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5章 ミルラ
ロザーナのすべての記憶は、辛すぎて目を背けたくなるものだった。
断片的にしか分からなかったことが、いまは命果てた瞬間まで分かる。断片的だったからこそ、不安だったのかもしれない。
苦しかった。辛かった。それ以上に、ティエリを愛して幸せだった。幸せであった記憶だけ、ロズリーヌに強く残ったのだろう。
あのような辛い別れをして、残されたティエリはあのあとどうなったのだろう。
先に逝った自分は、思いだけ残してそれで終わったかもしれないけれど、ティエリは。
(前世の運命までも受け継ぐことなんてできない。したくない)
このまま会えないなんて、耐えられない。きっとまた会うのだ。
そう信じて、ただひたすら走った。
懸念されていたウィリアムの体調も悪化することなく、移動をし続け、馬もひともボロボロになりながら、サンタン村に到着したのは、ウィリアムの予想通り明け方だった。
さすが生花品質の良さで評判の村。村全体が潤っているのだろう。よく整備された場所だった。
村の中心部へ入っていくと、大きな建物のまわりにひとだかりができていた。
「あそこの宿屋に、ニコロさんたちが待機しているはずです。捜索に出ていなければ、いると思います」
ウィリアムが指さした。
馬を停め、皆と宿に入っていく。
「ニコロさん!」
ウィリアムが叫んだ。
熊かと思うような大きな体が、宿の奥から出てきた。ロズリーヌの顔を見るなり駆け寄ってきて頭を下げる。
「ウィリアム……! ああ、ロズリーヌ様、申し訳ございません! わたしがついていながら、こんなことに」
「ニコロ様、そんな、あなたのせいではありません。お怪我はないのでしょうか」
「わたしは平気です。斬りつけられた者もいたため、物騒な輩の狙いは自分だと分かって注意を引き、皆を逃がしてくださって……」
いまにも泣き出しそうなニコロ。いつもそばで支えていたのだ。心配で仕方がないのは同じだろう。
「屋敷の者が、フォルチュ領警備兵の派遣要請をしているはずです」
「そうですか。こちらではサンタンに立ち寄った騎士団支所の関係者にも連絡を繋いで貰っています」
ニコロは分厚い胸に手を当て、目を閉じた。
「ロズリーヌ様。自らおいでなさるとは、ずいぶんと無茶をなさる」
「いてもたってもいられなくて……とにかく、捜索しましょう」
乱れた髪をさっと直して、ニコロと一緒に外で出た。休んでなどいられなかった。
ウィリアムは残すことにした。疲労の蓄積により、立つことができなくなっていたからだ。無理もないだろう。
行けるものは馬に跨る。
ニコロが、村の内部を担当する者、森を担当する者といったように、組分けをした。
「逃げ延びて村に戻ってきている可能性と、森を移動している可能性を考えました」
それすらも正確かどうかは、ニコロには自信がない様子だった。
(捕まっていたら……)
最悪は山賊に捕らえられ、ほかの場所に移動してしまうことだった。
「どちらに向かったのか分かるのですか?」
ロズリーヌは出発前にニコロに確認をする。
「襲われたのは、サンタンを出発してすぐです。正確な位置は分からないのですが、テオドール様は、村に戻るようには走っていません。反対方向へ向かったのです。輩を引き連れてここに戻るわけにもいかなかったでしょうから」
村に助けを求めに戻ったわけではなさそうだ。そのような話をする者もいなかったようである。
「二日経過しています。捕まっていれば、どこか別な場所に連れて行かれているかもしれないわ」




