39:救いの舟
視線を感じた。
図書室でいつものように勉強をしていると、どこからともなく視線を感じていた。
その感覚に思わず背筋がゾワリとしたリオンは恐る恐る振り返ると、見知らぬ男子生徒が書架の影からこちらを見ていた。
(ついにここまで来たか…)
図書室では流石にパーティーのお誘いは受けていなかったが、ついにその砦も破られたようだ。
(何で私が司書に睨まれなきゃならないの…)
入口近くの司書さんがリオンの方を見て首をちょいちょいっと出口に向かって動かしている。一度出て追い払えということか。
思わず目を瞑り天井を向くとカイの視線を感じた。
「出る?」
「いや、ここで出たら負けた気になる……けど、カイにも迷惑だよね。ちょっと話してくる」
そう言って書架の影にいた男子生徒を連れ立って図書室の外に出た。
もちろんその生徒の誘いをリオンは丁重にお断りした。
夏休み明けの最初の日と比べたら随分と数は落ち着いていたが、ここ最近のこうした状況にうんざりし、集中力が戻る気もせず図書室に戻って荷物をまとめ始めた。
「今日は終わり?」
「うん。なんかここから集中できる気しないから。ちょっと静かな場所行こうかと」
「あの広場行くなら付き合うよ。俺といたほうがまだマシでしょ?」
カイが言った通り、彼と一緒にいる時はあまり男子生徒たちも声をかけてこない。
さっきのもカイがいたから離れているところから見られていたんだろう。
周りの人間のカイを見る目は随分と変わったものの、実際に彼の近くに来ることをまだ怖がる人がいるのかと少し悲しく思うが頼れるのであれば頼りたい状況だ。
「あー、うん。そうしてもらえるとすごく助かる」
そう言っていつものあの食堂の裏の小さな広場に向かった。
「ごめんね、なんか途中で切り上げさせちゃって」
「いや、別に大丈夫」
今日はベンチじゃなくて芝生に触れていたい気分だ。リオンは地べたに寝転んだ。
「あぁ、芝生の良い匂い。もうこのまま土に埋もれてたい……」
そう言うとカイはつらつらと土に関する魔術についての話を始めるのでリオンは起き上がってふむふむと聞いていた。
ひとしきり話が終わるとふうっとリオンは息を吐いた。
「ほんとこうして落ち着いていれるのがここか寮の部屋だけなんて辛い。サラには早く相手決めたら終わるって言われてるけどさぁ。ほんと、どうしたら良いんだろ」
「パーティー自体嫌なの?」
「それはどちらでも。みんなが浮き足立ってるの見るの好きだし。サラの晴れ姿も見たいし」
「なんだ。……なら俺が相手になろうか?」
ぱちぱちぱちとリオンは3回瞬きをした。
「……そうか。その手があった!カイ、頼まれてくれるの?本当にいいの?」
カイを問い詰めるようにすると、落ち着けと言わんばかりに両掌を向けられた。
「あぁ。それで周りが落ち着くなら良いでしょ」
「カイ、神様なの!?」
嬉しくて思わず飛びつきたいところだがグッと抑えてその場で両拳を空に突き出した。
「ただその代わり」
「その代わり?」
「ちゃんと一曲くらいは踊ること」
「それだけで良いの?」
リオンが首を傾げると、
カイが頷く。
「そんなの私にとっては楽勝だよ?『家』でどれだけ踊ってきたか知らないでしょう?……わかった!カイは私の相手になってくれる、私はちゃんと踊る。これで交換条件成立ね?」
「あぁ」
カイが笑う。
踊るのは面倒だなと思っていたが、それ以上にここ最近の出来事が面倒だった。
何故カイが踊れと言うのかはリオンにはわからなかったが、踊る程度でそれがなくなるのであればそんなのたやすい御用なのだ。
「じゃあ折角だからとびきりオシャレでもして行くね」
そうふざけてリオンが言うとカイは、そうだなと言って笑った。
「カイ!」
リオンがカイを呼ぶ。
「本当にありがとう!助かった!」
こぼれるような笑顔でリオンが言うと、カイはちょっとだけ目を逸らした。




