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5話 自己紹介とフレンド申請

「皆さーん、ここで自分の名前を明かすのはまずいです! さっきの人見たでしょ? 名乗った瞬間に倒れてしまいました! 名乗るのはやめておきましょう!」


 とりあえず、注意勧告も兼ねて叫んだ。


「本当か? あんたがPKしたとかじゃなく?」


 周囲からの疑いの目が私を追い込む。


「証拠はあるの?」


「仕方ありませんね、ここは自らが身を切るしかなさそうです。私の名は【アキカゼ・ハヤテ】! つい先ほどこの世界に来たばかりの開拓者です……ぐっ!」


 突如、胸の奥が苦しくなり跪く。

 たった十数人に名前を認知されただけなのに、これほどのデバフがかかるのか?


「ほら、ご覧なさい。名乗るだけでこのデバフ量。突然の眩暈、そして息切れ。体は鉛のように重くなり、正直立って歩くのは厳しいでしょう。先ほど声をかけた女性の比ではありませんが、彼女は一陣プレイヤーと聞きます。きっと私以上に名前が売れてて、それで即死するほどのデバフを受けたと見ています」


 喋るのも億劫なので、その場に座り込み、あぐらをかく。


「おい、あんた大丈夫か? 随分顔色が悪くなってる。もしかしてマジで名乗りがデバフになるのか?」


「新規プレイヤーの私ですらこれです。なのでネーム以外の名乗りを考えた方が良さそうです。せっかく個性豊かなチュートリアル武器を持っているんですし、通り名でも決めましょうか」


「俺の武器、ただのバスタードソードなんだけど?」


「いいじゃないですか、バスタードソード。仲間にする上で非常に頼りになる。私のカメラとは大違いだ」


「逆になんでカメラを選んだのか気になる」


「実は私、このゲームの広報を家族から頼まれまして」


「家族から? 見た感じ若そうだけど、実は結構年上だったり?」


「そうなんですよ、定年して暇を持て余してるだろうから孫が遊んで平気か証明してくれって」


「早々にプレイヤーに人権がないって出てたが?」


「ですよねぇ。あれで娘達が待ったをかけるかもしれない感が急に高くなって不安が……」


「自分で楽しむ分にはいいが、他の人に勧められるかっつーとわからなくなるやつだな」


「なので、それ以外の素晴らしい景色やゲーム性をピックアップしていこうと思っています。さて、私は先ほど名乗りましたが、ずっとデバフを受け続けるのは得策ではありません。ここらでお互いのニックネームでもつけましょうか」


「なら。俺は【斬鉄さん】とでも呼んでくれ。いつかこの大剣で岩を叩っ切るのが目標の戦士だ!」


「いいですねぇ、【斬鉄さん】ですか。あ、フレンド申請してもよろしいですか?」


「いいぞ。今は一人でも顔見知りが欲しい」


「はい、申請しました。以後、私のことは【風景カメラマン】とでもお呼びください。風景画を撮る趣味も兼ねてこれを選びましたし」


「あ、私もよろしいですか?」


「どうぞどうぞ」


 交渉によって疑いを晴らせば、あとは遠巻きに見ていたプレイヤーから声がかかる。

 見るからに戦闘系だった【斬鉄さん】とは異なり、ベビーカーをチュートリアル武器に選んだのほほんとした女性が小さく挙手をしていた。


「私は【さすらいシッター】とでも名乗りましょうか」


「なるほど、だからベビーカーなんですね?」


「あ、いえ。別にそっちの職業についてるわけではないんです。姉のお下がりでこれをもらったんですが、扱う前に相手がおらずで持て余しております」


 違った。結婚することを催促されてるだけだった。

 なんというか、見た目通りの性格なんだろうなぁ。


「なんともまぁ、愉快なご家族で。仲がよろしいんでしょうねぇ、うちの娘達もそのようなやりとりをしていたんでしょうか。あいにくとそういうやりとりは父親の耳には入ってこないもんで」


「そういえば、お孫さんがいるほどのお年なんでしたね。その、良ければ乗ります?」


 折り畳まれたベビーカーが、赤子を乗せる状態へと広げられる。

 今は動くことも億劫だ。なら、ご好意に甘えさせてもらおうか。


「では、ご好意に甘えましょうか」


「ほ、本当に乗るんですか?」


「おや、ご迷惑でしたか?」


「あ、いえ。いい実験になるので私としては如何様にもと」


「では遠慮なく」


 私はベビーカーと一体化した。

 乗り込もうと身を畳めば、しっくりくるほどの空間の広さが確保される。

 体が収まらないと想定していたが、思いの外自由は聞く。

 これはある意味で発見かもしれないね。


「あの、お具合はどうでしょうか?」


「意外と悪くない。これは新しい発見かもしれないけど、このベビーカー人を乗せるのに適しているかもしれないよ? 中の空間を私のカメラで撮影しよう」


「そ、そうなんですか? 実際に自分が乗ろうとまでは思ってもなかったのでその情報は助かります」


「なんのなんの、こちらも世話になってる身ですし、あ、そうだ。こんな状態で悪いですけど、フレンド申請しても?」


「今更断れませんよ」


 こうして私は【さすらいシッター】さんともフレンドになった。

 写真はポラロイドカメラのように映し取ったデータが吐き出される仕掛けのようで、それはフレンド間でやり取りできるようだった。


「あらあら、まぁまぁ」


「意外と広いでしょう? まるで個室のトイレのような空間です。景色もバッチリですし、あとは外からの絵面でしょうか?」


 今の私はベビーカーから顔だけ出してる状態になっている。

 肉体は赤ん坊に置き換えられ、顔だけキャラメイクのまま。

 なんていうチグハグな存在だろう。


 ぜひ写真に収めたいのだが、あいにくとこのカメラでの撮影許可は私の手から離れたら行えないようだった。

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