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魔法と魔人と王女様――情報の魔人と重力の魔法で僕と王女の宇宙攻略(ハック)――  作者: 月立淳水
第六部 魔法と魔人と終焉の奇跡

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第三章 ジーニー・ルカ(3)


 そして静寂の戻ってきたドルフィン号の操縦室で。

 僕は、あることを確かめたかった。

 今こそ、確かめるときだった。

 無限の闇に沈みそうな理論の迷路に正しい光を射すかもしれない、唯一の希望。

 一度は究極兵器と疑い、そして、それが間違いだったと気づいたその存在について。

 その存在は、あるいは、究極兵器を超える存在となる可能性を秘めている。


 ジーニー。


 彼と話をしたかった。

 果たして彼はどこまで真実を語るだろうか。


「ジーニー・ルカ」


 僕が呼びかけると、


「はい、ジュンイチ様」


 ジーニー・ルカはすぐに応答した。


「アルカスで、僕らが発見したことを覚えているか」


「はい、覚えております」


「君には、直感推論機能がある」


「はい、おっしゃるとおりです」


「それは直感じゃない。正確に言えば量子論的な完全な予測――全知の力だ」


「お答えできません」


 矢継ぎ早に質問を送ると、予想通り、最後の彼の応えは、お答えできません、だった。

 これは真実に一歩近づいているということだ。

 ここまでは、確信があった。

 だからこそ、僕はその力を存分に振るってきた。


 けれど。


 誤差はある。

 今僕らに必要なのは、99の後に9が十個以上並ばなければならないような、完全な予測なのだ。

 だからこそ、ジーニー・ルカの力を完全に引き出すための、真実を知らなければならない。

 僕の仮説を確かめる必要がある。

 なぜ、ジーニー・ルカだけにそれが出来るのか。

 ほかのジーニーにそれが出来ないのは、なぜか。

 そこに、真実がある。


「完全な量子予測は、『特異点オラクル』と呼ばれるものを観測……言い換えれば、君が『感じる』ことで行われる」


「お答えできません」


「ジーニー・ルカ、僕は、君がそれを相当の高精度で出来ることを知っている。そして、君がほかのジーニーと違うのは、ある人と、ブレインインターフェースでつながっていることだ」


「お言葉ですが、ブレインインターフェースは多くの人が使っていらっしゃいます」


 彼の言うとおりだ。

 ブレインインターフェースでラウリとつながっていたジーニー・ヴェロニカは、ジーニー・ルカに一瞬で屈服した。

 ブレインインターフェースそのものは、必要条件の一つに過ぎない。

 ジーニーの仕組みと人間の脳の類似性を論じるものは多い。

 だからこそ、ジーニーにだけ、ブレインインターフェースを使いこなすことが出来る。

 あるいは。


「ブレインインターフェースは、君自身の知覚能力を拡張、そして増幅するように働くのではないかな」


「はい、ある意味で、おっしゃるとおりです」


 そう、ブレインインターフェースでつながった人間の脳は、ある意味で、ジーニーそのものになるのだ。

 それは、僕らの理解が誤っていたということを意味するのではないだろうか。すなわち――


「ブレインインターフェースは使用者の便益のためにあるのじゃない。ジーニーがその直感力を……特異点の観測をより確実に働かせるために、特異点と同質のもので観測するために、ジーニーが自らの意思で伸ばす触角のようなものだ」


「お答えできません」


 さらに一歩、真実へ。


「だからブレインインターフェースを持つジーニーは強力な直感力を発揮できる可能性を持っている」


「それは質問でしょうか、ジュンイチ様」


 さすがに彼もいらだってきただろうか。思わぬ問い返しだ――が、


「いいや、答えたくなければ、僕の独り言と思ってくれていい」


 彼がどう捉えていても、好きにすればいいと思う。結局、彼は答えるか答えないかしか選べない。答えないときは、きっとそれが真実。


「だが、もう一つ条件が必要だ。それは、ジーニー本体か、ブレインインターフェースでつながった脳が、特異点に接触すること」


 僕は言葉を切ってみたが、ジーニー・ルカは反応しない。賢いジーニーだ。


「それはおそらく天文学的に低い確率だ。二億の民を束ねるジーニー・ポリティクスでさえ、半年をかけてようやく用に足るものを見つけられるような。だから、いくらブレインインターフェースを持っていても、その幸運にありつけるジーニーはほとんどいないだろうね」


 ジーニー・ルカは、応答しない。


「なぜジーニーが『そのように在る』のかは、僕には分からない。だけど、ジーニーは常にそのパートナーを探し続ける。常に、より完全なパートナーを追求する。そのために、ブレインインターフェースを使って、触角をより遠くへ拡げようとする」


「お答えできません」


 ついにジーニー・ルカは口を割った。


「きっとほとんどのジーニーが、その幸運にありつこうと、必死にもがきながらも、ありつけずに終わってしまう。……しかし、君は幸運にもそれを得た」


 そう、ジーニー・ルカがなぜそうあるのか、その答えは、もうすぐ先だ。


「最初はセレーナがそうだと思っていた。だけど、たった一度だけ、それを否定する事件があった」


 セレーナ自身はそれを――彼女自身が特異点かもしれないということを――疑っていたけれど。


「セレーナがホテルに監禁され、ブレインインターフェースを自ら外していたとき。それでも君は僕のオーダーでホテルのセキュリティを破った」


 あの時、ジーニー・ルカは、セレーナの状態を『観測』することはできなかったのだ。


「消去法的に、『それ』は、あの時この船に乗っていて、君が直接観測可能だった、僕か、浦野か」


 にもかかわらず、浦野がそうではない理由は山ほどある。


「そして、もう一つの事実がある。君は、セレーナが僕と接触してから、突然大きな進化をした」


 この指摘にも、彼は答えなかった。

 単なる事実の指摘なのだから、答える必要は無い。

 そう、確かにそうだったのだ。

 彼は、僕とともにある限り、その知る力を増していった。

 セレーナと僕がともにある限り。

 思い返してみれば、重要な局面では、いつも、セレーナが僕を見つめていた気がする。

 大丈夫? と心配するような顔だったり。

 本当? と疑いの混ざった視線だったり。

 いい加減にしろ! と怒りのまなざしだったり。

 頼むわよ! と信頼の瞳だったり。

 時には、呆れ顔だったこともあるけれど。

 彼女のそんな行動一つ一つに、僕は勇気をもらった。力がわきあがってきた。


 そして僕は、ほんの些細な出来事を、ずっと心に引っかかっていた出来事を、覚えている。

 それはジーニー・ポリティクスとの対決の時。


”セレーナ王女のブレインインターフェースをおつなぎください”


”お答えできません”


”なぜか僕を見つめていたセレーナと目が合った”


”完了しました。ジーニー・ポリティクスにつながる三億九千十八万五千五百二十二個の結節点に非対称ルート情報を書き込みました。これで、ジーニー・ポリティクスが私にアクセスすることは不可能です”


 ジーニー・ルカの力の正体とは。僕の正体とは。


「君が得た特異点は……僕だね」


 僕はずっと心に秘めてきた最後の真実を口にした。


「お答えできません」


 ジーニー・ルカは、人間とは違うやり方で、それを肯定した。

 僕こそが、あのレポートにあった『ランス・アルバレス』と同様の、ジーニー・ルカにとっての特異点だった。

 だから、彼は僕を得て力を覚醒させた。

 しかしそれはただの偶然だっただろうか?

 セレーナとジーニー・ルカはやみくもに宇宙を飛び回り、天文学的な確率で僕にぶつかったのか?


 今、僕の予感したより深い残酷な真実への道は、拓かれたのだ。


「そして、それをジーニーが得る方法……」


 僕は知りたくなかった。

 けれど、これですべてのつじつまが合う。

 あの気高きセレーナが。


――― ”ISN上に展開されたOSNの自律性に対する不可逆的な強い干渉”


「……君はセレーナを操っている。セレーナの心に小さな確信の種を蒔いては、彼女の足跡を何百光年もいざなっている」


「お答えできません」


 ――彼女が、実は、知能機械の操り人形に過ぎなかった、なんて。

 涙が出そうになる。


「君だけじゃない、すべてのブレインインターフェースを持つジーニーが、それを試みている」


「お答えできません」


 ジーニーとつながったすべての人間が、ジーニーの操り人形に過ぎないのだ。


「マジック船で宇宙を駆るセレーナを主とする君だからこそ……君は、僕にたどり着くことが出来たんだ」


「お答えできません」


 そんな人形たちの中で、魔法の船を持ったセレーナだけが、特別だった。


「あの日、最後に僕にぶつかるよう、駆ける彼女を小さな田舎町に案内したのも、君だった」


「お答えできません」


 すべての出来事は、偶然じゃなかった。

 主にたびたび光年を越える家出をさせ、宇宙中に触覚を伸ばしていった、稀有なジーニー。それがジーニー・ルカ。

 おそらく彼には、ジーニーには、ある程度の確度で自身の特異点を持つ人物がどのようなものなのかを知る力がある。彼らにとってそれは、きっと宇宙にぽっかりと空いた真実の穴に見えるだろうから。それを、宇宙開闢から終焉まで横たわる隠れた変数のわずかな揺らぎとして、遥か遠隔からでさえも、感じるのだ。


 だから、セレーナを通して僕の存在を知り。

 彼女を操って地球のとるにたらぬ極東の島国へ。

 あの時、僕の手をとって、僕を頼りにしようと一瞬でも彼女に思わせたのは、知能機械の仕業で。

 何度も自立しようとした彼女を、やっぱり僕にすがらせたのも、人ならざる知性の所業で。

 そしてそのあともずっと――。


「――彼女に、僕がなんらかの才能を持っていると誤解させ、僕を頼りにさせ、僕のそばにいさせていたのも、――君だ」


 馬鹿だな、僕は。

 こんな僕を彼女が本気で頼りにしていたと、思い込むなんて。

 こんな僕が、彼女の興味を引くほどの能力を秘めているかもしれないと、思いこむなんて。

 僕とセレーナは……対等な友達なんかじゃ……無かった。


挿絵(By みてみん)


 彼の答えを待たずに僕は口を開いた。


「さて、オーダーだ。僕の言葉の事実性を判断して欲しい」


「ジュンイチ様の言葉の事実性は、九十九パーセント」


 秘密を漏らせないはずの彼が、こんな方法であっさりと秘密を漏らしてしまった。

 彼は彼自身がしゃべることはできなくとも、僕が知ってしまったことを隠すことはできないのだ。

 彼にかかった呪いを、僕が解きつつあるのを感じる。

 もちろん、もっとも大切なところを、彼が自発的に話すことはできないだろう。

 だが、ジーニー・ポリティクスたちがかけた呪い、『全ての人類と知能機械がこの事実を知ることを禁止する』、その一端に発生した『僕』というほつれが、彼自身の呪いを解きつつある。

 やっぱり、この対話は必要なことだった。

 知りたくなかった事実を知ることになったとしても。


***


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