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薬師  作者: 小林 谺
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5話  クスメイアの変人一族4

 思案顔のヒイルに、父親に似なくて良かったと思う反面、もっとしっかり育っても良いとも思うのだが、何故こんなに甘え上手で天然になってしまったのかカーマにはわからない。出来が悪いなら諦めも付くが、残念ながら教え子の中ではダントツで優秀だ。性格に難はあるし、黒いのか白いのか微妙で暢気すぎるが。

 よく言えば大らか、と内心苦笑したところで、

「ヒイル。明日から3日間は謹慎と言った筈ですが」

 ちらりと視線を送ると、ヒイルが曖昧な笑みを返す。

明日(・・)とは言ってなかったよ。3日間謹慎とは聞いたけど」

「ええ。では明後日から3日間でいいのかしら?」

「うん。交渉は1日でなんとかするから」

 素直に謹慎を受け入れるあたりは子供の頃から変わらない。ツメは甘いが。

「わかりました」

 笑顔のカーマを眺めて確信犯であることに気付いたキリウが、

「……ヒーちゃん。4日後にタキウの商人が来るけど」

 ぽつりと呟く。

 ヒイルが固まって、ジンが「あ」と声をあげる。

 タキウはクスメイアの南方にある農業が盛んな街だ。王都での仕入れのために毎月決まった時期に商人組合の代表者がやってくるが、その際に新種やら普段流通してない収穫物をもってくる。

 ヒイルにとっては月一の楽しみで、タキウの商人組合とは薬草の品種改良の協力関係でもある。共同作業のモノに付いてはここまで来てくれるが、そうでないモノは商人組合が開く特設会場へ行かなければ入手どころか見ることもできない。

「………カーマ」

 小さく呟いた声音は今にも泣き出しそうだった。

「はい、何でしょう?」

「タキウの会場だけ同伴付で行きたい」

「誰を?」

「ヨギ?」

「いつもの事ですね」

 バッサリだった。確かに、大荷物になることが多いのでヨギが毎回、荷物持ちとしてくっついてきている。

「初日は諦める、という選択肢は存在しないのですか…」

「初日が重要なんだよ! 珍しいのは売れちゃってなくなるんだから」

 拳を握りしめて力説する姿にもう一度ため息。

「会場だけですよ」

 柔らかな笑みを浮かべて許可した姿にジンとキリウは揃って、結局、ヒイルを一番甘やかしているのはカーマだと結論付けた。

「有り難う」

 心底嬉しそうなヒイルと微笑むカーマ。見た目と実年齢の差はこの場合は考えない方がいいだろう。

「ヒイル。シナリウムの交渉って僕も行っていいかな?」

「別にいいけど。明日の予定って空いてるの?」

 王子がひょいひょい城の外へ出る発言も問題だが、そうと知りつつ了承するのも如何なものか。尤も、クスメイアならでは、なのだろうが。

「昼頃なら。午前と午後の予定の開きがあるからさ」

「それなら、きちんと許可を得てその頃に。護衛もまいちゃ駄目だよ」

 ニコリと告げられた科白に、うっとジンが後退った。

「約束が守れないなら、駄目ね」

「…わかった。誰でもいい?」

「いいよ。ポカやらかしてジン君の正体バラすような堅物以外なら。それと、時間に余裕があるならマギンでパンを買ってきてここでお昼食べる?」

 作るのはカーマだけれど、と声にならない科白が続いた気がした。

「いいの…?」

 視線の先はカーマだった。

「不肖ながら私めの料理で宜しければ」

「勿論! カーマのご飯はおいしいよ!!」

「王城ほどの豪華さはないと思いますわ」

「そんな事ないよ。あの食材があんなにおいしくて綺麗なものに変わるんだから!」

 キラッキラと目が輝いていた。カーマの餌付けは王族にも有効だったようだ。

 尤もキリウもそれで足蹴く通っているし、国王夫妻、特に王妃アシルウィナがその辺の主婦のようなノリでお茶に来るし家庭内の愚痴りもする。

 クスメイアの王族はどうしてこんなに腰が軽いのか不思議でならないが、先祖代々続くナニカのせいなのだろうと納得するしかない。国民にとってはそれが当たり前になっているのもしかり。

「では、腕によりをかけてお待ちしております」

 にこやかなカーマの微笑みに、本当に嬉しそうにジンは頷いた。

「それじゃ、また明日!」

 勢いよく立ち上がったジンに、

「ジン君。待ち合わせ場所、ヤムバさんのトコでいい?」

「勿論。鐘2つ半くらいの頃に。鐘3つまでに行けなかったら、直接会場へ行くから先に行ってて」

「わかった。会場の場所はわかる?」

「うん、大丈夫。明日楽しみにしてる」

「カーマのご飯を?」

「うん…って、色々!」

 素直に頷いてしまってから慌てて付け加える姿に、ほんわかした空気と笑いで部屋が満ちる。

「キリウ様。ジルイ様を無事にお連れになってくださいませ」

「そうだね」

「何かあっては、アシル様がここで長居されることになりますから」

 笑顔での科白は暗に苦労するのはお前だとキリウに告げていた。

「心得てます」

 悟りきった表情の科白に、ヒイルとジンはお互いの顔を見合わせる。

「そういえば、ジルイ様」

「何?」

「昨日、アシル様がいらっしゃった際に頼まれたものを届けていただいていいですか?」

 王子を使うメイド。それ以前に、王妃が昨日来てたという事実に驚くその他の面々。

「別にいいけど、何?」

「内緒です。取ってまいりますので少々お待ち下さい」

 にっこりと告げて席を立つカーマを見送る。

 カーマに子供はいない筈だが、時折自身の母と被るくらい母親オーラが漂っているのでジンにとっては逆らえない相手の1人であった。

 その後、戻ってきたカーマから自分の顔ほどの包み紙を受け取ると、中身は何なのか気になりつつも確認できないままジンは城へと戻っていった。荷物があってもそれを持つことなく隣を歩くキリウに文句を言える者は城に着いてからも皆無だったという。

後半。

交渉にするか、お買い物にするか、当初の流れ通り次に行くか検討中。

プロット的なモノは全部存在するけれど、前2つは番外のノリで考えたものなのでやるとなると、本編の進行速度が更に遅くなる可能性に怯えています。


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