第69話 お見舞いの目的 #2
「タケシ、って名前は
"イワテ"の名前のセンスだよね?
タケシってもしかして"イワテ"出身なの???」
へ?イワテ?
「い、いえ…。王都から西に少し行った方の
辺鄙な村の出でございますが」
「……ほんとに?」
「は、はい。ほんとです。」
"イワテ"。
それは大陸の遥か向こうにあると言われる
別大陸の地方の名前だ。
聞いた話しか知らないが、
なんでもイワテにはものすごい独自技術を
持っている民族がすんでいるらしい。
イワテ、それは技術大国として
知られる遥か遠くの地方の名前だった。
「おじいちゃんとかお婆ちゃんが
イワテの出身なんじゃないかな?」
「さ、さぁ…。どうなんでしょう」
目をキラキラさせながら質問してくる男。
あぁ…こいつもか。たまにいるのだ。
イワテ地方に対して、妙な憧れを持った奴が。
王都の王様や、有名な冒険者。
あるいはブレイクスルーを起こすほどの技術を
開発した発明家。
みんながみんなイワテ出身なのだ。
実力者はイワテ出身の人間が多い。
しかし、とても有名な場所ではあるのだが、
その場所が一体どこにあるのかは誰も知らないのだ。
大陸の遥か向こうの別大陸に
あるらしいという噂だがそこに行った人は誰もいない。
イワテの人たちの多くは、
記憶の一部を失った状態で、
こちらの大陸に転送魔法で飛ばされてくる。
本人達に場所の詳細を聞いても、
誰一人答えられるものがいないのだ。
その謎の多さと確かな実績。
ミステリアスな場所として一部の人の間で大人気。
……というのが、イワテに対する
世間一般のイメージである。
「お婆ちゃんとかお爺ちゃんから
イワテの話聞いたことあったりするんじゃない?
もしかしてタケシはイワテの血を引いてるのかも!
とか僕的には想像してるんだけど!
僕好きなんだよねイワテの話!おしえてよ!」
目をキラキラさせて詰め寄る男。
きゅ、急にミーハー感出してきやがったな…。
「さぁ、すみません…聞いたことがないですね」
「でもタケシって名前は明らかに
イワテの人の名前だよね?名前の由来とか
きいたことないのかな?」
……やけに食い下がるなぁこいつ。
それだけイワテに興味が
あるということなんだろうが。
(名前の由来と言われてもなぁ)
"タケシ"
たしかにイワテ地方独特のネーミングの名前だ。
知らない人が聞いたら、こいつのように
俺をイワテ人と勘違いしてもおかしくない。
だがまじでこの名前には意味がない。
まじで意味がない上に、
まじで話したくない話ナンバーワンの話である。
名前の由来があまりにもしょうもなさすぎるからだ。
由来に関して話せる話がギリギリあるとすれば、
1つ。俺の家の裏にはそれはもう立派な竹林があって
村ではとても評判だということ。
2つ。俺の兄弟の名前が、
「タケイチ」「タケニ」「タケサン」であること。
3つ。俺は兄弟の中でも末っ子であること。
これ以上話すのはあまりに憚られる。
察してほしいところである。
が、この男相手にこんな話をしても
通じなさそうなので、とりあえず俺は適当に流す
ことにしたのだった。
「名前の由来はわからないですが、
まぁ…もしかしたらうちの爺ちゃんが
イワテが好きだったので、
そこからつけたのかもしれませんね。」
「あ、そうなの?じゃあ僕と一緒だね!」
ニコニコと男は続ける。
「僕の家も両親が大のイワテ好きでね!
だから僕の名前はサタケなんだよ!」
「へえ、流石でございます。お似合いでございます」
「ふふ、ありがとう!」
嬉しそうににこやかに笑うその男、
それを俺は複雑な面持ちで見つめる。
……どうにもテンポが狂う。
この男が俺にした事実は揺るがない。
ひたすらに怖いし、何をしでかすかわからない。
しかし、こうして話してると痛感するが、
笑い方やニコニコした笑顔は
無垢な少年そのものなのだ。
名前を褒められて嬉しそうにする様子など、
どこにでもいる普通の少年そのもの。
その純粋さが、
あまりにも昨日のイメージと
異なりすぎて俺を困惑させる。
どこまでもあどけなく、どこまでも純粋…。
そうか。だからこそ、こいつは平気で
人を切れるのかもしれない。
子供は平気で虫を殺す。
それはその子が残酷だからではなく、
「潰したらどうなるか?」という
純粋な好奇心からくる行動。
要は、善悪の概念がないのだこいつには。
そういった意味での純粋さ。
それこそがこいつの人間としての本質なのだろう。
(ニコニコ)
……少しだけ、この男というものが見えた気がした。
ニコニコ嬉しそうに笑うその男の顔を、
俺はぼーっと見つめるのであった。
・・・
・・
・
(ニコニコ)
「……」
さて、それはそれとして…
「あ、美味しそうなメロンだね!
たべてもいいかな?」
「あ、はい。どうぞ」
男は立ち上がって俺の見舞い品を漁り出す。
……それはそれとして、
こいつはいつまでここにいるんだろう。
病人に気使わせるとかマジでアンチマナーである。
早よ出て行け
【シュンッ】
そして男は剣を腰から抜いたかと思うと、
メロンをアッという間も無く切り刻む。
すると、出来上がったのは
足が妙に大きい謎の生命体である。
「はい、ガタゴンできた。たべていいよー」
だれやねんガタゴン。
「うーん。おいしい」
というかはよ帰れや。
しかしそんなことを言い出せるわけもなく。
無為に時間は流れていった。
【ムシャムシャ】
美味しそうにメロンを食べるこの男。
こいつマジで何をしにここに来たんだ…?
そしてそんなことを考えた丁度すぐあとに、
俺はその目的を知ることとなった。
「タケシ様。お客様がいらっしゃいました」
「え?だれ?」
メアリーは扉を開きながら答える。
「オリビア様です」
「おっ。来たね」
ピクッ…と。男の肩が揺れた。
・・・
・・
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