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魔法と魔人と王女様――情報の魔人と重力の魔法で僕と王女の宇宙攻略(ハック)――  作者: 月立淳水
第五部 魔法と魔人と宙穿つ砲

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第五章 その壁の、内へ(3)


 研究所をアンドリューとともに出た。


 せっかくだから、僕らの船と、仲間たちを見たい、と言うので、徒歩で並んで駐機場に向かうことにした。

 官庁街に程近い駐機場は、政府公用優先だが、これまたジーニー・ルカが悪さをして船を泊めている。

 街明かりもほとんど届かない真っ暗な駐機場で、真っ白な機体はわずかな光を受けて輝いていた。

 アンドリューは、あれが僕らの船だと聞いた瞬間に立ち止まって、はあ、と大きく唸った。


「あんな立派な船だなんて思わなかったよ、もっと小さなものかと」


「あれでも宇宙船としては一番小さい方なんですよ?」


「あれで? いやはや。ここで見せてもらわなければ僕はずっと宇宙船というものを勘違いしているところだった」


 再び歩き始めながら彼は言う。

 残りの距離が三十メートルを切った頃、


「……ドルフィン……ああ、なるほど、あの海生哺乳類か。確かに良く似ている。知っているかい? オウミは、宇宙でももっともたくさんの種類の海生生物が地球から持ち込まれた惑星なんだよ」


 僕は、へえ、と小さく相槌を打った。

 今でこそ技術史に興味を持ちつつあるけれど、やっぱり彼はあらゆる歴史に興味を持っていて、その脳内には有り余る知識と記憶がある。

 もし可能なら、彼と一緒に、なぜオウミがそれだけの海生生物を『移民させた』のか、そんな謎を追う研究をしてもいいかもしれない、なんてことが脳裏に浮かぶ。

 そんな彼が、気になる、と言うアンビリアの物好きの話。

 一流の歴史家センサーに引っかかるうわさ。

 何かあるに違いない、と思う。

 おそらくセレーナの思考オーダーだろう、タラップが下り、ジーニー・ルカに促されて、四人が出てくる。

 初対面の四人と一人は、お互いに自己紹介して、四通りの組み合わせの握手を交わした。


「そうか、学校のクラスメイトとセレーナさんの昔馴染みなのか。こんな子供たちが、なんて言うのは失礼なんだろうね。歴史の上では、十代の英雄が偉業をなした例はたくさんある。君たちがきっとそうなんだね」


「英雄だって、えへへへ」


 浦野が謙遜もせずに笑いながら毛利の肩を小突く。


「アンドリュー博士もその英雄の一味なんですよ」


「僕は博士じゃないなあ、何か敬称を付けてくれるなら、先生、かな」


 マービンの言葉にアンドリューが答えて照れているのを見ながら、確かに、僕らをいつも導いてきた先生と呼ぶのがしっくりくるな、なんていまさらながらに思う。


「どうです、先生、一緒に行きませんか」


 余計なことを。


「ありがとうレオン君、だけど、僕は我が主に、この惑星の砦を守れと命じられていてね」


「ははっ、先生も同列の騎士なんですね」


「そういうこと」


 それから彼は改めてドルフィン号をぐるりと見回した。


「綺麗な船だ。だけど、それだけに目立つだろうね」


「きちんと情報操作で隠していますよ」


「人の目まではふさげないから」


 そう言いながら、彼は、二歩、下がった。


「僕は、お別れを言っておこうと思っていた」


 誰もが、えっ、と小さくつぶやいた。


「君たちがアンビリアで首尾よく目的の人を見つけられれば、もうここには用はないだろう?」


「それは……そうですが」


「だったら、これからは不用意にロックウェル領内に着陸すべきじゃない。ロックウェルは血眼になってセレーナさんを探している。手配書が毎日更新されている。エミリアに姿を現したという情報も翌日には僕さえ知ることになったんだよ。この船は、地上ではあまりに目立つ」


「それでも、僕らは見つけたものをアンドリューさんに……」


「その気持ちはありがたいけれど」


 と、彼はため息をつく。


「君たちが捕まったら元も子もない。二度とここに来ないつもりで、旅立って欲しい」


 その言葉に僕はためらっていたが、先にセレーナが一歩前に出て、彼に右手を差し出した。


「分かりました。アンドリューさんの心配はもっともです。これでお別れにしましょう」


 それをつかみ返し、アンドリューはうなずく。


「何もかも終わらせたら、またこいつを連れてきます。それなら、良いでしょう?」


 セレーナはあごで僕を指し示しながら、


「どうせ、また会いに来たいと駄々をこねるでしょうから」


 その言葉にアンドリューは小さく噴き出した。


「そうだね、そのときに、また」


 勝手に二人の間で話がまとまりつつあるけれど。

 アンドリューの心配ももっともだし、僕自身、ジーニー・ルカに無限の力があるとは思っていない。きっと、ジーニー・ルカを一番信用していないのが、僕だと思う。

 彼の力に頼ってロックウェル領内を飛び回るのは、危ないと思う気持ちがある。

 だから、アンドリューの言うことは正しいんだと思う。

 そう理解していても、彼に別れを告げることに拒否感を感じる僕がいる。

 何もかも片付いたときに、僕はきっと、普通の高校生に戻ることになる。僕が宇宙を自在に飛びまわれるのは、僕のそばに、ドルフィン号とジーニー・ルカとセレーナという人があるから、それだけの理由で。


 すべてが終わる日は、きっと、僕が、魔法と魔人と王女様を失くす日。


 彼との別れが永遠のものかもしれない、と思うと、さようならが、言えなかった。

 浦野は簡潔にお礼を口にし、マービンは謝辞と惜別の言葉を並べ、毛利は彼よりも背が高いアンドリューを思い切りハグし、キアラは丁寧に頭を下げ、別れを告げた。

 だけど僕は、無言の握手だけだった。

 アンドリューも僕の気持ちを察してくれたのかもしれない。

 まったく同じ無言で、でも、僕の目をしっかりと見つめて、手に力を込めてくれた。

 その手は初めて感じるほどに熱かった。

 タラップが上がり、最後までタラップのそばに残っていた僕の視界からアンドリューの姿が消えた。

 戻ってシートベルトを締めなさい! と怒鳴るセレーナの声が遠くから聞こえた。


***


 オウミの表面が眼下で徐々に縮んでいった。

 まだ、気持ちはすっきりとしないが、それでも、僕を鼓舞して送り出してくれたアンドリューには、心の中でもう一度お礼を言った。

 そうして、ようやく背もたれに全身を横たえて大きく息をついたときだった。


 船全体が殴られたような衝撃。


 本来、マジック推進中であれば、多少の重力、加速減速は、マジックの泡の中では感じることがなくなる。

 ――のだから、この衝撃は、この船に何かが直接ぶつかったとしか思えなかった。

 ベルトをきちんと締めていなかった毛利はほとんど空中に放り出されている。衝撃のあった方向を背もたれにしていた浦野は後頭部をぶつけて涙目でうめいている。

 セレーナがすぐに、何があったのか調べるようジーニー・ルカに命じている。

 まもなく、ジーニー・ルカの回答があった。


「判明しました。マジック推進装置に過負荷がかかり、異常加速が発生しました。再調整のために十七分間、マジック機関を停止します」


 その言葉を聞いて、すぐに窓の外を見る。

 慣性運動は少なくとも惑星に落下する方向ではないから、しばらくは大丈夫だろう。

 こんなときに故障なんて。

 ずいぶん酷使してきた自覚はあるのだけれど。


「まいったわね、こんなこと初めてよ」


「ジーニーだけじゃなく、私たちもチェックしましょう。マニュアルはありますか?」


 簡易席の中では唯一無事だったマービンがすぐに席を立って、操縦席のパネルを操作し始める。まもなくジーニー・ルカが、彼の個人端末にマニュアルを転送したと告げ、彼はそれを見ながら何かを確認している。

 座って待っているのも居心地が悪く、キャビンを確認してくる、と言い残して、操縦室を出る。

 通路はどこにも異常無し。

 四つのキャビンを順々に確認したが、壁にかけていた造花が外れて空中を漂っていた以外の異常は見当たらなかった。

 キャビンの手前の洗面室にも異常無し。その向かいのパントリー室でも、いくつかの食料パックが位置をずらしている以外の被害は無さそうだった。キャビンより奥の資材倉庫までは確認しようとも思わなかった。

 チェックを終えて操縦室に戻ると、混乱から回復した毛利、浦野も含めた全員が、操縦席前方のパネルにしがみついていた。


「どうだった?」


 僕が聞くと、


「船は問題ありません、しかし、後方から、四機の小型宇宙船が近づいています」


 とマービンが答えた。


「……問題なのかい?」


「ただ通り過ぎるだけなら問題じゃないのよ、ただ、どう考えてもまっすぐこの船に向かってるの」


 セレーナが困惑の表情で振り返る。


「広い宇宙でこれだけ近距離に四機もの宇宙船。十分に異常です」


 マービンが付け加える。

 その異常性を理解した僕も、パネルに駆け寄る。

 水平レーダーモニターには、確かに、この船の後方に、四つの小さな点が移っている。


挿絵(By みてみん)


「通信は試みた?」


「だめだった。ジーニー・ルカにも」


「セレーナ王女のおっしゃるとおりです。後方の船には、接続可能な無線リンクがございません」


 完全に無線をオフにしてこっそり忍び寄る宇宙船だなんて。

 まるで、僕らを捕らえるために。


 ――まるでどころじゃない。


 間違いないだろう。

 アンドリューの不安は、こんなにも早く現実になったのだ。


「船を後ろに向けて。せめて肉眼で確認しよう」


 セレーナの視界に入れれば、もしかすると無敵の全知機能が何かを知ることができるかもしれない。冷蔵庫のブロックベーコンのように。僕はひっそりとそう考えてオーダーをしたのだが、


「申し訳ありません、マジック機関の調整が終わるまで回頭は不可能です」


 ジーニー・ルカは、無慈悲に答えた。

 言われてみればその通りだ。マジック船は、加減速だけでなく回頭もマジック推進に依っている。マジック機関が故障すればそれさえできない。

 それにしても、どうしてこんな最悪のタイミングで故障なんて。


「おい、あと何分で回復するんだ」


 毛利があせりを隠そうともせずに言うと、


「あと七分お待ちください」


 とジーニー・ルカは答える。

 レーダー上の後ろの船の速度から言って、たぶん化学推進だろう。あまり相対速度を大きくすると僕らを捕らえるための減速が間に合わないから、ゆっくりと近づいている。この分なら、捕まるまで十分な時間はある。マジック機関が回復しさえすれば一瞬で逃げ切れるだろう。


「回復し次第、最大加速で振り切ろう。多少衝撃があるかもしれないから、みんな席について待機」


 僕の言葉に全員がすぐに席に戻った。

 セレーナは相変わらず顔色が悪い。


「大丈夫、この船なら」


「……ええ。分かってるわ。でも……」


 彼女の考えていることは分かっている。

 やっぱり僕らの立場はとても危険なものだということが再確認されて。

 今回の故障がもうちょっと重大な場面で起こったら、僕らは捕まり、ただではすまないだろうということ。

 彼女は、彼女自身の身の心配よりも、やっぱり、僕らの心配をしているのだ。

 マジック機関の唸りが消えた船内はあまりに静かで、誰かが身じろぎする音にどきりとさせられるくらいだった。

 時間はなかなか過ぎてくれない。

 遠目に見るパネルには、じりじりと距離を縮めてくる四つの影。


 でも大丈夫。あと三分。


 二分。


 一分。


 十分な距離がある。

 逃げ切れる。


「調整完了、マジック機関、再起動します」


 ジーニー・ルカの声。

 間に合った。


「全速で発進」


 セレーナがすぐに命じる。

 船は加速した。


 しかし、それは一瞬だった。


 すぐにマジック機関は異常な音を立てて唸りを止めた。

 僕らの体にはさっきと同じ衝撃が襲ってきた。


「先ほどと同じ症状です。しばらくお待ちください」


 どうしたことだ。

 完全に故障してしまったのだろうか。

 しかし、マービンのチェックでは問題がなかったらしいから、何かおかしなことが起こっているのかもしれない。

 チェックしようと僕は席を立ち、パネルの前に進んだ。

 そのときパネルに写っていたレーダーモニターの中におかしなものを見た。

 近づいてくる四つの影、それぞれに、これまでの飛跡が薄い色で表示されている。

 しかしその一つから、細長い飛跡が伸びていて、ドルフィン号と船団の間で綺麗に途切れている。

 何かが飛び出して、ここで消えている。

 パネルを操作して飛跡の時刻推移を表示させる。


 ……間違いない。

 飛跡が消えた時間は、マジック機関の停止時間と一致している。

 何かが飛んできて弾けて消え、同時に停止するマジック機関。


 ――ああ、気づいてしまった。


「……大崎君、どうしたのう?」


 僕の青い顔が見える側に座っていた浦野が、声をかけてきた。

 そんなに顔色が変わっていただろうか。

 でも、変わらざるを得ない。


「……やられた」


 小さくつぶやくしかなかった。


「な、なにが?」


 すぐさま応じる彼女に、なんと説明したものだろう。

 けれども、隠しても仕方がない。

 僕らは、敗北したんだ。


「ルイス博士の言った、マジック船の唯一の弱点。……反重力フラッシュボムだ」


 それを、みんなは覚えているだろうか。

 けれども、少なくともセレーナは、完全に予想通りの反応を示した。


「……宇宙艦隊が、いるのね」


「そうなるね」


 そう、いるのだ。

 完全に、戦闘行動モードで。

 本気で姿を隠した宇宙戦艦が、たぶん、僕らの後方に。

 すべての無線リンクを切って。

 軍用レーダーからも姿を隠すステルス性能を全開にして。

 レーダーでも情報学的にも、もちろん目視からも完全に姿を消した宇宙艦隊。

 それは、マジック船を無力化できるのみならず、全知の力を持つジーニーにとってさえ、天敵だ。

 僕らが持っていたたった二つの武器は、こうして、あっさりと破られた。


***


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