第七章 探索の終わり
■第七章 探索の終わり
近くの町の中に住んでいるスコットの娘(と言ってももう六十に近い)は、彼の頼みを二つ返事で了承した。聞けば、もはや自らが家系の末だろうと思っていたスコット自身が、遺産を狙う似非親族などなどの面倒事から守るためにあえて彼女を遠ざけていたのだと言う。だから、スコットに頼まれてペンギンの世話を引き受けることは、彼女にとっては勘当を解かれたような喜びとなったようだった。
その直後に、二度と戻らぬ旅だろう、と告げた彼に、彼女は大粒の涙をとめどなく流したが、僕らが必ず無事に連れて帰ります、と約束するに至ってようやく涙の流量を絞ることができた。
何度も引き留めてはあれやこれやの心配事を言いつける娘を最後にはスコットが振り切って、手を振る彼女を背にタラップが上がった。
こんな別れの場面を見ると、独りで百光年の彼方に移住するなんてことは、やっぱり無理かもしれないな、なんて思う。
スコットを乗せ、彼が旅の準備として用意した大きくて重い箱を五人がかりでドルフィン号の貨物室に積み込んだ。
ちなみにキアラは、セレーナ様、お別れです、とペンギンとともに残ろうとしたので、セレーナが首根っこを捕まえてドルフィン号に引きずり込んだ。
小さな風切音とともに、ドルフィン号はアンビリアの大気を突き抜けて宇宙に飛び立った。
無重力に慣れないスコットのために世話を焼くつもりだったが、彼は難なく無重力をものにした。
もうあと半日か一日もすれば、人類の歴史上初めての邂逅が起こる。
反重力理論の大家と虚数時間超光速運動理論の最後の研究者。
そしてそこに、『完全なジーニー』が加わる。
これだけのものが一か所に集まることは、人類が滅びるまでの間に二度と起こらないだろう、と思う。
それだけのものを集める、セレーナという人の力。彼女の勇気と行動力。優しさと強さ。
その末席に、僕がちょこんと座っていることには、あまり驚かない。
彼女が必要としたから、そこにある。
そうあれかし、と彼女が欲せば、ただそこにあるのだ。
それだけのこと。
尊敬するセレーナには、そうあってほしい。ずっと。
だから、最後にもう一つ、片付けなければならないことがある。
長く長く悩むうちに、『それ』は、疑念ではなく確信となって僕の心を揺さぶるようになっている。
だからこそ。
僕の騎士としての最後の仕事は、それを斬り捨てること。
もっとも尊い王女の永遠の尊厳を守ること。
それを切り捨てたとき、僕はきっと彼女の騎士ではなく――
無重力に慣れて操縦室の中をくるくると遊ぶスコットと、それをからかって笑うセレーナを見る。
なぜか、胸が詰まるような感覚を覚える。
たぶん、僕らはすべてを手に入れたのに。
宇宙を相手に、勝利が得られるに違いないのに。
敗北の予感だろうか?
もっともっと強大な敵の予感だろうか?
そういうものとは、少し違う。
けれど、これ以上進んではいけないと、心の中で誰かがささやいているような。
捨て去ったはずの臆病風なのかもしれない。
そう、僕は一人でここにいるんじゃない。
みんなに助けられてこうしている。
捨て去ってなんてないんだ。
僕一人いれば、そりゃ、臆病の虫も顔を出すだろう。
背中を押してもらおう。
進みたくないなんて言う僕の弱虫を、みんなに叩き潰してもらおう。
無邪気に無重力を楽しむみんなの輪に、僕も飛び込んでいった。
●●● 魔法と魔人と王女様 第五編 魔法と魔人と空穿つ砲 完 ●●●




