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魔法と魔人と王女様――情報の魔人と重力の魔法で僕と王女の宇宙攻略(ハック)――  作者: 月立淳水
第六部 魔法と魔人と終焉の奇跡

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第一章 変わるもの、変わらぬもの(1)



魔法と魔人と王女様 第六部 魔法と魔人と終焉の奇跡


■第一章 変わるもの、変わらぬもの


 エミリア王国、惑星ベルナデッダ上空。


 ここに来るのは何度目だろう。


 ジーニー・ルカによる情報防壁であらゆる痕跡を消し。

 ありとあらゆる軍事システムにひそかに侵入して、前のような不意打ちを避けつつ進んだ行程は、それでもわずか一日だった。

 星間運搬システム『カノン』には常に長蛇の列ができていて、小型船、特に反重力推進システム『マジック機関』を搭載する小型船にとっては、カノンの待ち時間が旅程の大半を占めるのだが、僕らは、幾何ニューロン式知能機械ジーニー・ルカによる不正で常にその行列の先頭に並ぶことができる。

 それが、僕らの宇宙船ドルフィン号を宇宙最速にしている。


 船内の平均年齢は三十に近い。

 だけど僕はもちろんぴちぴちの十七歳だし、四人のクラスメイト達もみんな似たようなものだ。

 ただ一人、齢八十のおじいちゃんがいるだけで。

 スコット・マーリン。

 虚数時間超光速運動理論の専門家。平たく言えば、星間航行システムであるカノンの純粋理論研究者。

 とうの昔に絶えたと思われたその純粋理論の探究者は、地球の隣、アンビリアにいた。

 はるか昔、地球を侵略し、独立国を興し、今あるすべての宇宙独立国家の基礎を作り上げたその人物の子孫として。


 半年前の僕なら、彼を、憎むべき敵と認識しただろうと思う。

 地球を――僕を――地上に縫い付けた張本人として。

 けれど、そんな気持ちはもう起こらない。

 彼の先祖がやったことはとても重要なことで、地球はその侵略を受けなければならなかった。

 さもなければ、傲慢な地球の国々は宇宙を永久に植民地として支配し続け。

 もちろん、エミリア王国は存在していない。

 今、隣の操縦席に座っている、エミリア王女、セレーナ・グリゼルダ・グッリェルミネッティも。

 そして、彼女に引き寄せられて集まった、数多の仲間たちとの絆も。

 あまりに強すぎる地球を地球に封じ込めることこそ、宇宙人たちが自立するためにどうしても必要なことだったんだ。


 スコットとの長い会話で、僕はようやくそのことを理解した。

 歴史にはいろんな側面と解釈がある。

 僕はずっとそう思っていたのに、地球に対する侵略の、その別の側面にずっと気づかずにいた。

 やっぱり僕には、歴史の才能は無いのかな。

 ただいずれにせよ、そんな侵略があったことすら、僕らを除くすべての人類にとっては俗説以下の存在であることに変わりはない。

 だけど、それで良いのだと思う。

 宇宙人の自由のために、地球人が屈辱の歴史を反芻し続けなければならない理由は無い。

 すべての定説が真実である必要は無いのだ。

 真実だけを追い求めることは、歴史研究とは言わないのかもしれない。

 いろんな立場を認めて、誰も傷つかない優しい定説を導くことができる唯一の学問。

 あらゆることがルールで定められた厳然たる数学の世界とは、また違うのだ。


 だからセレーナは言ったのだろう、と思う。

 ただひたすらに真実を求める僕は、歴史には向いていない、数学に進むべきだ、と。


 スコットの語った真実は、少なくとも、こんな風に僕の心には大きな衝撃を与えた。

 その彼を、ベルナデッダに連れて行く理由は、そんな歴史の真実を語ってもらうためじゃなく、彼のもう一つの顔、つまり、カノン理論家として、反重力研究者ルイス・ルーサーに会ってもらうため。

 僕らが僕らの王女を勝利に導く最後の武器、マジック爆弾を完成させるために必要な知識を、彼らが持っているはずなのだ。

 武器と言っても、別に大量殺戮をしたいわけじゃない。

 ただ、エミリアの野望を派手にくじき、その後も、王女にエミリアを守る力があると、諸侯や民に示すため。

 この世の誰も理解できない力を示す。

 それは、言ってみれば子供だましのトリックなんだけれど。

 結局、子供が六人集まってできることは、この程度に過ぎず、後はこのトリックをいかに大げさに見せるか、それは、セレーナの手腕にかかっている。

 ともかく今は、そのための道具を得るのが先決で、こうして、宇宙有数の頭脳を宇宙からかき集めてきたわけだ。


 ルイス・ルーサー。

 スコット・マーリン。

 そして、ジーニー・ルカ。完全なるジーニー。


 いよいよ、ドルフィン号は、降下を始める。

 僕、大崎純一と、スコット、友人である毛利玲遠、マービン洋二郎、浦野智美、そして、キアラ・レオナルディを従えたセレーナを乗せて。


***


 エミリア王国摂政にして三公の一人であるウドルフォ・ロッソは、王宮内の、とある屋敷を訪れていた。隣には、長らく彼の陰謀における参謀役を果たしてきたロミルダ・カルリージ女伯爵の姿もある。

 その貴族邸は、王宮の中でもひときわ華美な風体の六階建てのビルディングであり、その主こそ、別の三公の一人、『グリゼルダ公爵』の地位を持つシルヴェストロ・ヴェロネーゼである。彼は、エミリア王女セレーナ・グリゼルダ・グッリェルミネッティの母親である故イレーネ・グリゼルダ・グッリェルミネッティの父親であり、一言でいえば王家の外祖父という絶大な権力を握る一人なのである。

 彼は、訪ねてきた大物を、秘密の応接間に通す。

 窓一つなく、電気製品の一つもない空間。自然の木材と、自然の動物油だけから作られたランタンの照明。徹底的に科学技術を排除したその部屋は、だからこそ、秘密の会談の場としての役割を果たす。

 薄暗い部屋の中、二人の公爵が礼を示して着座し、最後にロミルダが座った。


「陛下に報告して参りました」


 ロッソが口火を切る。


「殿下がロックウェルの手に落ちたこと。その後、身柄確保を通達してきたはずのロックウェルからなんの音沙汰もなきこと。陛下は特に何も示さず、変わりあれば報告せよとのことでございました」


「……ロッソ公、ウドルフォ殿。我が孫のために手を尽くしていただき、感謝する。して、実のところはどのようになっておるか」


 ロッソよりやや年かさのヴェロネーゼは、尊大さを隠そうともせず、ロッソに問う。


「実のところ、本当にわからぬのです、ヴェロネーゼ公。殿下の船は、この宇宙から消えてしまったようで。各国に手を回しておりますが……彼らが殿下を確保したと主張するロックウェル領内のオーツ共和国惑星オウミですが、同じ頃に相当に大きな艦隊戦があったとの情報がございます。先だってのエミリア上空での殿下の手腕を拝見するに……これはおそらく殿下の仕業では、と」


「……つまり、ロックウェルの手に落ちたとの通告はあちら内部の独断か先走りで、セレーナは大艦隊を率いて自らを救出したと、そういうことか」


「陛下も同じ考えでございます」


「む……」


 先日行われた、エミリア上空での艦隊決戦については、ヴェロネーゼも知るところである。もちろん、セレーナを英雄と知らしめたベルナデッダの決戦の顛末も、だ。

 エミリア貴族であれば、その地位を保つために何らかの隠し玉を持つのは常識だ。それは政治的切り札であったり経済的切り札であったり、あるいは、ベルナデッダ公ブラージ家やグリゼルダ公ヴェロネーゼ家のように圧倒的な武力であることもある。セレーナは、どういうわけか、それに匹敵する秘匿戦力を持っているように思われる。その実態がまだ掴めない。時に艦隊の機動能力を無効化したかと思えば、別の時にはその武装を何らかの手段で解体している。もしや本当に独自の秘匿艦隊を持っているのでは、という疑いさえある。完全に姿を消したセレーナの船、という情報は、宇宙の情報網からさえその姿を隠すほどの強大な砦の存在を示唆している。


「そのような力を軽々しくふるってはならぬ……何を考えておるのか、セレーナは」


 ヴェロネーゼの独りごとに近い問いに、


「……一言でいえば、へそを曲げていらっしゃる」


 ロッソはため息をつきながら答える。


「さもあろう。貴殿らのかじ取りは、余りに性急にすぎる。伝統を重んじる王家のただ一人の後継者としての自覚を持ち始めたセレーナには、貴殿らの改革は、ついていけぬであろう。そのように助言はしたと思うが」


 ロッソは、つと視線を外し、頭を抱えるような仕草を見せる。


「ヴェロネーゼ公。貴公はセレーナ殿下と直にお話なされていませぬか」


「……全く。あの子は、どうやら母の実家を頼ることを潔しとせぬようでな」


「……で、ありましょうな。であらば、殿下のお考えには、少し驚くやもしれませぬ。殿下は自由の国の民と交流を持ち、だいぶ、影響を受けなされています。マジック鉱の独占体制は宇宙平和を乱すものであり、緊張はロックウェルとの平和的交渉によって解消されるべきだ、と説教されてしまいました」


「何を馬鹿なことを。そのようなことを本気で」


 ヴェロネーゼもさすがにのけぞるようにして驚きを見せる。


「セレーナも知っておるはずだ。我が王国の命綱であるマジック鉱の取引は、徐々に、徐々に、ロックウェルの支配を許しておる。条約の改正のたびに取引の制限は増やされ、今では地球への輸出は事実上禁止されておるではないか。だからこそ儂も貴殿らの改革に積極的に反対はせなんだ。『外交的努力』によりロックウェルの息のかからぬ外宇宙の同盟国を増やし、拮抗する交渉のカードを持たねばならん。いきなり地球に切り込むそなたらの性急な策こそ危険な試みなれど、ロックウェルとの『平和的な交渉』が何を生むか程度のことは理解しておったはずだ」


「……さようにございます。地球との交渉が不調となれば、ファレン共和国を押さえることは必定の流れでございましたが、殿下には無用に緊張を高めるものと思われたようにて。今必要なのは、まさにその緊張でありますのに」


「何をやっておるのだ……我が孫ながら、情けない」


「失礼ながら、閣下」


 今まで黙っていたロミルダが頭を下げながら、発言の許しを請う。ヴェロネーゼは軽く視線を送るだけで、それを許した。


「殿下のそばにいる、青年のことはご存じで」


「うむ」


 ヴェロネーゼは片手で頭を抱えるようにして肯定する。それも、彼を悩ませている厄介ごとの一つ。


「彼は……ただの友人ですわ。殿下の友人でございます。けれど、あのものが殿下を強く勇気づけていることは事実。それゆえに、理想を……一足飛びの理想を、掴もうと、掴めると、思っていらっしゃる」


「子供の理想とは、常に幼稚なものだ」


「御意に。しかし失礼な言をお許しを。私めには、殿下の思い、分かるような気がいたします。何もかもを存じているわけではありません。ですが、殿下は、地球の友人たちを連れて、宇宙のあちこちで姿を見せていらっしゃるようです。アンビリアでさえ、それらしい噂が聞こえております。宇宙国家発祥の地。地球という伝統と血筋を断ち切った地」


 ロミルダの婉曲的な物言いを、ヴェロネーゼは正しく理解した。


「……では、我が孫は、伝統の破壊者となることを選ぶか」


 ヴェロネーゼが視線をロッソに送ると、ロッソも渋々ながら小さくうなずく。


「それもこれも、あの青年にたぶらかされておる、とは言えぬか?」


「それだけは、否定させていただきます」


 ロミルダは即答した。


「確たる証拠があるわけではありません。女のカン、とでも思ってくだされば幸いでございます。私はあの青年のことで殿下と語り合いました。わずかな言葉の数ではございましたが、親愛や愛情や愛着や友情や……そんな言葉では表せないもので――うまく言葉にできませんわ。ただ、枢機院の多くが想像しているような下世話な関係ではもちろんございませんし、今、閣下たちのご想像のもう少し高尚な友情関係というのとも、何か違うように、私には感じられるのです」


 ロミルダは一度目を閉じ、何か、古い古い何かを思い出すように、天井を仰いだ。ランタンの炎が小さく揺れ、彼女の影を壁に長く伸ばす。


「殿下をとてつもない精神的な高みに導いた……とでも言えば良いのでしょうか。それを妨げていた、自制、自縛を解く鍵となったのがあの青年、そのように思うのです」


挿絵(By みてみん)


「セレーナのそばに必要なものか」


「いいえ。殿下はそれを否定していらっしゃいます。今後も否定なさるでしょう。ですが、それこそが――お互いを信じあう絆、そのように感じるのです」


 ロミルダの言葉に、何か感じることがあったのか、ヴェロネーゼもわずかにこわばった表情筋を緩めた。


「うむ……そなたはまるで」


「ええ、二人を、応援しとうございますわ。これは、一人の女として」


「……かなわぬな。まるで儂には歯が立たぬ」


 それから、ロッソに挑戦的な笑みを向けた。


「もしセレーナが、ウドルフォ殿を討つとして旗を上げれば儂もそのもとに駆け付けようと思っておったが、そういうことにはならぬようであるな」


「はい、ヴェロネーゼ公。わたくしも、いずれ殿下がヴェロネーゼ公を率いブラージ公に利害を説き、わたくしを討つ兵を挙げるものと思ってございましたが。そのために、ベルナデッダの防空艦隊も手懐けていらっしゃるものとばかり。ゆえに、ファレン遠征でもベルナデッダの艦隊には手を付けておりませぬ」


「くっく、ロッソ殿、そなたに自殺願望があったとはな」


 ヴェロネーゼは、愉快そうに笑った。


「いやいや、ファレンで旗色を翻されてはたまりませんからな」


 ロッソも愉快そうに笑うが、いざセレーナが立つというとき、彼女に最大の戦力を残してやろうとした彼の裏の意図は、もうすっかりヴェロネーゼ公にはばれてしまっているだろう。だからあけすけに、笑いながらこんなことを語るのだ。


「……ヴェロネーゼ公。王国は、老いたのです。老いて、老獪となり、何もかもを知り尽くして、最善の手を打つ。最善しか見えなくなってしまいました。思えば、殿下があの青年を異性として好いていると断じたのも、その老いが原因だったでしょう。そのように思っていますとな、いっそ、殿下に討たれる方が良いのではないかと感じることもございます」


 それは、エミリア国王、アルフォンソ・エミリオ・グッリェルミネッティが、いつか娘に断罪される未来を夢想するのに、よく似た願望とも言えた。


「……よくわかった。では、当家も、兵を動かすのはやめよう。セレーナがロックウェルに奪われたというのが本当なら今すぐにでもヴェロネーゼ家グリゼルダ軍二十一個行動単位(ユニット)全軍を以てエディンバラを焦土としてやろうと思っておったが、それも老いによる妄動であろう。それに聞いた様子では、おそらくセレーナは大艦隊戦を演じロックウェルに大恥をかかせて逃亡、ゆえにロックウェルも次の手を打てておらぬ、ということだの。愉快な話じゃ」


 結局のところ、ロッソがここを訪ねたのは、セレーナがロックウェルの手に落ちたと聞いて怒り狂うヴェロネーゼ家を抑えるためであった。そのことを、当のヴェロネーゼもよく理解していた。


「御意」


「そしてその話が本当であれば……セレーナは何か尋常でない手札を持っておるの。もはや老いたる儂らには思いもつかぬ、恐るべき()だ」


「彼の青年と出会ってより、殿下の周りでは立て続けに奇跡が――魔法が起きておりまする。カルリージ伯の言に重ねるようで恐縮なれど、あの青年こそカギであろうと――」


「宇宙を統べる魔王であるか」


 ロッソは、ゆっくりとうなずく。


「……ゆえにこそ、我らは、それに立ちはだからねばなりませぬ。弱き人間として抗うも我らが務め」


「分かった。……カルリージ卿であったか。我が孫のこと、頼む」


「御意」


 ロミルダは深々と頭を下げる。

 やがて、いつの間にか公爵と伯爵は姿を消し、ヴェロネーゼは一人残されていた。


「……イレーネ、お前が生んだのは、一人の女児ではなく、新しい――」


 その小さなつぶやきは、誰もいない部屋に反響して消えた。


***


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