がない。
それ以上に、空からの撮影も可能ということになる。
そう思ったら是が非でも欲しくなってしまったぞ。
まずは記念撮影だ!
このゲームでは空を飛ぶことが可能であるというアピールチャンス!
謎の飛行生物に向けてパシャリとシャッターを切る。
するとどうだ、彼は一転してこちらを馬鹿にする態度をやめ、慌て始めるではないか。
「はwww? ちょ、おまwww 何したwwww もれのwww ファンタジーガスがwww 漏れてるんだがwww?」
前言撤回。彼はこちらに不遜な態度を取りながら墜落した。
しかし、即座に復帰して詰め寄ってくる。
「おいwwww バブおじwwww 一方的に攻撃仕掛けてくるなんて良い度胸じゃねぇかwwww 俺を東のトッププレイヤーと知っての狼藉かwwww おwww おwww?」
「あの、何かのご病気ですか? ずっと笑っていらっしゃるようですが」
「ちょwww ご病気とかwwww これはあんたらをコケにしてるだけwwww 本気で心配される謂れはないんだがwwww? ワロスwwww」
「だ、そうですよ。よかったですね【さすらいシッター】さん」
「私の周りにいないタイプでしたので、本気で心配しました。ご病気じゃないのでしたら、よかったです」
イチャモンをつけられたのにも関わらず、笑い飛ばす赤髪の青年の心配をする私たち。
周囲はかわいそうな視線を私たちから赤髪の青年の方へと向けていた。
「でwww? バブおじwww」
「バブおじって誰ですか?」
「おwwww まwwww えwwww」
「ああ、ベビーカーに乗ってるからそう言われてるんですか? ひどいなぁ、彼女には少し移動を手伝ってもらってるだけですよ。私はアキ……おっと、ここでは【風景カメラマン】ですね。先ほどうっかり偽名を使わなかった為、このワールド特有の洗礼を受けてしまいましてね。せっかくの初ログインをしに戻りで怪我したくない。だったら多少の恥辱くらいは受けようと彼女の世話になった次第です」
「草wwwwww」
そんな説明をしている時だ、横合いから珍しいチュートリアル武器を選んだ男性が斬りつけて来たのは。
「草に、草を生やすなーーーーーー!!!」
「グエーwww いきなり何するンゴwww」
私と赤髪の青年の間に突如として割って入り、一方的に不満を叩きつけ始めた。
私もびっくりしたし、【さすらいシッター】さんも驚き困り果てた。
白昼堂々の凶行。
それもこんな人の往来が多い場所での犯行である。
「貴様か! 草に草を生やす愚か者は! 我の草刈機が貴様の余分な草を刈り取ってくれるわーー!!」
バリバリバリバリ!
あんな危険な武器を振り回しているのに関わらず、血は一切出ない。
ゲーム的なシステムか? はたまたまた別の要素だろうか?
代わりに草を刈ってる音だけが周囲に響き、同時に草が周囲に飛び散った。
不思議な光景である。
「おま、やめろ! は? 本当にもれの草が生えなくなってるんだが?」
「ふ、またつまらない草を刈ってしまったな。また貴様の草が生い茂る頃、程よい短さに揃えてやる!」
それだけ言うと、男は去っていってしまった。
「なんだったんでしょうか、あの方」
「いろんな人がいるからねぇ」
「そうですねぇ」
それで済ませてしまって良いものなのか。
被害者の赤髪の青年はポカンとしていた。
あの多くの草は彼のアイデンティティだったのだろう。
「ったく、人をおちょくれなくなったら俺の武器は一つ失われたも同義。バブおじ、迷惑かけたな」
「そのバブおじっていうのやめてくれません?」
「そうですよ【風景カメラマン】って偽名もご紹介されていたでしょう?」
「そういうのは二つ名とシステムに認められてから名乗るもんだぜ?」
すごくカッコ良さそうにこのゲームの蘊蓄を語ってくれる青年。
草が取れて綺麗になったか、はたまたこっちが素なのだろうか。
「そう言えるってことは、あなたはすでに二つ名を?」
「そうだ、聞いて驚け。俺の名は【風船飛行士】! チュートリアル武器はこの風船だ。今はなんでかガスが漏れて飛べないが、もちろんこいつがなくてももう一つの翼がある!
スキル発動!【竜鱗図冊】、合わせて発動!【銀盃羽化】」
名乗り、スキルを宣言するなり、彼の体が龍の鱗に覆われていく。そして背から翼が広がった。
地を蹴り、上空へひとっ飛び。そのまま上空を旋回した。
「すごい! 空を飛ぶためのスキルがあるんですね!」
「ワハハハハ、サラダバー!」
「あ、あのまま帰っていくみたいです!」
「どっち向かいました? あのスキルの詳細をまだ聞いてません」
「先ほど東のトッププレイヤーだとおっしゃってましたし、この拠点から東に彼らの拠点があるんじゃないでしょうか?」
「冴えてるね【さすらいシッター】さん。悪いけどこのまま向かってもらえる? あ、もちろんお時間があればの話だけど」
「私もとても興味が湧きました。実は、何かきっかけでもない限り、すぐにログアウトする予定だったんです」
「それはそれは。やりたい何かが見つかったのですか?」
「はい。まずはそれをやり遂げてから、ログアウトをしようと思うのです」
「良いですね。私もまだ孫のプレゼンに使える写真が溜まっておりません。ここは一つお互いの利点のためにも協力致しませんか?」
「協力と言いますと?」
「お互いの思い出づくりの、です」
「良いですねぇ、これが私の中で何かに熟成できれば、尚のこと良いんですけど」
「うまくはいえませんが、今日あなたの人となりを見て来た私が保証しますよ。あなたは素敵な女性であると」
「う、真に受けちゃいそうです」
「どんどん受けちゃってください。それをどう生かすかはあなたに任せます。さぁ、彼の姿が消えなくなる前にどんどん進みましょう。食べた後は適度な運動が最適です。ただ乗ってるだけの私がいえたセリフじゃありませんが」
「不思議と、ベビーカーを押してる時の疲れなんかはないんですよね。母親ってみんなそんな気持ちなのでしょうか?」
「私は男親なので女性の気持ちこそ代弁できませんが、自分がそれを押す機会はついぞ訪れませんでした。もちろん何度も押そうかと申請したのにも関わらずです」
「きっと、赤子を乱暴に扱われたくなかったのでしょう。なんとなく、今ならその人の気持ちがわかるんです」
中に人を入れてる時に押すと、バフがかかるタイプのスキルなのかな?
そう思うと、この空間ではデバフを受けた時の気だるさが緩和されてるように思う。
だから死んで戻るのがもったいなく感じて、ついつい依存してしまうのだ。
なるほど、これがバブみ。
知らず知らずのうちに【さすらいシッター】さんに母性を感じるのはそのせいか。
|◎〻◎)綺麗なジャイアン、もとい風船飛行士の誕生の瞬間でした。
アキカゼ・ハヤテ、またの名を【風景カメラマン】【バブおじ】new!




