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ロズリーヌの赤い薔薇  作者: 蒼山 螢
2章 ティー
21/51

 

 結婚式と、そして親しいひとたちだけを集めた披露宴も滞りなく終わった。ふたりとも、すぐに着替えをしてフォルチュの屋敷へ帰ることになった。

 そもそも結婚式自体が急がれたものだった。そんなに急がなくてもと思ったのだけれど。


 完全な引っ越しは数日先になるのだが、当初の予定では、ロズリーヌだけは数日先にフォルチュの屋敷へ入ることになっていて、普段使う日用品と少しの着替えだけを運び込んで貰っていた。

 モネルとヤンのことも発覚したので、モネルを後発の予定にしておいてよかったのかもしれない。


(結婚式が終わったといっても、まだしばらくは忙しいだろうなぁ)


 覚えることもたくさんあるだろう。ロズリーヌは支度を整えながら考えていた。


「ああ、くたびれた」


 迎えの馬車に乗り込むなりそう言って、しばらく黙って馬車に揺られていたテオドールだったが、ロズリーヌの手を握ったまま眠ってしまった。

 彼の寝顔を見ていたら眠くなってきたので、ロズリーヌも目を閉じた。



 優しく肩を揺すられ、意識が浮上した。

 一瞬、いま自分がどこにいるのか、なにをしているのか理解できなかったけれど、隣にいるひとが現実に引き戻してくれた。


「すみません……眠ってしまって」


「俺もいま目覚めたところだよ。ほら、もう屋敷の門をくぐったところだ」


 馬車窓を指さすテオドール。ロズリーヌは、外の景色に目を奪われた。

 夕日があと数分で沈みきるという時間だった。僅かばかりの明るさが、景色を視界に留める。


 広い。これが噂のフォルチュの庭なのか。植え込みは正しく整えられ、季節に花で彩られていた。ずっと向こうには森が見える。鳥を象った像と、噴水が並び、真っ直ぐ伸びる道は大きな白壁の屋敷へ続いている。

 これから、ここで暮らすのか。


「すごい……」


「植物園と果樹園は、屋敷の向こう側にあるから、明日にでも連れて行ってあげる」


「こ、こんなに広くて美しい庭、見たことないです」


「自慢の庭さ」


 ふふっと笑うテオドールは「さぁ、到着だ」と手を差し伸べた。馬車が停車すると、前を走っていた馬車からニコロが降りてきて、ロズリーヌたちが乗る馬車のドアを開けてくれた。


「お疲れ様です。到着です」


 先にテオドールが降り、あとに続こうと思ったら、下から腰を抱くように降ろしてくれた。

 凄く自然に、テオドールはロズリーヌの手を繋ぐ。慣れないから戸惑ってしまう。

 重厚な玄関のドアを開け、中に入った。玄関ホールの広さに驚いた。


 壁が白く、家具は落ち着いた色合いの木造りで統一されていた。庭も屋敷も広いけれど、華美で目が疲れてしまうような雰囲気ではなかった。花瓶には花が活けられ、植木鉢の緑も美しい。


 テオドールとニコロは歩きながらこれからの予定を話している。キョロキョロ上下左右に頭を動かすロズリーヌだった。


「明日は午後から来客があり、打ち合わせとなります」


「ありがとう、ニコロ。今日はもう皆、休むようにしてくれ」


「承知いたしました」


「お茶と、甘いものを少し、部屋まで運んでくれないか」


「手配します」


 続けていくつかのやり取りをし、そこで、ニコロと別れる。


(絶対、屋敷内で迷いそう)


「あの、テオドール様。屋敷内の地図などございますか?」


 まるでスキップをしそうなほどご機嫌な様子のテオドールがにこやかに答えてくれる。


「うん、あるよ。ニコロに持ってこさせるよ。どうした?」


「広いお屋敷なので、迷ってしまいそうで」


「そうだなぁ。増築を重ねているからね。俺も、何年も足を運ばない部屋もあるし、地下室もあるんだよ」


 なんとなく暗いイメージのある地下室という言葉に、ロズリーヌはすっと肩を狭めた。


 この国には、罪人などを収容する牢獄を、地下に作る歴史がある。入口をひとつにし、塞いでしまえば逃げることができない。

 大きな力を持つフォルチュ公爵の屋敷だ。地下牢があってもおかしくはない。


 しかし、近年では罪人は専用の牢獄施設に送られて管理されるので、個人の屋敷に牢獄があっても殆ど使われない。

 だから、フォルチュの屋敷にある地下室は、昔は地下牢として使用されたことがあったにしろ、いまはなにか別の用途で利用しているのだろう。もしくはそのままか。


(わたしには縁のない場所ね。好奇心から覗き見たりするかもしれないけれど。そのときはテオドール様に連れて行って貰おう)


 階段を上り、また廊下を進む。突き当たりに大きな出窓があって、丸いサイドテーブルの上には白い花瓶に赤い薔薇とカスミ草などが活けてあった。



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