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6話 通り魔的アナウンス

 【さすらいシッター】さんに連れられて、私は小粋な撮影旅行へと決め込んでいた。


 流れゆく景色に身を任せるというのもなかなか乙なものだ。


「聞いた話によれば、ここは深緑都市と呼ばれ、かつてはウサギの聖獣がレイドボスとして君臨していたようですね」


「レイドボスですか? こんな最序盤から? まぁ私の知ってるゲームでも似たようなことしてましたけど」


 ガラガラとベビーカーに揺られながら、かつてAtlantis Worldを歩んだ記憶を連ねる。


「1000人単位での英雄譚ですか?」


「はい。あいにくと私は表立って動くことはできませんで、ズン部娘達に任せていましたよ。その代わり、重要っぽい情報を一方的に送りつけて、貢献はしていましたね。どうも肉体に引っ張られるままに動く癖があったようで」


「まぁ、お若いんですね」


「歳を重ねたからこそ、己の肉体限界を悔いるのです。それが衰えを知らない肉体に入ってご覧なさい。ついつい限界まで確かめてみたくなるものです。おかげで空の上まで探索域を広げたほどです」


「びっくりするほど活動域がお広いんですね。その点で言うと私はダメです。このように引っ込み思案でして。あまりガーガー行ってくるタイプとは少し距離を置いてしまって。婚期を逃すばかりです。【風景カメラマン】さんみたいに余裕のある方ならまだ話しかけることもできるんですが……だいたいが年上かつ既婚者で。とほほ」


 恋愛関係で随分とご苦労されてるようだ。

 何かお照題してあげたくなるけど、流石に人の恋にあれこれダメ出しできるほど私は百戦錬磨というわけでもない。


「いつか理解者が現れてくれたらいいですね。【さすらいシッター】さんのことを理解してくれる素敵な男性が現れるまで、少しづつ自分を磨きましょう。それまでのお相手役くらい引き受けますよ」


「はい、それは自分でもわかってるんですけどね。どうも人前に出ると緊張してしまうもので。あまり面と向かって話すことが苦手なようです」


「でも、今はこうしてお話しできている。その心は?」


「チャットやメールなら大丈夫なんです。それと【風景カメラマン】さんが話しやすいタイプだからというのもあるのでしょう。鈍臭い私が最後まで喋るのを待ってくれていますし、ああ……ここでなら私のペースで話していいんだって、少し元気をもらってますから」


 彼女は照れながら自らの心情を語った。

 やはり対人恐怖症。しかしそれ以上に人見知りが激しいのだろう。アバター越しでは実年齢こそ見えてこないが、結婚を促されるくらいには適齢期。

 直接的にその話題はNGとして対処しつつ、彼女の興味あるものを順序立てて引き出して、成功体験をしてもらいましょうか。

 どうやら彼女は人の目を見なければ多少お話ができるタイプだ。


 しかしそれを物言わぬ人形でやっていては進展は見込めない。

 だからと言って私の代わりにこのベビーカーに人を入れるというのも得策とは程遠いだろう。


 自ら好んでこのベビーカーに入ってくれる信頼できる人。

 探し出すのに少々骨は折れるが、それくらいのことくらいはしてあげたいなと思う。


 なんせほとんどの人が私が渋滞を負っているのに見てみぬふりを決め込んだ。そんな中で彼女だけが挙手をして、助け舟を出してくれた。そんな心の綺麗なお嬢さん、助けてあげたくなるのが紳士というものだよ。


 相変わらず酷い絵面だけど。

 道ゆく人々のほとんどがこちらを振り返っては二度見するくらいにね。


 相変わらず絵面は酷いけどね。


 と、そんな決意に燃えてる時である。

 突如上空から降り注ぐアナウンスが走った。



【Raid Battle!】


【包丁戦士】


【包丁を冠する君主】

【深淵域の管理者】

【『sin』暴食大罪を司る悪魔】


【メイン】ー【深淵天子】【深淵使徒】【プレイヤー】【会者定離】

【サブ1】ー【次元天子】【ボーダー(妖怪)】【上位権限】

【サブ2】ー【暴食大罪魔】【デザイア】



【聖獣を担うが故に】


【深淵へ誘い】


【聖邪の境界を流転させる】


【責務放棄により】


【境界を見守り】


【管理することを強いられる】


【会うは別れの始め】


【合わせ物は離れ物】


【産声は死の始まり】


【この世の栄誉は去ってゆく】


【故に永遠なるものなど存在しない】


【瞳に宿る狂気に溺れたままいられることを祈るのみ】


【ああ……この世は無情である】


【ワールドアナウンス】


【【包丁戦士】がレイドボスとして顕現しました】


【レイドバトルを開始します】



「なんです!?」


「レイドボスとアナウンスしてましたね」


「倒されたんじゃないんですか?」


「わかりません」


 慌てふためく私たちを他所に、周囲がやたらと殺気付くのに気がついた。


「包丁戦士がログインしたぞー!」


「今度こそあの時キルされた恨みを晴らしてやる!」


 プレイヤーキラーなのかな?

 それにしてはこうもプレイヤー全体からの殺意が高いとなると、相当に名の知れた御仁なのだろう。

【包丁戦士】……いったいどれほどの殺し屋なのか見当もつかない!


「新規の方ですか? 危ないから下がってて。彼女は非常に危険で、二つ名持ちだろうが新規だろうが構わず狙う。なのでボクの後ろに隠れることをお勧めするカナ」


「これはご丁寧に申し訳ありません」


 よもやベビーカーから感謝の言葉が‘送られるとは思わなかったのだろう。


「ぶっ! ちょ、なんでそっちからお礼の言葉が?」


「彼女はどうも人見知りが激しいらしく。私が大人の交渉を指導中でして」


「ああ、把握した。どうりで動きが悪いと思っていた。ではこちらで誘導するので、あなたがお付きの方を誘導願えますか?」


「それくらいならば喜んで。しかしあなたを説明する時になんて敬称したらいいかわかりません。テンガロンハットのお兄さん、といってもいっぱいいるでしょう?」


 周囲には彼と似たような装いのウェスタンがたくさんいた。

 きっと早撃ちとか得意なんだろうなと思わせる集団だ。

 馬に乗ってて、なんともかっこいい。

 馬もいいな。いつか私も挑戦したいものだ。


「はは、こう見えても結構歳は行っていてね、おじさんなんだ。通り名は【短弓射手】。悪名高いプレイヤーキラーである彼女を追いかけているハンターさ。俗にいうプレイヤーキラーキラーといったとこカナ?」


「私はアキ……と、今は【風景カメラマン】でした。只今弱体化中でして。以後そっちでお呼びくだされば幸いです」


「あちゃあ、【名称公開】のデバフを知らなかったか。となるとご新規さん? 貧乏くじを引いてしまったね」


「実はカクカクシカジカ。身の潔白を晴らすための自傷行為でして」


「その精神性、【荒野の自由】は気にいるかも知れないね。ぜひ機会があれば会いに行くといいよ。荒野エリアで君がくるのを待ってるよ。さて、これ以上の立ち話はできそうもない。くれぐれも早急にこの場所から離れることをお勧めするカナ」


 そういって、馬を走らせていく【短弓射手】さん。

 お仲間のガンマンは馬上で発砲しながら、PKと名高い【包丁戦士】へと向かっていき、そのまま粉微塵にされていた。


 私は必死に逃げ惑う【さすらいシッター】さんのベビーカーに押され、戦場から離脱した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 【包丁戦士】のアナウンスを知らないプレイヤーからしたら突然こんなアナウンスが鳴ったら驚くでしょうね! [一言] どんどん原作キャラクターや新規キャラクターが出てきましたね! これからどんな…
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