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ジニーとふたりで部屋に戻ると、テオドールが来ていた。休憩なのか、紅茶を飲んでいるところだった。
「お疲れさまです。甘いものもご準備しましょうか」
「いや。いまちょっと息抜きをしていただけだから。あのね、午後から、ニコロと外出するよ」
「忙しいですね。分かりました。お気をつけて」
ジニーがロズリーヌの紅茶を用意してくれた。そして、部屋を出ていく。
棚に、持ってきた本を重ねていると、テオドールが「たくさん持ってきたねぇ」と笑う。
「書庫に行ってきたの?」
ロズリーヌはテーブルに重ねた本を引き寄せた。
「ポプリの香り持続のために、乾燥させた花弁や木の実の材料だけでなく、もっと純度の高いものを足したいのです」
「それも、言っていたことだったね」
「テオドール、調香の技術についてお力を貸して欲しいんです」
紅茶のカップを置き、ふっと表情を明るくしたテオドール。
ロズリーヌはテオドールに向き直る。
「わたしね、花から、香りを抽出する技術を学びたいです」
「なるほど。それは、香水を作りたい……ということかな?」
ロズリーヌは頷いた。
「言ってみればそうですね。既成の香水や精油を混ぜ込んでもいいけれど、できるだけ自分で作りたくて。抽出技術と調香を学びたいの。技術者や職人とつながりがあるのでしたら、お話をしたいのです」
嬉しそうにテオドールが目を細めた。好感触。どういった方向に進むのかは分からないけれど、こうしたいという目的は伝えたから、それに向かって動き出すだけだ。
テオドールの力を借りたかった。
「わかった。出入りの調香師に協力を要請しよう」
「ありがとうございます。ポプリに香水に近いものを足すことができれば、香りがもっと長持ちするはず」
「楽しみだね」
テオドールはロズリーヌを引き寄せて、額にキスを落とした。
「さ、俺は出かける準備をするよ。夕食までには戻る」
「はい」
穏やかな微笑みをくれて、テオドールは部屋を出て行った。
◇
数日後、テオドールが手配した調香師が来た。
ジャンという調香師は、ベテランで腕が良く物腰柔らかな紳士だった。白髪頭で小柄な老人といった印象。
(優しそう。怖いひとが来たらどうしようかと思っていた)
作業用にひとつ部屋を与えられたので、そこにロズリーヌは書庫で集めた資料を持ち込み、ジニーも一緒だ。彼女はお茶とクッキーやサンドイッチなど、作業をしながら食べられるようなものを準備してくれた。
広いテーブルに、ポプリの材料、ジニーに意見を聞きながら作ったポプリの袋などを並べた。香りの良い花や葉、木の実の香りが部屋に漂う。
ロズリーヌは、ジャンに自分の考えを伝えた。
「ポプリ作成について、事前にお手紙に書いたのですが」
「試作品では……香りがすぐ飛んでしまい、そこを改善したいとのこと、ですな?」
ジャンはロズリーヌの手紙を胸ポケットから取り出して、確認しながら話を聞いていた。
「はい。蒸留法による抽出で精油を作り、数種類集めたら、ポプリに合わせて混ぜてみたいのです」
「公爵様から、奥様はとても鼻の良い方だと伺っていますので、きっととても素晴らしい調香をされるでしょう」
ジャンは普段は香水の調香師として店を持っているそうだ。ジャンは乾燥材料を手に取り、種類を見て目を細めた。
「ポプリは、どんなものを?」
「土台はフォルチュにある薔薇。ポプリは2種類作りたいのです」
「テーマはありますか?」
「はい。ひとつは華やかさがあるもの。元気になるような……気持ちの良い朝に、または、そうね、晩餐会とかに置いて貰えたら、華やぐと思うの」
ジャンはほうと嬉しそうに手を広げた。
「素晴らしい。もうひとつは?」
「夜。心が穏やかになり、安らかな眠りをもたらしてくれるもの」
パンパンパンと、ジャンが拍手をした。
「早速、取り掛かりましょう。こんなに心躍るのは久しぶりじゃ」
ふたりで顔を見合わせ、握手を交わした。
(印象通り、お優しいかた。楽しく勉強して作業ができそう。嬉しい)
それからというもの、ロズリーヌは、ジャンの手ほどきを受けながら、植物園にある花から香料の抽出を行った。
納得のいくものが出来上がるまでいろいろと試した。
希望通りの香りになればとても嬉しくて、早く作り上げてテオドールに見せたかった。




