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いや違うんです。本当にただの農民なんです  作者: あおのん
第7章 vs 八柱将(サタケ)
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第96話 魔術の代償


「ファイアストームという自然災害は、

ここから見て東の国、砂漠の土地のとある英雄が

転生した姿なんですよ」


サナは静かにそう告げる。


あまりにも衝撃的な事実。

俺もオリビアも戸惑う気持ちを隠せずに

ただただ困惑してサナを見つめるばかりだった。



(ひ、ひとが自然災害になる……?

自然災害は元々人間だった???)



情報を頭の中で整理しようとするが、

どうにもまとまらない。


正直なところ、一通り話を聞いても

戸惑うことしかできないのだ。


魔術師は死んだ後に自然災害に変質するという話の

突拍子の無さ、脈絡のなさ。

合わないピースを強引にはめてしまったような、

そんな不整合さを感じていた。


(……)

オリビアが恐る恐る質問した。


(……魔術を使える人はみんなそうなっちゃうの?)


サナは静かに首を横に振る。


「全ての魔術師に適用する話ではありません。

たとえば、アリアさんのように、

既に発生している物理現象を利用したり、

性質を強化させるような魔法を

使う人にはこの話は適用されません。」


サナは悲しげに続ける。


「ですが、自然現象を自ら引き起せるような

魔術師は確実に精霊化、もとい自然現象

として転生するでしょうね……」


そして最後はあのファイアストーム

のような災害に成り果てる、というわけか。


「……」


俺は無言のまま

オリビアの買った教本を見つめた。


"ファイアストーム"

砂漠地帯で発生するそれは災害でしかないが、

熱帯地帯では逆だ。


発生する場所が毎年周期的に大きく変わることや、

焼き払われた樹林は灰になり肥料になること、

また雑草や害虫を駆除できるなどの利点から、

農業にうまく活用されている側面もある。

そんな自然災害だ。


ファイアストームは

雨や風と同じように起きるのが当たり前の

ものと思っていた。


……だが、そうではないのだ。

あの災害は魔術師が魔術を使った代償。

魔術師が死後、自然災害として顕現してしまった姿が、

あのファイアストームなのだ。


「……」


本を手に持ちページをめくる。

どうみても子供向けの本。

王都の子供の多くが読むであろう本。


そんな誰もが読む可能性のある本に、

読んだだけで人間を変質させてしまう

言葉が書いてある。


「……」


そ、それはどう考えても


「…やばいだろそれ」


✳︎


王都の魔術師の人口は知らない。


だが、この国はその魔法技術によって

大陸一の領土を獲得した大国だ。

魔術師の数が少ないわけがない。


そして、その魔術師全員が、

将来的にはファイアストームのような自然災害に

なってしまうというのだ。


「そんなもん大陸が滅んでもおかしくない

レベルの問題じゃねーか……」


炎の竜巻クラスの災害が

魔術師の人口分だけ発生する。

そんなもの、小さな被害で収まるはずがない。


「……」

(……)


重たい空気が支配する。

そんな中で、サナが1人元気に声を上げた。


「と、ともかくですね!」


サナは話題を変えるように、

パンと手を合わせる。明るい調子で話を再開する。


「ここアルダニア王国の「正統派魔術」は

学ばない方が賢明ですね!

オリビアさんの魔力で自然災害にでもなられたら、

一体どんな災害になるか見当もつきませんし!


他にも魔法はあるので、そちらを習得するのは

いかがでしょうか??」


「……」(……)


強引に話題を元に戻そうとするサナだが、

王国民の俺たちとしては簡単に

スルーできるものではない。


自分の母国が将来的に迎える大問題を

知ってしまって、すぐに気持ちを

切り替えられるわけがない。


「あ、あー……」


サナも俺たちの空気を察して

申し訳なさそうに頬をかいた。


「す、すみません…。

この話はこの時代の人にすべき話では

ありませんでしたね……」


この時代、ね。

まるで未来に起きることを

全てを知っているようなそんな口ぶり。


サナと会話していると、時々未来人と話でも

してるかのような錯覚を覚えていた。


「なぁ、サナ」

俺は率直に思った疑問をそのまま尋ねる。


「サナはなんでそこまで知ってるんだ……?」


まるで公然の事実のように話しているが、

この話を知っているものが

この王都にいるはずがない。


知っていれば、王都の本屋に売られる本に、

こんな危険な一文を載せることを

良しとするはずがないからだ。


サナの話したことはおそらく

この世界の誰も知らないことだ。

それをなぜサナは知っている?


……サナは無言で考え込んでから、

ゆっくりと口を開いた。


「……これ以上話すのは、

神界のモラルとして許されることではないです…。

ですが、中途半端に説明してしまった

私の責任として、皆さんにはお伝えします。」


ひっそりと、誰にも

聞かれたくないかのように静かに告げる。


「私たちは神々の未来予知によって、

これから先に起こることをある程度把握しています。」


「魔術師の精霊化による人口的な自然災害の発生……

それに伴う被害は甚大なんてものじゃありません。

後の未来で大きな大問題に発展します。」


や、やっぱりそうなのか。

顔を顰める俺たちに、サナはゆっくり首を振る。


「ですが私たち神界サイドは

すでに対策を実施している状況です。

対策の準備は万全なんです。


皆さんがよく知るスキル授与式もその一環です。

魔法ではない別の手段を提供することで、

魔術という技術から遠さげようとしています。」


そしてサナは空気を払拭しようと

精一杯元気よく言った。


「もちろん対策は他にもあります!

神界総出で対処している問題ですから!


なので、皆さんが心配する必要はないんです!

神々がなんとかしてくれます!大丈夫です!」


励ますように元気よく言うサナに、

俺たちは何とも言えない表情で

返すことしかできなかった。


・・・

・・


オリビアの魔法問題は

結局その日は保留となった。


そしてモヤモヤした気持ちのまま、

その日は終わったのだった。


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