77:手紙
イサクが部屋から出ていった後、リオンは窓際の机に突っ伏していた。
体が、重い。
雨に打たれこぼれ落ちた花弁が地面に叩きつけられるように、地に体が張り付くようだ。
あそこまでイサクに知られたのであれば、もうそれが誰なのかもきっと彼は知っているのだろう。
知ったところで何もできないくせに、何だっていうんだ。
それに、リオンだって何かをして欲しいなんて思ってもいない。
ここに来るために、王女として生きるために、全てを置いてきたはずなのだ。
そのために、あの人にもう目の前に現れるなと言ってきたのだから。
そっと目を上げると目の前にその日作ったクッキーが見えた。
弄ぶように、机に伏せたまま、一つつまみ上げる。
(元気の出る魔法、私には使えないんだな)
そう思いながら口にそっと運んだ。
随分と塩っぽい、味だ。
(こんな味じゃない。もっと優しくって、もっと温かくて、もっと、もっと……)
そう、気づけば眠っていた。
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それから何日がたったのだろうか。
しばらく部屋から出る気力もなくリオンはずっと窓際の椅子に座りぼんやりとしていた。
たまにイサクやマルシアが様子を伺いにきていたが、話す気も起きず丁重にお断りした。
(ねえ、今、どこで、何してる?)
(この国の魔術に、詳しい?)
(記憶消せる薬、調薬して飲もうかな)
一度溢れ出てしまったものは止めどなくリオンを襲った。
王女としての顔しかもう自分にはないと思っていたのにも関わらず、全くそんなことはなかったのだ。
置いてなどこれてなかった。
その事実にリオンは呆然とした。
自分の意思の弱さにうんざりもした。
もう全部忘れて仕舞えばこんな気持ちになることもない。
けれど、リオンは思う。
(忘れたく、ないな)
気づけばまた机に突っ伏して眠っていた。
天気が良く気を紛らわすためにもとほんの少しだけ開けていた窓からほのかな風が入り込み、その風にリオンは起こされた。
ゆっくりと顔を上げ窓の外を見る。
日の上がり方からしてまだ夕方ではない。
この国の夜はどの季節でも冷える。寒くなる前にと窓を閉めようとした時だ。
見覚えのない真っ白な封筒が窓の棧に置かれているのに気がついた。
イサクが置いたものかと思い、手に取った。
宛名も、差出人も書いていない、真っ白な封筒だ。
少しだけ、中心あたりにクリップか何かで挟んだような跡が残っているだけで、真っ白だ。
不思議に思いリオンは中に入っていた一枚の手紙を取り出して開いた。
そこに書いてある言葉に、文字に目を見開いた。
「……なんで……」
真っ白な封筒に入れられたその手紙には一言だけ見慣れた文字で書かれていた。
『そちらにはリナリアの花は咲きますか?』




