第99話 バトルロワイヤル #2
「移動してもらえるかしら」
「うっす!了解っす!」
「わかりました!」
「すぐさま移動します!!」
「……ありがとう」
アリアが野郎どもの集団に指示を出す。
そしてそんな様子を遠くの方から見つめる俺とサナ。
見た目の荒々しい雰囲気に反して、
めちゃくちゃ従順な連中である。
「い、意外といい人そうですね」
「そ、そうだな」
い、良い人そうだ。
めちゃくちゃいい人そうだ。
歩きながら野花を避けて歩くあたり、
確実にいい人だろこいつら。
だ、だがそれよりも……
「い、いい人そうだけど……」
いい人そう。それは大変に良いことなのだが、
それ以上にめちゃくちゃ気になって
仕方がないことが1つある。
「アリ"シ"アさん!あの方たちはどなた様ですか?」
「……後で説明するから」
「アリ"シ"アさん!今日は天気がとても良いですね!」
「……そうね」
「アリ"シ"アさん!」「アリ"シ"アさん!」
「……」
ア、アリシアって誰やねん。
男たちはどういうわけか、
アリアのことをしきりにアリシアと呼んでいるのだ。
(……はぁ、どうすっかなぁ)
これから何をするにしても、
色々と聞きたいことが多すぎる。
だが今はとにかく場所を変えなくては。
急がないとメアリにバレてまたどやされる。
そして俺たちは西に向かって歩き出したのだった。
・・・
・・
・
病院の前から移動して、西の山へと向かう。
西の山。そこは丁度病院の裏手側。
開けた土地と山のある場所だ。
あそこなら人通りも少ないし、大人数も収まるだろう。
【PiPiPi】
西の山に向かうその道中、
頭の中に念話特有のピピピという音が響いた。
『ご、ごめん。色々予定外のことが起きてて…』
アリアからの念話だ。
コネクションが繋がると、
アリアは念話の中でしきりに俺たちに謝った。
『ご、ごめん。
こうなるとは思ってなくて……』
……まぁ、こうなってしまったものは仕方ない。
何が起きてるかもわからんが乗り掛かった船だ。
最後まで付き合うつもりではいる。
つもりではいるが、
気になることが多すぎるのだ、この状況は。
なんでこうなったのかさっぱり予想もつかない。
とりあえず俺は諸々の疑問を
聞いてみることにした。
『これ一体何がどうなってこうなってんの?』
『……昨日タケシに冒険者ギルドに
依頼を出すように頼まれたでしょ?』
『頼んだな』
『依頼を出したら予想外に
いろんな人たちから応募が来ちゃったみたいで…』
『……それで応募する人が殺到してこうなったと?』
『う、うん』
……ふーん。
『で、人がたくさんやってきたから
私、人数を絞らなきゃって思って、
テストできそうな場所を探してて…』
アリアは申し訳なさそうにそう告げた。
ふーん……。
アリアの行動自体は、まぁ真っ当だ。
だが、たかが護衛程度の仕事で
こんなに人が集まるものだろうか?
改めて男達の方を見てみる。
ざっと見ても20-30人は集まっている。
明らかに多い。たかが護衛の仕事に
集まる人数じゃない。
『にしたって集まりすぎだろこれ……』
『ア、アハハ…ソウネー…』
な、なんでこんなに集まったんだ……?
理由としてありそうなのは、
めちゃくちゃ低いランクの人たちが
集まった…とかだろうか。
魔物を倒すとか、ダンジョンに潜るとか、
そういう危険な依頼と比べれば
護衛業務なんてのは全然楽な方だ。
だからきっと低ランクの人が
これだけの人数集まってしまった、
ということかもしれない。
そんな事情ならば、まぁわからなくもないことだ。
しかしそれだと問題である。
もしも低い人たちが集まったとあっては、
これだけ人が集まっても意味がない。
中級以上の実力者は必要だ。
『集まった人達の実力はどれくらいなんだ?』
しかし、アリアが次に告げた言葉に、
俺は心底驚愕することととなる。
『えーーっと……B級からA級』
『は、はぁ!?!?』
B級以上だぁ!?
念話の最中だが俺の口が驚愕であんぐり開く!
『いやそれベテラン級じゃねーか!!!』
『ア、アハハ』
普通にダンジョン潜ってめっちゃ強い魔物討伐
する方が金になるだろ!?
な、なんでこんな依頼にベテランが応募してるの!?
流石に驚きを隠せず俺はさらに質問した!
『い、いやいやいや!おかしいだろそれ!
なんでベテランがこんな小さい依頼に
この大人気っぷりなの!?』
『あ、あはは。ソウネーフシギネー……』
あはは、と誤魔化すように笑うアリア。
あん…?なんだ?この態度。
直感的にピンとくる。
いつもよりもどこか固いその語調に、
俺のシックスセンスが震えた。
(こいつなんか隠してやがるな?)
口調は質問から詰問へ。
ここまでの中で一番違和感を感じたことを、
俺はそのままアリアに尋ねた。
『……あと、アイツら
お前のことアリシアって呼んでるよな。
あれはどういうことなんだ?』
『え?あー、あれはーーー……えーっと』
アリアは俺に顔色を
探られないようにするためなのか、
顔をそっぽに向けて答えた。
『ど、どうしてかしらねー。
名前間違って覚えられてるのかしらーー……』
『……』
アリアのように勘は鋭くない。
だがそんな俺でもわかる。
あきらかに何か隠してる。
それを見て見ぬ振りできる俺ではもちろんない。
『なぁ、アリアよぉ……。
お前この前去り際に言ったよなぁ。
"もう隠し事はなしだからね"とかなんとか。』
『ウッ!』
『仲間内じゃ隠し事はしない、
って話じゃなかったか?』
『ウッ……』
……そして短い沈黙の後、
アリアはポツリとようやく白状したのだ。
『はぁ…わかったわよ。全部話すわよ。
タケシもなんとなく勘づいてると思うけど、
私冒険者をやってるの』
『そんなもん知ってるわ』
んなもんは、今日までの
お前を見てれば誰でもわかるわ。
『でも普通はね?
常識的に言えば、貴族が冒険者を始めるなんて
ありえないことなのよ。
勘当された貴族のお坊ちゃんとか、
没落した貴族でもない限り、
普通は貴族が冒険者になるなんてことは、
絶対にありえないことなの』
『だから私、アリシアって偽名で
裏で冒険者をやってるの。
彼らが私のことをアリシア、って
呼ぶのはそう言うことなのよ…』
『ほーん。なるほど』
まぁ、そこまではわかる。
話を聞けばなんとなく想像のできる話だ。
だが肝心の謎はまだわかっていない。
なんでここまでの人数が集まった?
なんで高ランクの連中ばかり集まった?
俺がそう聞く前に、
アリアは全てを白状するように
ツラツラと話し出した。
『わたしね?その、な、なんというかその……
アリシアって名前で冒険者としての
そこそこに成功していてね?
で、なぜだかわからないけど、
冒険者の男の人たちからの信用が高いというか、
すごく好感をもたれてるみたいで……』
『……』
ふむ。好感ね。
そして話は終わりと言わんばかりに
アリアの言葉が途切れる。
本人的にあまり話したくないことなのか、
内容がかなりふわっとしていた。
だが、何となく今の状況になった理由が見えてきた。
『つまり、冒険者としてのアリシア様は、
野郎どものアイドルとして愛されていると』
『!?そ、そこまでは言ってない!』
『んで、大人気女冒険者アリシア様が
ギルドに依頼を出しているところを見た野郎どもが、
少しでも好かれようと群がってきた、と。』
『そーー……ともいえるわね』
『んで、ついでに言えば、
お前のアイドル的な人気は
高ランクのベテランにまで及んでいて、
やたら高ランクの人が集まった結果、
下位ランクの人が遠慮して逃げていったと』
『そ、そう!その通りなの!』
『……』
ここにいる奴ら全員アリアに好かれようと
ここまで来たってこと?
こいつら全員アリアに惚れてるの?
そしてそんな奴が俺たちのパーティに一時的とは言え
加入するかもしれないと?
「……はぁ」
いっちばん最初に思ったことをより強く思う。
か、関わりたくねぇぇーーー…………。




