表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/46

28:狐と温泉宿!

 狭間ほどではないが、昔ながらの町並みが並ぶ温泉街を、菖蒲と一緒に歩く。彼は、緊張しながらも私について来てくれた。

 私の右手は、菖蒲にしっかりと握られている。やっぱり、まだ少し不安なのかもしれない。

 通りの両側には土産物屋が軒を連ね、その前を浴衣を着た男女が手ぬぐいを片手に歩いていた。


「平日だからでしょうか。空いていますね」

「人が多いのは慣れないから、この方が助かるよ……あれは何?」

「温泉まんじゅうと、温泉卵と、地酒とサイダーですね」


 菖蒲は、宿に着く前だというのに地酒に狙いを定めている。なんだか微笑ましい光景だ。

 彼は、いつも狭間の境界で過ごしていたので、何でも物珍しいのだろう。菖蒲がこの旅行を楽しんでくれているのなら、私はとても嬉しい。


「先にお宿へ行きませんか」

「そうだね」


 イケメンの菖蒲は、人間の世界では注目の的だ。店の売り子達が、彼はモデルか何かなのかと騒いでいる。

 彼と私の瞳は目立つので、ここではカラーコンタクトで黒く色を変えていた。


「ご兄妹ですか?」


 宿の受付で、従業員の男性にそう尋ねられた。まあ、そう見えるよね……

 私は高校生だったし、外見は年よりも更に幼く見える。

 しかし、菖蒲は、にっこりと笑って訂正した。


「夫婦だよ」

「……失礼しました。ご夫婦でしたか」


 そう言葉を返す礼儀正しい従業員は、内心驚いていることだろう。

 菖蒲と二人、彼に客室へと案内される。


「あれ? なんだか、部屋広くない?」


 私が予約したのは、一番お安いプランだったと思うのだが……

 どう見ても、この部屋は良い部屋だ。お値段も張りそうである。


「ふふっ。一番いい部屋取っちゃった」

「取っちゃった……って、菖蒲?」

「差額は私持ちだから、薊は何も気にしないで良いんだよ?」

「いや、でも。菖蒲は、人間の世界のお金なんて持っているのですか!?」

「勿論だよ。狭間には、各世界の紙幣を交換出来る両替所があるんだ。番人の給料は破格だからね」

「……そうなんですか」

「うん……使い道はないけど。やっと、お金の出番が来たね」


 知らなかった。菖蒲がお金を稼いでいたなんて……!


「ふふっ、そんなに驚いて。可愛い顔」


 菖蒲は、嬉しそうに私を見ている。


「……確かに、あの暮らしでは使い道がなさそうですね」


 必要なものは短冊でほぼ揃ってしまうし……

 あの短冊は、番人特典だそうで、普通の天狐の家にはないらしい。菖蒲の犠牲の引き換えにと、過去に長が送ったものだとか。

 だから、菖蒲の稼いだお金は、今まで使われることなく眠っていたのだろう。


 従業員が去ると、私は広い部屋の中を見て回った。

 部屋自体は和室だが、畳の上に敷く布団とベッドの両方がある。好きな方で眠って良いということらしい。

 洗面台も綺麗で広いし、風呂はジャグジーだ。ベランダの外に、露天風呂まである。


「薊、楽しそうだね」


 興味深く部屋を見て回る私を観察しながら、菖蒲が目を細めている。


「楽しいです。こんな部屋、生まれて初めてだし」

「私も、人間の世界の宿は初めてだよ。薊のおかげで見ることが出来た」


 菖蒲の言葉に嬉しくなった私は、近くのベッドに倒れ込んで、赤くなった顔を隠した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ