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ロズリーヌの赤い薔薇  作者: 蒼山 螢
3章 スパイシー
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 ジニーとふたりで部屋に戻ると、テオドールが来ていた。休憩なのか、紅茶を飲んでいるところだった。


「お疲れさまです。甘いものもご準備しましょうか」


「いや。いまちょっと息抜きをしていただけだから。あのね、午後から、ニコロと外出するよ」


「忙しいですね。分かりました。お気をつけて」


 ジニーがロズリーヌの紅茶を用意してくれた。そして、部屋を出ていく。

 棚に、持ってきた本を重ねていると、テオドールが「たくさん持ってきたねぇ」と笑う。


「書庫に行ってきたの?」


 ロズリーヌはテーブルに重ねた本を引き寄せた。


「ポプリの香り持続のために、乾燥させた花弁や木の実の材料だけでなく、もっと純度の高いものを足したいのです」


「それも、言っていたことだったね」


「テオドール、調香の技術についてお力を貸して欲しいんです」


 紅茶のカップを置き、ふっと表情を明るくしたテオドール。

 ロズリーヌはテオドールに向き直る。


「わたしね、花から、香りを抽出する技術を学びたいです」


「なるほど。それは、香水を作りたい……ということかな?」


 ロズリーヌは頷いた。


「言ってみればそうですね。既成の香水や精油を混ぜ込んでもいいけれど、できるだけ自分で作りたくて。抽出技術と調香を学びたいの。技術者や職人とつながりがあるのでしたら、お話をしたいのです」


 嬉しそうにテオドールが目を細めた。好感触。どういった方向に進むのかは分からないけれど、こうしたいという目的は伝えたから、それに向かって動き出すだけだ。

 テオドールの力を借りたかった。


「わかった。出入りの調香師に協力を要請しよう」


「ありがとうございます。ポプリに香水に近いものを足すことができれば、香りがもっと長持ちするはず」


「楽しみだね」


 テオドールはロズリーヌを引き寄せて、額にキスを落とした。


「さ、俺は出かける準備をするよ。夕食までには戻る」


「はい」


 穏やかな微笑みをくれて、テオドールは部屋を出て行った。


 ◇


 数日後、テオドールが手配した調香師が来た。

 ジャンという調香師は、ベテランで腕が良く物腰柔らかな紳士だった。白髪頭で小柄な老人といった印象。


(優しそう。怖いひとが来たらどうしようかと思っていた)


 作業用にひとつ部屋を与えられたので、そこにロズリーヌは書庫で集めた資料を持ち込み、ジニーも一緒だ。彼女はお茶とクッキーやサンドイッチなど、作業をしながら食べられるようなものを準備してくれた。


 広いテーブルに、ポプリの材料、ジニーに意見を聞きながら作ったポプリの袋などを並べた。香りの良い花や葉、木の実の香りが部屋に漂う。

 ロズリーヌは、ジャンに自分の考えを伝えた。


「ポプリ作成について、事前にお手紙に書いたのですが」


「試作品では……香りがすぐ飛んでしまい、そこを改善したいとのこと、ですな?」


 ジャンはロズリーヌの手紙を胸ポケットから取り出して、確認しながら話を聞いていた。


「はい。蒸留法による抽出で精油を作り、数種類集めたら、ポプリに合わせて混ぜてみたいのです」


「公爵様から、奥様はとても鼻の良い方だと伺っていますので、きっととても素晴らしい調香をされるでしょう」


 ジャンは普段は香水の調香師として店を持っているそうだ。ジャンは乾燥材料を手に取り、種類を見て目を細めた。


「ポプリは、どんなものを?」


「土台はフォルチュにある薔薇。ポプリは2種類作りたいのです」


「テーマはありますか?」


「はい。ひとつは華やかさがあるもの。元気になるような……気持ちの良い朝に、または、そうね、晩餐会とかに置いて貰えたら、華やぐと思うの」


 ジャンはほうと嬉しそうに手を広げた。


「素晴らしい。もうひとつは?」


「夜。心が穏やかになり、安らかな眠りをもたらしてくれるもの」


 パンパンパンと、ジャンが拍手をした。


「早速、取り掛かりましょう。こんなに心躍るのは久しぶりじゃ」


 ふたりで顔を見合わせ、握手を交わした。


(印象通り、お優しいかた。楽しく勉強して作業ができそう。嬉しい)



 それからというもの、ロズリーヌは、ジャンの手ほどきを受けながら、植物園にある花から香料の抽出を行った。

 納得のいくものが出来上がるまでいろいろと試した。

 希望通りの香りになればとても嬉しくて、早く作り上げてテオドールに見せたかった。



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