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いや違うんです。本当にただの農民なんです  作者: あおのん
第7章 vs 八柱将(サタケ)
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第95話 魔法が発動しない #2

20191017 設定も話の大筋も変わっていませんが、

間間の文章に多少言葉を足して、テンポをよくしようと修正しました。

「はぁ……」


溜息が漏れる、空気が沈む。


部屋に戻ってきたオリビアは、

椅子に座ってから何も言わずに

黙り込んだままだった。


「……」


……見るからに落ち込んでいらっしゃる。

どう声をかけたものかと悩んでいると、

サナが先に声をかけてくれた。



「どうかしたんですか?オリビアさん」


(え?まぁ、うん…)



声をかけてもオリビアは曖昧に頷くばかりだ。


「また魔法絡みか」

(……うん)


午前中の間になにかあったのだろうか?

放っておくわけにもいかず、

困ったように俺とサナは目を見合わせた。


「とりあえず話してみろよ。

サナはこう見えてめっちゃ魔法詳しいんだぞ?」


「はい!お任せください!」


(……)


「話せば何か解決できるかもしれないし。

ほれ、言ってみ。」


(……うん。わかった)


・・・

・・


「魔法が、使えない?」


コクリ。

オリビアは俯きながら頷いた。


(喋る必要のない魔法が本に書いてあってね?

ためしにやってみたんだけど全然発動しなくて…)


喋る必要のない魔法…そんなものがあるのか。

サナはコクリと頷く。


「なるほど。見せてもらってもいいですか?」


(う、うん。やってみるね)


オリビアは立ち上がると、

両手を前に突き出して目を瞑った。


「……」

「……」

「……」


数秒待つが特に何も変化はない。


(ね?)


オリビアが困った顔でこちらを振り返る。

俺から見るとただ立ってるようにしか

見えなかったが…。


「今なんかしてたのか?」


(うん。本にあった通り頭の中で

呪文を唱えてみたんだけど…)


サナは「なるほど」と1つ頷いて、

オリビアの持つその本を見つめた。


「よければその本を

少し見せてもらってもいいですか?」


・・・

・・


パタンっ


「わかりました」


パラパラ漫画のようにパパパッとページをめくる。

それからパタン、と本を閉じた。

読むのはえーなおい!


サナは本を机に置きながら説明を続けた。


「結論から言えば、

オリビアさんが魔法を使えないのは

契約を結んでないからです」


(契約?)


「はい。"ことわりとの契約"です。」


ことわりの契約…?なんだそれ。

なんとも厨二くせーワードセンスだなー、

と思いながらぽかんとしていると、

サナの指先がゆっくり動き出す。


そして再び本を手に取りページをめくると、

最初のページのところで手を止めた。


「オリビアさん。ちなみにですが最初のページにある

この文言を唱えましたか?」


開いたページには大きく文字が書かれていた。


それは俺たちのよく知る言語だが

読もうとすると何も意味をなさず、

言葉をただ羅列しているような、そんな文章だった。


(う、ううん。唱えてない…。)


というか読む読まない以前に、

オリビアは発話障害者だ。

そもそも唱えることはできないだろう。


サナは眉を寄せてその文字を指先でそっとなぞる。


「この一文は中期の魔術師……いえ。

一般的な魔術師が慣習的に読み続けた一文です。


文字を初めて学ぶ子供が声に出して

言葉を一文字ずつ読み上げるように、

魔術師と呼ばれる人は必ず初めにこれを読むんです」


そしてサナは本をバタンと

閉じると同時にピシャリと断言した。


「結論から言います。

この最初のページを声を上げて読まないと

この本にある魔法は発動しません。


オリビアさんでが

この本の魔法を使うことは絶対に無理です」


・・・

・・


ズンズン…

ズンズン…


今この場に流れる空気に擬音をつけるなら

まさしくこんな音だろう。


「……そっか。やっぱり私じゃ魔術師には

なれないってことなんだね……」


ズンズン…ズンズン…。

オ、オリビアの負のオーラが深まっていく。


「はぁ……やっぱり私だめだめだ……」

「はぁ……」


あ、あかん!

病んでる!病んでる時のオリビアがまた出てる!!


そんなオリビアに慌てた様子でサナが弁解した。


「ええっ!?ち、違いますよ!

この本にある魔術師には

なれないというだけの話ですから!

魔術師になれないとは言ってませんよっ!」


はぁ?


「……はぁ?どういうこっちゃねん」


思わず疑問をそのまま声に出す。

サナは丁寧に説明してくれた。


「魔術師と一言でいっても

世の中にはたくさんの魔術師がいるんです!

王国の正統派魔術を学ぶのは難しいですが、

それ以外の魔術を学べばいいだけの話です!」



と、サナは懸命に説明した。

そして少し考え込んでから、サナは続ける。


「……それに正直なところ、

私はオリビアさんは王国の正統派魔術は

学ぶべきではない、と考えています」


(……どうして?)


オリビアの問いに

サナはさらりと返答した。



「危険だからですよ」



……危険?

危険って王国の魔術がか??


真顔でサラリと告げたサナの真意が掴めず、

俺もオリビアも黙って

サナの話の続きに耳を傾けた。


サナはジッと本の最初のページを見つめて

こう続けた。


「正直、オリビアさんが

この一文を読めなくて本当に良かったとすら、

私は思っています。


…あっ、も、もちろん悪い意味ではないですよ?

オリビアさんほどの魔力でこれを読んでいたら

どうなっていたか、その影響範囲はあまりにも

桁違いでしょうから……」


まるで、王国の正統派魔術に

大きな問題があるかのような言いぶりである。

頭の中の疑問符は鳴り止まずに浮かび続けた。


「はぁ??どういうことよ??」


「えーっとですね…

あれ?でもこれ説明していいのかな…?

う、うーん……」


「ここまで思わせぶりなことを言っといて

説明しないのはなしだろ。

王国の魔術はなんで危険なんだ?ちゃんと説明してくれ」


「そ、そうですね……。はい、わかりました。」


そして、サナの説明が始まった


・・・

・・


「まずはこのページにあることわりの契約

について説明しますね」


サナは本の最初のページをこちらに見せた。


「この最初の1ページの一文。

そのまま読むと何を言ってるか

わからない文章ですよね。


ですがこの文章には明確な意味があります。

それも、知らずに看過してはいけない

とてもとても、重要な意味です。」


ほう?どんな意味だろう。

そしてサナは静かに言ったのだ。


「この一文の意味は端的に言えばこうです。


"人間性を捨てる"

"世界の機能の一部となる"

"現象の一つとして再誕する"


そういう意味です」


✳︎


「……人間性を、捨てる?」


流石にその言葉は聞き逃せない。


「人間性を捨てるっていうのは、

クズとか外道に成り下がるってことか?」


「いいえ。ちがいます。

ここでいう人間性とは、人間としての品位とか

そういう意味ではなくそのままの意味です。

人間を辞める、という意味です」


相変わらずピンときていない俺に、

サナは端的に言葉で言い表した。


「言って仕舞えば、

この言葉を唱えた途端に、その人は

人間のレールから逸脱します。

人間ではない別の何かに成り果てるんですよ」


「えっ」

(えっ)


に、人間じゃなくなる?

そ、その理屈でいくと、この一文を読み上げた王国の

魔術師は全員人間じゃなくなるってことになるんだが……


俺たちの戸惑いを置いてけぼりに、

サナはさらに説明する。


「人間が炎を掌から出す。

言葉を唱えただけで雷を落とす。

そんなことは人間なら本来起こし得ないことです。」


「人間では自然現象を生み出さない。

ならば物理的な現象を自在に生み出せる存在に

生まれ変わればいい、というのが、

王国の正統派魔術の考え方です。


人間を捨てる、すなわち"精霊"として転生する。

物理現象の一つとして転生することで、

自在に自然現象を操っているんです。」


なんともわかるようでわからない話だが……。


「よくわからんが…人間じゃなくなる、

ってことなんだよな?」


「そうです」


よ、よくわからん。よくわからんが、

思ったことを素朴にそのまま言った。



「……人間じゃなくなるってやばくね?」


そのままの意味なら化け物になる、ってことだろ?


「やばいです」


サナはあっさり即答した。


「本当に、やばいことなんです。この慣習は。

皆さんは、「ファイアストーム」と呼ばれる災害を

ご存知ですか?」


「あ、あぁ……炎の竜巻が発生するんだろ?

砂漠地帯に多い災害だとかなんとか…。

オリビアの住んでたあたりでよく起きてるやつだろ?」


「う、うん。秋ごろになると起きるけど…」


サナはコクリと頷いて、静かに説明する。


「あの災害は元々自然には存在しない現象でした。

あの現象の元は……魔術師なんです。」


「…………ど、どういうことだってばよ」


「魔術師は死ぬまでの間は人間のままです。


ですが、この本に書いてある理の契約により、

死んだ後は輪廻転生の枠から外れます。


そして世界の物理現象の「現象」として、

転生するんです。」


「ファイアストームという自然災害は、、

ここから見て東の国、砂漠の土地のとある英雄が

転生した姿なんですよ」

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