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魔法と魔人と王女様――情報の魔人と重力の魔法で王女と一緒に宇宙を攻略(ハック)――  作者: 月立淳水
第六部 魔法と魔人と終焉の奇跡

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第四章 道を示す者(3)


「ファレンでの衝突が解決でき次第、私たちはエミリアに向かうの。国民の私への支持を背景に、今の暴挙をやめることを貴族どもに飲ませるわ。必要なら、一人残らず弾劾裁判にかけてやるって脅して。陪審員は圧倒的に私を支持している民衆から選ばれるんだから、法的には彼らには退路は無い。彼らは飲むしかないわ。私の魔法の力を見れば、私兵を動かして私を害する気さえ起こさないでしょう。これが、完全勝利のプラン」


 計画の佳境を一息に説明し終え、そして、セレーナは椅子の背もたれに全体重を預け、大きく息をついた。

 これで、長い話は終わったようだ。


「新連合を引きずり込んでの軍事衝突の回避、王女に対する絶対的な信頼感の醸成、それから、民の支持を背景とした貴族たちの計画の排除。見事なプランですね。いつから?」


 マービンが問うと、


「ラウリの話、アルカスの秘密、そして、エミリアでの戦い。もうそのときにはプランはできてたわ」


「もうこれ以上の条件は必要ないかな」


 ちょっと慎重に過ぎると言われるかもしれないけれど、僕は横槍を入れる。


「これ以上を求めるには時間が無いし、ここまでできただけでも上出来。こんな短期間でこれほどのことをしてくれて、みなさん、本当にありがとう」


 セレーナは立ち上がって頭を下げた。

 ルイスは眠そうな目でそれを見つめる。

 スコットは顔をほころばせて何度も首を上下に振っている。

 ビクトリアはなんだかかしこまって頭を下げ返している。


「もう忘れ物が無ければ、今すぐにでも飛び立ちたいの。大丈夫かしら」


 頭を上げたセレーナが、一同を見回す。


「ほっほ、美貌の王女様をもうしばらく眺めていたいというのは、贅沢な望みかの?」


 スコットが茶化すと、ルイスもビクトリアも笑った。


「そうね、おかしいと思ったのよ、ジュンイチ君の妹がこんな美人だなんて」


 と、ちょっと失礼なことを付け足すビクトリア。

 こんな風に美人だ美貌だとほめられて、普通は恥ずかしがったりするようなものなのだろうけれど、セレーナは胸を張って誇らしげにみんなを見下ろしている。


「みんなちっとも分かっちゃいない」


 僕は思わずつぶやく。

 セレーナの魅力は、その見てくれなんかじゃない。

 強い意志。気高い精神。

 時々ちょっと頼りなくなることもあるけれど、それでも彼女は必ず立ち上がる。

 そんな彼女の強さこそが。


「何がよう?」


 僕のつぶやきを聞きつけた浦野が突っかかってくる。


「セレーナの魅力は顔なんかじゃない」


「分かってるわよう。……ふふっ」


 浦野が変な笑い方をするものだから、なんだか馬鹿にされているような気がして、それ以上付け加えるのはよした。


***


 すっかり日は高くなっていたが、もはや人目をはばかる時期は過ぎたとばかりに堂々と格納庫のシャッターを開け、ドルフィン号はマジック推進を最小限に動かしてわずかな慣性で格納庫前の操車場に姿を現した。

 見送るスコット、ルイス、ビクトリアを背に、僕らは次々とタラップを駆け上がった。


「元気でね!」


 五人が搭乗ハッチに並んで見下ろしたときに、ビクトリアが叫んだ。


「もちろんです! スコット博士をアンビリアに連れ帰りに来なくちゃなりませんから!」


 セレーナが答える。


「では、もう一度くらいは、ロックウェル人、アンビリア人、エミリア人、地球人が一堂に会するなどという珍しい現象が起こるわけだの」


 スコットの言葉に、思う。確かに、今日までここで、人類史上稀なる現象が起こっていたわけだ。

 これだけの人が集まって成し遂げた研究。

 その成果の魔法を携えて、王女様と魔人を乗せた魔法の船は飛び立つ。

 タラップを開けたまま、ドルフィン号はゆっくりと浮き上がった。

 三人はいつまでも手を振っている。

 僕らも負けじと振り返す。


「ご老体なんですからあまり寒風に体をさらしちゃだめですよ!」


 僕が大声で言うと、


「なんじゃと! 人を馬鹿にしくさって! 帰ってきたらたっぷりと研究課題を用意しておるから覚悟しておれ!」


 スコットも大声で怒鳴り返してきた。

 そして口々にさようならの挨拶を交わし、ドルフィン号の高度はやがて百メートルを超え、お互いの声は聞こえなくなった。

 タラップを閉じ、冷たい風から僕らを守る無味乾燥なハッチの内壁を、五人が、それぞれに思いを抱いて見つめる。

 やがて。


「さあ、出発よ」


 我らが王女が命じると、残る四人は我に返って操縦室に向けて駆け出した。


***


 目的地は、もちろん、ファレン共和国、惑星ファレン。

 すっかり使い慣れた情報防壁を全開にして、ドルフィン号は突き進む。

 船に乗ってすぐに僕は一旦眠ることにした。徹夜で作業していたマービンもだ。

 途中、この戦力の空白を狙って帝国復興を目論むシュッツェ帝国の残滓に出くわして叩き起こされるなんていうハプニングもあったけれど、ドルフィン号はもうファレンまであとジャンプ二回という距離にまで達していた。

 眠い目をこすりながら操縦室に入ると、僕の座るべきナビゲータ席はいつものように空席で、僕は遠慮なくそこに腰かけた。


「もう、間もなくだね」


 誰にともなく言うと、


「そうねえ、地球のみんなは今頃何してるかなあ。あー、随分勉強取り残されちゃいそう」


 浦野が応え、


「勉強なんてどこででもできますよ」


 と言うマービンが端末で見ている本は、間違っても学校の教科書じゃないことは間違いなさそうだ。


「考査、大丈夫かな」


「もちろん大丈夫じゃありませんね、今日、考査が始まります。今、地球の東京標準時で午前二時。九時前から春の期末考査開始です」


「ええっ、それは困る」


 そんなことを言う間も、ドルフィン号は次のカノンの列にさりげなく割り込んでいく。もはやオーダー無くともジーニー・ルカはどんどん悪事を重ねていく。


「星間通信が解禁されたら、学校に連絡しましょう。追試を用意してもらえるように」


「だったらもういいわよ、どうせファレンは目の前。私たちが何をやるのかはもうすぐ披露しちゃうんだし」


 セレーナは椅子ごと振り向く。


「私も、一度くらい考査受けとかなきゃ、留学の意味が無いもの」


「そこにはこだわるんだ」


 僕の突っ込みにみんなが笑った。


「私たちは大層なことをやってるみたいで、結局、子供なのよ。ただ、不相応な力を持ってるだけの子供。ルイス博士は、そんな子供が歴史を変えるんだ、って言うけれどね、やっぱり、子供は子供の本分を果たさなきゃ」


「つまり、こういうことだね、うぬぼれるな」


 僕が言うと、セレーナはふくれっ面を見せた。僕がただの一言で彼女の言いたいことをまとめてしまったのが不満なのだろう。


「はいはい、喧嘩はあと。準備しときましょう、いろいろあるんでしょーう?」


 浦野が割り込んでくる。


「そうですね、まずは、通信と放送の確保。これは、早めに仕込んでおきましょう。私が必要な経路を調べておきます」


「じゃあ、国民投票システムは僕がジーニーと予行演習しておく」


「えーとじゃあ俺は、あー、……ねえな」


「荷物をまとめておこうよ、この船を降りなきゃならないんでしょう」


 浦野はそう言って、ちょっとさみしそうな顔をした。


「降りる、で思い出した、カノン基地を占拠しなくちゃならない。偽の警報とかで大半を避難させることはできるだろうけれど、三人にはまたちょっと、その……」


「うふふ、こっちね」


 そう言って、いつの間に手にしていたのか、浦野は神経銃を顔の横に持ち上げて微笑んだ。


「警備システムを狂わせるから、相手は混乱してると思う。最小限の威力でしばらく立てないくらいにしてもらえればいい」


「いいよう。毛利君、キアラさん、威力最小だから、武器を持ってる手首を狙うのよう?」


「そ、そんな器用なことできねーよ」


「じゃあ練習。ジーニー・ルカ、何か練習用の的とか、無いかなあ」


「トモミ様、それでしたら、シミュレーターがございます。キャビンの表示パネルを的に見立てて練習ができます」


「……だって。行きましょ、毛利君」


 浦野はそう言って、まだ何かぶつくさ言っている毛利の手を引いて操縦室を出て行った。

 操縦室に残った三人は、それぞれの準備を始める。

 セレーナは、これからの対決に備えて、相手との仮想問答を繰り返している。

 マービンはエミリア王国三惑星の全放送系システムのリストアップ作業だ。

 そして僕は、国民投票システムの予行演習。


挿絵(By みてみん)


 最初に、全エミリア国民を観測するシステムだ。

 地球と同じようにあらゆる街路に設置されている防犯カメラと住民台帳システム、そしてIDスキャンを手中に納め、それを全知能力のスクリーンとして設定する。

 最初は簡単な問題から。

 エミリア王国民の男性比を直感で知れ、と命じる。

 答えは、男性49.8752パーセント。答え合わせをすると、男性は48.4771パーセントだった。元々、ほぼ半々だろう、という予想が成り立つ問題と考えれば、この誤差は大外れだ。

 だが、僕はこの結果でよかったと考える。これだけで下手に完璧な答えが出てしまうよりも、もう一つ、試すことができるからだ。次の問題を、六十代人口比率に設定する。それから、


「セレーナ」


 呼びかけると、難しい顔をしていた彼女が顔を上げて僕の瞳を見つめる。

 それを一瞥しながら、


「ジーニー・ルカ、算出」


 命じると、ジーニー・ルカは、直感推論結果として、13.22581パーセントを導き出した。実際の統計結果は、13.22581。

 彼の直感機能、あるいは、量子予測機能は完全に機能している。もはや疑うこともあるまい。


「……なに、ジュンイチ」


 あ、そうだった、呼んだまま放ってあった。


「あ、ごめん、なんでもない」


「何よ、気になるわね」


「いやその……今度話すよ」


「……まあいいわ、でもあまり邪魔しないで」


「ごめん」


 セレーナがいつになく緊張している。

 そうだろうな。

 それに比べて、僕は思ったほど緊張していない。

 僕が、やって見せる、と啖呵を切った数々の役割は、実のところ、みんなジーニー・ルカがやってくれるんだから。

 楽なものだ。

 座席の上で、ふう、と息をついて、両ひざを伸ばす。

 窓に、星々が輝く。低いマジック推進の唸りが続いていることに気付く。心が穏やかになっているのを感じる。

 カノン投擲が間もなく、と、ジーニー・ルカが警告する。

 ベルトを締めなおして、備える。

 もう何十回目かになるカノンの加速を感じ、終わる。


 あと一回で、僕らの目的地。


***


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