41:パーティー
その日、女子寮の3年生は随分と浮かれた様子を漂わせていた。
そう、今日は3年生だけに許されたパーティーの日だ。
1.2年生は指を加え先輩たちの姿を眺め、4年生はそんな時代もあったねと懐かしそうに後輩を眺めている。
「リオン、これ後ろとめて!」
そう言われサラのドレスの背中のボタンを止めていく。
随分と可愛らしいサラを見て思わず顔がにやけてしまう。
なんだか気分が上がって来たところで、よしっとリオンは机に置いた鏡の前に座りメイクにとりかかると、サラが鏡を覗いてきた。
「ねぇ、リオン。今日、メイク変えるつもり?」
「うん、みんなにとって特別な日なんでしょ?私もそれに従おうかと思って」
そう言いながら目元にスッとラインを引いて行く。いつも学校で見せているものよりも、随分と大人っぽく見える目元だ。
「あちゃー、大丈夫かな?男ども、相手そっちのけになるかもしれないわね…死亡者がでないことを祈るわ」
そうサラが言うのでふふっと笑って支度を続けた。
先日サラと一緒に仕立てたドレスは特急仕立てと言う割にはとても綺麗な仕上がりでリオンも随分満足していた。
ついでにヒールの靴まで用意したのだから自分としては随分と頑張ったともうすでにその日に満足し始めていたくらいだ。
(おっと、交換条件果たすまではちゃんとやらないと)
そう思いながらドレスに袖を通していった。
会場は入学式が行われた講堂だ。
授業を受ける教室のある建物の1階にある天井の高い部屋で、いつもの道を全く違う格好で歩くのはなんだか心が躍るものだ。
(なるほど、みんなこれを楽しみにしてたんだ)
そう自分の心が踊り始めたのを楽しみながらリオンはサラと共に講堂へ向かった。
色は深い、深い緑色。
綺麗な織りの入った生地だ。
デコルテが綺麗に見える適度な首元の開き具合とは裏腹に、ピンと伸びたリオンの背筋を露わにするかのように、背中はV字に少し広めに開いている。
共布で作られたウェストリボンは腰の後ろできゅっと結ばれて、スカート部分は広がりすぎず、けれども細身すぎない、しっとりとした落ち具合だ。
髪も丁寧に編み込み結い上げ、ほんの少し後毛を垂らした。
「へへ。やっぱりこの色にして良かった。サラと一緒に歩くとセットに見えて良くない?」
そう言いながらサラの腕に抱きつきながら歩く。
「まぁたしかにこれは良かった。お互い良い生地見つけられて良かったわね」
そうサラが言うので嬉しくなって思わず笑顔が溢れてしまう。
講堂近くに到着すると男子生徒たちがたくさんウロウロしていた。
そのほのんどが何度もリオンを横目で見ているようだったがリオンはそんなことにはお構いなく歩いていた。
そうしていると、背の高いアーロンの姿を見つけ手を振って合図をした。
「うわー、やばい。サラ、綺麗だ。俺幸せ者だ!」
そう嬉しそうにアーロンがサラを見てデレデレして言うので思わずニヤニヤしながら横で見てしまった。
「リオンは……何人殺しにかかる気だ?顔違くないか?」
アーロンがリオンを向き言う。
「誰も殺さないし顔は一緒。メイクが違うだけだよ」
そんな軽口を叩いているとカイがやってきた。
「あ!カイ!見てみて!ちゃんとオシャレしてきたよ!」
そう言うとカイはふいっと目を逸らした。
その隙にサラとアーロンは、私たちはこれでとそそくさとどこかに行ってしまった。
「ねぇ、見てないでしょ?」
そう問い詰めるとやっとカイがリオンと目を合わせた。
「顔が違う」
「ふふっ。いつも幼く見えるようにメイクしてるからね。すごいでしょ?」
そう自慢げに言うと、そうだなと一言だけカイは言った。
「カイ、早くご飯つまもう」
パーティーの今日は食事は立食型で振る舞われる。だから早く講堂に入らないと食事にありつけない。立食型とは物怖じしていたら食事にありつけない弱肉強食の世界なのだ。
何故か動きの悪いカイの腕を引っ張り講堂に入り、小さく盛られた料理をいくつかつまんで食べた。
しばらくするとダンスの時間だ。
二人組を組めた男女たちが皆恥ずかしそうに手を取り合う。
「うーん、みんな可愛いねぇ」
ダンスなど城で嫌というほど見ているが、こんなに初々しい人たちだらけのダンスは初めて見る。随分と上から目線なのは失礼だとは思いながらついリオンはそんなことを口にしてしまう。
「じゃ、私たちも踊ろっか。ちゃんと交換条件、覚えてるから安心してね」
そうリオンが言うとカイがリオンの手を取った。
「そういえばカイ、踊れるんだ」
リオンをリードするカイは随分と慣れている様子だった。
「仕事で何度か。家でも仕事で必要になることもあるからって練習させられてたから」
「そうなんだ。私もいつも踊るのは仕事だ。今日はお互い仕事じゃなくて良かったね」
そう言いながら二人、踊り始めた。
曲の中盤くらいだろうか、カイが急にリオンの耳元で話し始めた。
「こんな視線、よく耐えられるな」
会場の至る所からリオンを見ている視線を感じたのだろう。
リオンにとってはまぁよくあることだがカイにはあまり馴染みのないものなんだろうとリオンは思った。
「はは、まぁそんな気はしてるけど気にし出したら面倒だから気にしてない」
「……一回しか言わないからちゃんと聞いとけよ」
何だろうと思いいつもより距離の近いカイの横顔に目を向けると、カイはまたリオンの耳元で言った。
「リオン、すっごく綺麗だ」
思わず目を見開き、ビクッと肩が上がってしまった。
ダンスのステップを間違えなかったことを褒めたいくらいだ。
「……ちょっと、急にそんなこと言わないでよ。照れる」
そんなこと言わなそうなカイに急に褒められリオンは大層驚いた。
「言われ慣れてるだろ?」
耳元から顔を離し、ふっと笑っていうカイのことがちょっと憎たらしく思えた。
けれどもリオンは気づいていなかった。
その時のリオンの顔は耳まで赤く、パーティーの後しばらくの間、何を言われたんだと学年中の話題に上がるほどだったことには。




