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テオドールが大きな両開きのドアの前で足を止めた。
「ここが俺の部屋。専用のダイニングがあるから、休憩しよう」
先ほど、ニコロにお茶とお菓子を要求していたのを思い出した。
「はい。ありがとうございます」
開かれたドアの向こう。ここで新しい生活を始める。
テオドールの趣味なのか、柔らかなアイボリーの白い壁、大きな本棚とソファー、ピアノが置いてある。ここはくつろぐ部屋なのかもしれない。左右に複数のドアがあるのだが、どんな風に部屋が繋がっているのだろう。
あちこちに置かれた花瓶には花が活けられている。どれだけ花を愛でるのが好きなのだろうか。
(これは、お世話が大変そう)
ロズリーヌは、テオドールのためにこれらの花の世話を思った。ウキウキする気持ちで部屋を見回す。
「このドアからダイニング。小さなキッチンもついているよ。だから料理もできる。俺はしないけれど、ロズがやりたければ使っていいよ」
「本当に、ありがとうございます」
「一応、きみの部屋を廊下の向かいにしたんだけれど、俺の部屋は続きの間がいくつかあるし、好きなほうで生活すればいいよ」
入口のドアを指さしてテオドールが教えてくれる。
廊下からのドアを入り、本棚とソファーの部屋、そっちがダイニング、そこのドアは寝室、隣が浴室。ここが書斎で奥が衣装部屋。寝室の隣に使ってない部屋がふたつ……だそうだが、説明を聞いても覚えられない。
「広いですね……うちなんかと比べものにならないくらい」
「数あっても、使う部屋はいつも一緒。だいだいどんなものだろう」
ダイニングへ入ると、少人数で使うテーブルセット、カウンターがありその向こうにキッチンがある。食事の場と調理をする場が同じ部屋にある作りは珍しかった。
「もともと、祖父が料理好きでね、キッチンとして使っていたところにテーブルも置いたからこうなったんだよ」
そこで、ドアがノックされる。テオドールが返事をすると、赤毛の女性がティーセットを乗せたワゴンを持って入ってきた。
「お茶をお持ちいたしました」
「ありがとう。ロズリーヌ、紹介するよ。彼女はジニー。きみよりふたつほど年上だね。公爵夫人付きの侍女になる」
ジニーと呼ばれた赤毛の女性は、細くてすらりと背が高かった。
「ロズリーヌ様、はじめまして。ジニーと申します。これから宜しくお願いいたします」
「わ、わたしこそ、ご迷惑おかけすることがあると思いますが、宜しくお願いします」
赤毛でそばかすの顔に浮かべられた笑顔はとてもチャーミングで、ロズリーヌはその笑顔を一瞬で好きになった。
ワゴンをダイニングテーブルに近付け、焼き菓子を並べてくれる。ティーセットをテーブルに置いてくれたところで「ありがとうございます。あとはわたしがやります」と申し出ると、少し申し訳なさそうにした彼女だったが、火傷に気をつけるよう小さく声をかけてくれた。
そして、ジニーが部屋を出ていく。
ロズリーヌはポットに紅茶の茶葉を入れ、お湯を注いだ。上質な香りが立ち上る。テオドールは隣に着席して、話の続きをする。
「寝室の隣の部屋は、ロズが使う部屋にするよ。きみの向かいの部屋と同じように使ってくれていいから」
「わたし、お部屋はひとつでじゅうぶんです……」
「衣装部屋と、趣味で使う部屋はあったほうがいいだろう」
あったほうがいいと言われると、そんな気がしてくる。しかし、ロズリーヌが来たからといって、たくさん部屋をあてがうのは不要であり、無駄だ。
「寝室の隣のお部屋を使わせていただきますね」
たくさん部屋を用意して貰っても、きっと決まった部屋しか使わない。衣装部屋が必要なほどドレスとたくさん持っていない。本が好きだけれど、ここに大きな本棚と読んだことない本がたくさんある。
「そうか。じゃあ向かいのきみの部屋は俺と喧嘩したときだけ使うようにしよう」
ニコッと少年のように笑うテオドールに、ロズリーヌも思わず笑みが零れる。
「ロズは、無欲だな」
「そうでしょうか……無欲なのだとしたら、幸せだからだと思います」
ハマーユでの生活も、コーントでの仕事も、生きることにも一生懸命だった。その中で、幸せを見つけてきた。小さいことでも幸せのひとつなのだから。




