6
テオドールに説明を受けたことを、自分の仕事と、よりよくするためのアイディアを書き出すことにした。
思い違いをしているようなところはテオドールとニコロに相談して修正して貰うためだ。
ポプリはまず2種類作り、ヤンの店コーントに出す。
素材としては、フォルチュの植物園にある薔薇をベースにする。国の特産物のひとつである草木染めの布を使用して小さな袋を作り、それを入れ物にしてポプリとする。
(草木染めのことは、ジニーのお父様が職人さんだから……)
乾燥させて混ぜる花をどれにしようと、考えるのがとても楽しかった。
ソファーに座り、夕食後のハーブティーを飲みながら考える時間はとても充実していた。
(こうしていると、あのことを忘れていられる)
思い出さなくていい。忘れていい、前世の記憶など。
そう言ってくれたテオドールの言葉が暗示になったのか、ここ最近はあの夢を見ない。
(このまま本当に、忘れられたらいいのに)
正直、いつ見るのだろうと思うと気持ちが不安定になる。
見たくないのに。いまだけを生きていたいのに。
だから、テオドールがこうしてポプリの仕事をさせてくれることは気が紛れるし、いいことだと思う。
忙しくして、夜はテオドールに抱かれ、ぐっすり眠ればいい。そうすれば、記憶の夢を見ない。
(テオドールがいれば、前世の記憶は見ないのだわ)
きっとそう。信じることで、ロズリーヌは自分の未来を見たかった。
◇
「ロズリーヌ様、そのように眉間に皺を寄せて……」
「えっ」
後ろから声をかけられるまで、ジニーがそばにいたことに気付かなかった。
「ごめんなさいね。気付きませんでした」
「ロズリーヌ様、お声をかけたのに夢中なんですもの。そのうち唸りだして。ポプリの配合でお悩みですか?」
「そうなの。ねぇジニー。フォルチュでは以前から調香技術を深めていると聞いたのだけれど。テオドールが忙しいからまだきちんと聞いていないの」
「そうですね。テオドール様先導で、たしか」
あまり詳しいことは知らないのですがと、ジニーは頬に手を当てた。
「書物を集めていらっしゃいました」
そういえばそのようなことを言っていたなと思い出した。
「ポプリの香りを持続させるために、香料を足したいのよね」
「書庫へ一緒に探しに行きましょうか」
「ありがとう」
書庫への出入は自由だったので、ジニーと一緒に調香の本を取りに行くことにした。
ひとことで書庫といっても、ロズリーヌの背丈より高い本棚がたくさん並んでいて、こんなの一生のうちで読み切れるのだろうかと思うような書物が収納されている。
上のほうは梯子を使わないと取れない。
種類別に並んでいるらしいのだが。
「見つけられるかしら」
神話や魔法の物語を読むのが好きなので、ロズリーヌが立ち寄る本棚はたいだい決まっている。テオドールは専門書や資料の棚にも行く。一緒に書庫へ来ても、別方向に向かったりするのだ。
「植物の図鑑、花はここ、どうしてここに絵本が紛れているのかしら……あとで直しておこう」
「ご夫婦で本が好きでいらっしゃって、素敵ですよね」
「読む種類がちょっと違うのだけれど。あ、このへんかなぁ」
香料、精油などの文字を見つけることができた。なんだか難しそうだったけれど、ロズリーヌは数冊の本を手にする。
「ハーブのもお持ちします?」
「そうね」
「これは、わたしがテオドール様に頼まれて町の書店に買いに行ったんですよ」
ジニーがハーブティーの本をパラパラとめくっていた。
「そんなことがあったのね」
相変わらず勉強熱心なテオドールだなぁと思った。
「3、4年ほど前でしたでしょうか。その頃、テオドール様は夢見が悪いから眠れないとおっしゃっていましたね。安眠用のものをお探しだったようです」
「眠れない?」
「ロズリーヌ様がいらっしゃってからは聞かなくなりましたけれど。10代後半でお若くして爵位を継がれましたし、真面目で一生懸命で。いつも多忙を極めていらっしゃいますでしょう」
大変さは想像に難くない。昔もいまも忙しい。ロズリーヌが来る前も結婚してからも、忙しい。不眠が慢性的だったのかもしれない。ジニーも、きっとニコロも心配しただろう。
「よく眠れる香りとか、お茶とか、ご興味がおありだったようですよ」
「そうなの……」
テオドールと出会う前のこと。眠れない夜を過ごしていたのだ。
ロズリーヌは、自分がここに来たことで、心が少しでも軽くなるのならいいなと思いながら、数冊の本を持って書庫から出たのだった。




