第97話 参加希望者 #1
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次の日の午後。俺は何をするでもなく
ぼーっと外の景色を眺めていた。
が、その視線は徐々に外れて
ぽかんと空いてしまった席に自然と向かう。
「……あいつ、今日は来ないつもりか」
オリビアの姿が今朝から見えなかった
いつもならお見舞いの品を持って
遊びに来るオリビアだが、今日は結局
午後になっても来ることはなかったのだ。
(昨日のこと引きずってんのかなぁ)
オリビアの心境は想像するに難くない。
昨日のサナの話は実際衝撃的だった。
魔法を志す者の一人として、
当事者になり得るとわかれば
そりゃ悩んでも仕方のないことだろう。
ここはタケシ軍団リーダーとしては、
オリビアのことを気遣って
声の一つでもかけに行くべき時かもしれない。
だが………。
(……すまんオリビア。今は行けないんだ)
すまない……。
行きたいのは山々だが、今はそれよりも
優先しなきゃいけないことがあるんだ…。
そして俺は、最優先のその対象に
チラと視線を向けて話しかけたのだった。
「なぁ、サナよ」
「はい?なんでしょうタケツ様」
不思議そうに首を傾げるサナ。
そしてニッコリ不適な笑顔で笑いかける俺。
優先すべき事柄。それは……
(……んなものは言うまでも無え!!!
昨日オセロで負けたリベンジ戦じゃぁぁ!!)
リーダーたるこの俺がッ!
幼女に勝負で完敗したッ!
こんなもん年上の面目もクソもねえ!!!
俺の心がリベンジ心で燃え上がる!
"昨日の今日でなにその切り替えの早さ…"
と思う者もいるかもしれない!
確かに昨日のことは衝撃的だった!
"王国の魔術師になると、
死んだ後に自然災害として生まれ変わり、
そして、将来的には
王国にいる魔術師の人数分だけ
自然災害に転載した人たちが溢れかえり、
未来では大きな社会問題となる。"
これほどびっくり仰天エピソードは、
王国民的にはそうはない!
だが、あえて言おう!
それはそれ、これはこれなのだ!
四六時中同じことで悩んでいられるほど、
俺の脳みそは繊細にできてないのである!
(つーか、よく考えてみれば、俺の身内には
王国の魔法使う奴はいないしな!)
結局オリビアも王国の魔術は
使わないみたいだし。
なのでオールOKオールクリア!
俺無関係、全く問題なし!
悩む必要ナッシングなのである!
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さて、というわけで。
「暇そうだなぁ。ん?サナよ」
そして俺は語りかける。
部屋の隅でチョコンと紙を読み漁る
サナに声をかける。
手に持っているのは広告のチラシ。
いよいよ本も全て読み尽くして、
ついには近所の出店の広告チラシに手を出し
始めたようである。
「暇じゃないです!
広告を読んでるので!!」
目をキラキラさせてそんなことを言うサナ。
こ、広告ってそんなテンション上がるほど
面白かったっけ……!?
「あ、そ、そうか。暇じゃないのね……」
俺が少しガッカリしたのを察したのか、
サナはハッ!とした
表情の後、言葉を付け足した。
「で、でもそうですね。
暇といえば暇ですね!広告読んでも
買いに行けるお金がないので!暇です!」
……あとで小遣いでもあげようかしらね。
そんなことを思いながら俺はうなずいた。
「よし。それじゃあ勝負しようぜ。
種目はそうだな…そのチラシで
紙飛行機でも作って、飛距離で勝負しよう」
「カミヒコーキ……わ、わかりました!」
そして謎の第二ラウンドが、
密かに始まったのである。
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「精霊さん。この部屋の空気の流れを
一定にしてもらえますか?」
【ヒュン!】
「お、おぉ…」
「精霊さん。次は部屋の湿度を下げてください。
紙飛行機は湿度があるととびませんからね」
【ヒュン!】
「お、おぉーーー……」
バトルしようぜ!の掛け声から数分。
「勝負するならフェアな環境を整えたいから
少し待ってほしい」というサナの申し出の直後、
俺は謎の怪奇現象を見せつけられていた。
【ヒュン!】
サナが何もない空間に話しかけるたびに、
光の玉のような何かが返事をするように
ヒュン、と横切った。
は、側から見てると完全なる怪奇現象である。
「こ、これが昨日言ってた精霊ってやつ…?」
「はい!そうです!」
精霊。
昨日の説明で再三出てきていた「精霊」という言葉。
話を聞くと、自然現象の全ては
この精霊が引き起こしているらしい。
精霊というものがどんなものかイメージ
できていなかったが、
少しだけどんなものかイメージができた。
魔術師たちは炎やら風やらを扱うために、
最終的にこんなよくわからんものに成り果てるのは
中々に気の毒な話である。
そんなことを一人考えていると、
サナは精霊の魔法についてもう少し詳しく説明してくれた。
「私が今してるのは、
精霊さんにただお願いをしてるだけなので、
信頼関係さえあれば詠唱もいりません。」
「ほーん」
「だから詠唱ができないオリビアさんには
向いてると思うんですよね」
「ふーん…」
でも地味そうだよなーこれ。
フワリと出現しては消えていく泡のようなこの光の球が、
ド派手な魔法を生み出すイメージがまるでわかない。
こんなフワフワしたやつを
戦闘に利用できるんだろうか。
「湿度が高くて眠れない時とかには、
重宝するんですよね、精霊魔法って」
……めちゃくちゃ日常生活レベルの魔法じゃねーか。
「今日オリビアさんがきたら、
これを教えるつもりだったんですけどねー……」
と、サナは寂しげに続ける。
まぁ実用性云々はおいておいて、
少しでもオリビアが前に進めるなら
有意義なことだな。
それはそれで大変に良い話……なのだが
「精霊さん。紙に含まれる余計な
水分を吸い取ってください」
「精霊さん。空気中のチリをどかしてください。
飛行の妨げになりますからね。」
「精霊さん。同じ条件で勝負したいので
空気抵抗はできるだけ発生しないように調整を」
め……めちゃくちゃガチや!!
ガチのガチで勝負する気やこの子!!!
少しずつ進められる紙飛行機のための
ガチセッティングに、俺は一人戦慄してたのだった…!!
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さて、サナがガチガチの理想的な環境を
構築しているその最中。
「あれ?なんだか人だかりができてますね。」
"うーん今日は天気がいいですね
光による熱の影響もなくすように……"
と呟きながらサナが外を見ると、
何かに気づいたように声を上げた。
「人だかり??」
「はい。大勢の人が病院に歩いてきてます」
なんだろう。
病院で何かお祭りでもやるのだろうか。
あるいは炊き出しか何かするのかもしれない。
そんなことを想像していると、
サナが続けてアっ!と声を上げ出した。
「そうなんですかね?
でも……あっ!」
「?どうした」
「せ、先頭に…」
「うん」
「しゅ、集団の先頭に……アリアさんがいます」
「えっ」
え?どういう状況??
流石に重い体を引き起こして、
俺もサナの隣から窓を見た。
「………なにやってんのアイツ」
そこには、大勢の人を引き連れて、
困った顔で先頭を堂々と歩くアリアの姿が
あったのだった。
 




