79:仕事と手紙②
3日間の休みだ。
気ままに過ごすはずだったのに、その手紙でその休みはほとんど丸潰れになってしまった。
まさか自分宛に一国の王子から直接手紙が来るなど思っても見なかったし、内容が内容だ。
どこに、自分の妻に他の男を会わせたがる奴がいるのだと少しイサクを恨めしくすら思った。
『私の前に現れないで』
彼女が最後に言った約束だ。
破るつもりは、ない。
そうカイは思った。
気を紛らわすために街に出た。
石畳が綺麗な、随分と賑わっている街だ。
自分の住んでいる国から運ばれたであろう商品が並ぶその輸入品を扱う商店の前は一際賑わっていた。
ふと足を止め、また歩き出した。
食事はどうしようか。
そう思いながらふらついているときにカイは違和感に気がついた。
(誰か、ついてきてる?)
この人混みだ。気のせいかもしれないがその気配がやけに気になって、歩いては店を覗くように少し止まってを繰り返していたが、確信になった。
少し狭い路地に入り、そっと後ろを盗み見ると1人の男性が立っていた。
「何か、用でも?」
「流石のベイル家の息子さんですね。失礼を謝らせてください」
そう丁寧にお辞儀をする男性はどう見ても怪しい。
カイの親よりも少し若いくらいかと思うような男だ。
「おっと、あんまり怪しまないでください。私は、あなたと同業者です。どこの人間かは聞かないで欲しいですが」
同業者と言われいくつか思い当たる。
ベイル家ほどではないが、同じように秘密裏に要人たちの護衛や野暮用を請け負う家はいくつかある。取り立てて接点があるわけではなくお互い触れず、共存関係といったところだ。
「少し頼まれごとをしまして。あなたを説得するように、と」
「……ハンザか?」
「話が早くてありがたい。手紙は?」
「あぁ。けど……行かないし、便りを書くつもりもない」
そう言うと男性はため息をつく。
「分かってはいたけれど、随分と骨の折れそうな仕事だな。あなたも同業なのだから分かってくれるとありがたいんだけれども」
「いくら積まれても、俺は行かない。そう依頼主に伝えてくれ」
「本当に面倒だな。まぁそうすぐに頷くとは思っていなかったから、今日はこれだけでお暇します。またお会いしましょう」
「もう来るな」
そう言うとその男性はハハッと笑った。
「そうだ。アランデムの、大きな貿易会社の娘さんが今この国に来ているようですよ?久しぶりに会うのも良いんじゃないですか?」
「それは脅しか?」
「いえ、年上の戯言です。じゃあ」
そう言って男性は雑踏に消えていった。
宿に戻るが、男が言っていたのはサラのことだろうと気になってしまった。
脅しではないとは言っていたが、何かあったら、と思うと落ち着かない。
はあっとひとつため息をついた後、先日商談の同席を依頼してきた貴族に連絡をとり、サラの会社がこの国のどこにいるのかを調べてもらった。




