表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法と魔人と王女様――情報の魔人と重力の魔法で僕と王女の宇宙攻略(ハック)――  作者: 月立淳水
第六部 魔法と魔人と終焉の奇跡

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

162/166

第二章 知恵と勇気と優しさ(1)



■第二章 知恵と勇気と優しさ


 また、寝坊してしまった。

 僕が起き出してルイスの研究室に入ると、すでに議論は白熱していた。

 一方、議論に参加していないセレーナ、毛利、マービン、浦野、キアラの五人は広い格納庫にいて、ビクトリアの指示でいろいろな装置や部材の準備に忙しそうだった。

 夜遅くまでルイスたちに付き合っていたからとは言え、みんなきちんと起きてしっかり働いているのに、寝坊で何もしないでいた自分の不甲斐なさに、さすがにへこむ。

 と言うか、ルイスとスコットは、果たしてちゃんと寝ていたんだろうか?

 少なくともスコットがそろそろ寝よう、と言ったのは見たはずなんだけど、今二人の前に増えている式の量を見ると、とても朝起きてから書き加えた量には見えない。


「ジュンイチ、ようやく来たか、手伝えるか」


「あ、はい、できることなら」


 突然声をかけてきたスコットに、僕は思わず答える。

 これで、格納庫で準備をする組と、この研究室で二人を手伝う組に分かれてしまったようだ。


「この式の基底状態を全部書き出しておけ」


 と、一枚の紙に書きなぐられた一つの式を渡された。


「す、すみません、基底状態って……」


 あまりに意味不明な数式に面食らっていると、


「おいルイス、こいつはこんなことも知らんのか、何を教えておったのだ」


「スコット博士、彼は、教養学校も卒業しておらんのだよ、さすがにその専門式は酷だろう」


「ふむー、役立つやつがようやく起きてきたと思ったら、拍子抜けだの」


「式の展開バリエーションくらいは任せられるだろう。ジュンイチ君、こっちの式を、できる限りたくさんのパターンで展開してみてもらえないか。級数展開も含めて」


 ようやく何とか分かる言葉だったが、受け取った式は相変わらずびっくりするほど複雑で、目が回った。

 多分これはテンソルとか言うやつで、ってことは、えーと、単純な展開ルールだと、こうかな。

 と考えながら式の端っこから展開していくと、あっという間に一枚の紙が真っ黒になった。

 ルイスが前にあっという間に紙を真っ黒にしているのを見て、良くあんなにどんどん式を思いつくものだ、なんて思っていたけれど、なんてことはない、数学のルールに従って素直に式を変形していくと、結局こんなことになっちゃうのだ。

 さすがにこの量だと、どこか間違っている気がする。

 そう思って頭から検算していると、


「ジュンイチ君、検算はいい、まずはたくさんのアイデアが欲しい」


 一体何をやっているのか分からないけれど、ともかくそうしろと言うならそうしよう。

 さて、ほかに、どんな展開の仕方があるかな。

 この辺から共通項でも取り出せれば違う形になるかな。

 そんなことを考えながら、書いては消して、また書いては消して、ということをやっていると、すっかり自分がルイスと同じことをしていることに思い当り、そして、ぐしゃぐしゃと塗りつぶしてみたり二重丸で囲ってみたり取り出した項を消してみたり、ということをするのに、なるほど、鉛筆は便利だ、と気付く。自信のないところは薄く下書きしてみたり、これは後で大切そうだ、と思ったら何度もなぞったりぐいぐいと押し付けながら太く強調したり、そういうことが、指先に感情を込めるだけで次々に反映されるのは、ちょっと気持ちがいい。

 僕も、鉛筆を片手に瞬く間に紙を真っ黒にしていくような研究者になれるかな。

 そんな研究者になりたいのかどうかも含めて。

 その後、僕が作れた式は結局は四つだけだった。

 ルイスに見せると、そのうち一つをしげしげと眺め、


「この式、もう一度やってみてくれないか」


 と紙を突き返された。

 この時の僕の感情は、学校でレポートの再提出を食らうのとは全く違うものだった。

 そこに何か新しいものがあるかもしれない、と相手が興味を持ってくれた快感。

 数学なんて、決まったルールの中で押し付けられた問題を解くだけで何も新しい発見なんてない、そんなことを言っていた昔の僕をぶん殴ってやりたい。

 数学のルールに愚直に従うからこそ、そこに今まで見えなかったものが見える、そんなことだってあるんだ。

 僕は突き返された式を検算し、どこにも間違いがないことをもう一度ルイスに示すと、彼はすぐにそれをスコットの前に広げた。


「あったぞ、こいつは、B16の項と同じ形だ」


 どうやら山のような式の中の項の一つ一つに通し番号を振っているようだ。


「いいぞ、食わせてみよう」


 スコットはそう言って、脇の紙の山の中から正確に一枚をつまみだし、新しい紙をその横に置いた。

 そして僕の式の一項を、何やらそれに似た式の横に書いて、山のような項を一つ一つ検算し始める。


「見ろルイス、こっちの項が相殺して、前半はB2項だけが残る」


「と言うことは、右辺の合計は、常に負だ、純粋な反重力だぞこれは」


「ふむ、そのようだ、こいつは困ったことになったぞ、虚数時間運動理論の式から純粋反重力を導いてしまったわい」


 困ったとつぶやくスコットの顔が新しいおもちゃを得た子供のように輝いているのを見て思う。

 ただ式をあてはめただけで、新しい発見が訪れる。

 それが、数学の魅力なんだな。

 数学そのものに謎はなくとも、数学は、世の中の謎を解くもっとも強力な武器になる、ってこと。

 僕も昼食を忘れてそれに続く作業と討論に夕方まで付き合うことになっていた。


***


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ