09:魔法陣と笑み
今日は授業の後、食堂の裏の小さな広場に来ていた。
カイに魔法陣の書き方を一緒に勉強してくれと頼んだのだ。
ただ魔法陣と言っても書いても何も起こらない。
この学校内は結界が張られているらしく、大層な使い手でない限りは魔法陣を発動させることはできないようになっている。
授業で必要な時だけその結界が解かれるという決まりだ。
魔法陣が発動できるとなると、学校が荒れてしまうらしい。
どういうことかはわからないが校長が入学式の時に言っていたのでそうなのだろう。
ちなみに実習は3年からだが魔法陣を描くだけなら2年から習うのがこの学校のカリキュラムだ。
魔法陣の勉強をすると言っても、図書室だと話しながらはできないし、談話室はカイが嫌がる。
だからと言ってできるような場所となると案外なくどうしようと思っていたら、この場所ならとカイが提案してくれたのだ。
「この線の意味は…っと……」
そう図書室から借りてきた本を確認しながら大きな紙に描いていく。
その様子をカイがじっと眺めていた。
一緒に勉強しようと言っても、詰まるところリオンのための時間のようなものだ。
カイにとってはきっとこの程度、当たり前の知識なのだろう。
けれどもリオンの誘いに二つ返事で答えてくれたのだから感謝しなければならない。
「……そこもう少し角度つけておかないと後で詰まる」
そうカイがリオンが描きかけたものを見て言う。
「うーん、難しい…」
そう腕を組み眉間にシワが寄ってしまう。
「まぁ、最初から描ける人なんていないし…しかもまだ授業でやってない魔法陣だし」
「そうなんだけど、描いてみたくて」
そう言うとカイはリオンが描いていた場所に近づき、魔法陣を描くためのペンを取り出した。
「ここはもう少し、こう」
リオンが描いたものに正しい線をカイが描き加え始める。
その様子を見て、ふむふむとリオンは頷いて聞いた。
「ついでにこの先にあたるのはこの角。最初に点を決めておいた方が、楽。けど、ここの描き方はすごく綺麗で良いと思う」
そうカイがすらすらと描き加え、描き直された線で出来上がった魔法陣は随分と綺麗なものだった。
それを見て大層感心した様子でリオンが聞いた。
「やっぱりカイ、すごいなぁ。すっごく綺麗だ、この魔法陣。ねぇ、いつからこういうの描き始めたの?」
「いつからって…?」
「学校来る前から描いてたんでしょ?何歳くらいから描いてたの?」
「……気づいた時には描いていたから、何歳とかわからない」
「そっかぁ。私ももっと早くから描いておけば良かったなぁ〜」
思わず口を尖らせて言ってしまう。
「ここに来る前は魔術はやってなかったのか?」
珍しく、いや、初めてかもしれないカイの質問にリオンは思わず目をパチパチと何度か瞬きした。
「全く。ここに来てから面白いなぁって思って」
そう言いながら新しい紙を取り出し、カイの描いた魔法陣を見本に新しく描き始めた。
次こそは綺麗に描いてやろうと思うリオンはペンを取ると思わず口角が上がった。
さっき言われた線の位置はばっちりだ。
一本ずつそっと描いていくと、先程上がったリオンの口角は真っ直ぐになり、大層集中していることがよくわかる様子だ。
リオンの中では、完璧だった。
最後に引いたその線がぴたりと最初に目星をつけた点につながり完成するはずだった。
「どうだ!」
そう思って自信ありげに見た魔法陣の線は、最初に目星をつけた点とは見事に違う点につながっていた。
それを見てリオンは絶望した。
「どうして……私センスないのかな…」
そううなだれているとどこからか小さな笑い声が聞こえた。
カイが笑ったところはまだ見たことがない。
だからきっと彼が笑っているはずなどないと思い、キョロキョロとリオンはあたりを見渡すが誰もいない。
まさかと思いカイの顔を見ると、確かに彼は笑っていた。
「笑った……」
そう言うとカイは、はっとした顔を一瞬していつもの表情に戻った。
「ねぇ、今!笑った!カイが!笑った!!!みんな!今の見たー!??」
思わずテンションが高くなってしまう。
「ねぇねぇ、今、笑ったよね?そうだよね?良いと思う。うん!……ってあれ?…もしや、私の失敗見て笑っ……た……?」
そう言うとふるふると怯えた子犬のようにカイは首を横に振った。
「なら何で笑ったの?」
少し頬を膨らませながらリオンが聞くがカイはまだフルフルと横に首を振るだけで答えない。
「…もう、なによー。人の失敗見て笑わないでよー」
そうじとっとした目線をカイに向けると、やっとカイが口を開いてくれた。
「……いそがしい人だと思って」
「へ?」
思わず変な声が出た。こんな声、城で出したらどこか遠くの島に流されるだろう。
「いや、表情も、行動も、いそがしそうだなって。あ……悪い意味じゃない」
「はぁ。悪い意味じゃないってことは、褒めてくれてるってこと?」
そう聞くとカイはリオンと視線は合わせずに、微かに頷いた。
それを見てリオンは嬉しくなった。
学年1位に褒められたのだ。きっかけがリオンの絶望した魔法陣だったとしても、褒めてくれたことには変わりがない。
「ふふっ。じゃあ喜んでおこっと」
そう笑ってまた新しい紙を取り出した。




