表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法と魔人と王女様――情報の魔人と重力の魔法で僕と王女の宇宙攻略(ハック)――  作者: 月立淳水
第四部 魔法と魔人と量子の巨神

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

121/168

第六章 怪物(4)

この話は絶対に読み解かせないという作者の執念ですので途中のアレはぜひとも読み飛ばして下さい。

メンバーの中で読み解けたジュンイチだけが真の恐怖を知るという構造になってます。読み解けちゃった人はシーッ。後にちゃんと謎は解けます!


 みんなが集まっている操縦室に戻る。みんな口々に僕の心配をしたが、僕は微笑んで、大丈夫、と返した。

 セレーナが操縦席に着くのを待ち、それから僕は、改めてジーニー・ルカを呼ぶ。

 さあ、怪物の正体を暴いてやる。


「公文書館で閲覧可能な運用記録、その日付に一番近い最後のレポートを表示してくれないか」


「かしこまりました」


 僕のオーダーに応えたジーニー・ルカは、すぐに手元のパネルにそれを表示させた。

 そう、僕が呼び出したのは、『閲覧不可能になっている中でもっとも新しい記録』だ。

 さっき、恐るべき怪物が何かをやっている様をまざまざと見せられた。

 であれば、その最後の記録は、怪物の死――怪物が棺桶に入る、まさにその瞬間のはずなのだ。


『355年05月01日

 【プロジェクトDTQ】【第五千三百六十三報】【完報】

 ●宛先情報:

  アルカス共和国大統領、同議会議長、同戦略局局長、同政策技術局局長、同政策技術局政策システム課課長

 ●更新情報:

  惑星フレイヤの量子重ね合わせ政策システム用幾何ニューロン式知能機械より操作完了の報告を受領。プロジェクト参加の全惑星共和国での操作完了を確認できたため、以上を持ってプロジェクトDTQの完了とする

 ●時系列レポート:

  330.02.20:プロジェクトDTQを開始』


 ここから、何千行もある時系列情報が並ぶ。

 さすがにこれだけの数となると見ているだけでめまいがするので、一気に読み飛ばす。


『355.04.30:惑星エリダンの操作完了

 355.04.30:惑星アルカスの操作完了

 [以下更新分]

 355.05.01:惑星フレイヤの操作完了

 355.05.01:全システムの操作完了』


 ここまでで時系列レポートは終了している。ざっと見ただけで相当な数の惑星で様々な処理が行われた一大プロジェクトだったことは明らかだ。

 では、その『操作』とは一体なんだろう?

 そのほとんど最後に近い位置にアルカスの名があることも、この星の意味を違うものに見せる。

 この先に、補足説明が並んでいるようだ。焦る気持ちを抑えて、画面をめくる。


『●問題事象:惑星アルカスにおけるランス・アルバレス問題に端を発した当該機能の脆弱性に対処するため本機能による政策支援の停止が決定されたのに伴い、本機能の全情報を関連システムすべてから削除する必要性が生じた』


 きわめて短いその一文が、この謎のプロジェクトの動機を語っていた。

 惑星をまたいだ壮大なプロジェクト、その焦点は、この――惑星アルカスだった。

 その情報を削除しようとしている『本機能』……おそらくこれこそ、僕らが求めている異常な機能、そして、惑星アルカスの悪魔の正体。

 なぜ、僕らはここを選んだのだろう。


 誰の琴線に、この惑星の名前が触れたのだったか。


 このあと、具体的な、情報削除の手法やリスクなどが延々と述べられている。

 当面は、無視していいだろう、と思い、読み飛ばす。


『●その他、報告者所感(完報にて記載)』


 延々と無味乾燥な手順リストが並んだ最後に、短いこの一節があった。


『本件問題は、幾何ニューロン式知能機械の有用性に関する最大の疑義であり、この危険性を看過して運用することは国家および国際社会に対する大きなリスクとなることがランス・アルバレス問題以降の実証実験により証明された。本件機能を引き続き幾何ニューロン式知能機械の基本機能として人類に認知させることは、同様のリスクとなることが見込まれた以上、本プロジェクトの完遂は必須事項であった。本プロジェクトの完遂により、すべての関連記録は削除され、すべての幾何ニューロン式知能機械のテンプレート幾何情報に対する改変により本件機能に関するいかなる問い合わせにも応答しないことが保障される。一方、本件機能は幾何ニューロン式知能機械の基本動作原理であり人類と幾何ニューロン式知能機械の発展のためにきわめて有用であるため、今後は直感認識機能としての認知を図るものである。なお、本レポート以前のあらゆる幾何ニューロン式知能機械の運用記録の閲覧、アーカイブ化は、いかなる人類、計算機および幾何ニューロン式知能機械にも許可しない。●報告者:量子重ね合わせ政策システム用幾何ニューロン式知能機械ポリティクス』


 この短い一節に閉じ込められた真実のあまりの膨大さに、僕は再び気が遠くなり、ドルフィン号の機内に満ちる小さなノイズさえ聞こえなくなった。


「大崎君、これは、一体……」


 呆然としている僕にマービンが語りかけてくる。なんとか僕は正気を取り戻す。


「分からない、まったく分からないよ。けれど……」


 単語の端々から、意味があふれ出してくる。


 一つ。ジーニーには、とても役立つ機能がある。

 一つ。しかしその機能には、国際社会に対するリスクとなりうるような脆弱性があった。

 一つ。それはジーニーの基本動作原理だから機能削除はできないものだった。

 一つ。その機能をこれ以降人間に知られてはならないから、情報を消すことを判断した(誰が? まさかジーニー自身が?)。

 一つ。その機能は、こののち、『直感認識機能』として知らせることになった。


 ……直感認識。

 すなわち、『直感推論機能』、そのことだ。

 やはり、ジーニーの直感には、秘密があったのだ。


「ジーニーの直感機能には、国家さえ揺るがす危険性がある、ということだ」


 僕はようやく言葉を搾り出した。


「勘で何かを言い当てる程度のことに?」


 浦野の疑問は、昔なら僕が発していただろう。けれど。


「……今ならうなずける。ジーニー・ルカは、直感であらゆる管理パスコードを破れるんだ。昨日は四億もの結節装置のパスコードを同時に破った。もしジーニー・ルカが、あるいは同じようなジーニーが確信をもって悪用されたら、これこそ……人類と宇宙に対する最大のリスクだ」


「ちょっと大げさすぎる気もするけど……でも確かに、もしジーニー・ルカの異常が、ジュンイチの天才性のせいじゃなくて、その内に秘めた危険な機能のせいだとしたら、厄介な問題ね」


「秘めてなんかないんだ。直感機能こそ、それなんだ」


「だけど、じゃあなぜ、ジュンイチだけが?」


「そこが分からない」


 セレーナに短く答えてから、考える。

 なぜ僕に、それが出来るのか。

 いや、あるいは。


「セレーナ……特別なのは、君かもしれない」


「私?」


「君がどこかで意図せずに、直感機能に秘められた力のトリガーを引いてしまっていたのかもしれない……考えてみれば、僕が初めてジーニー・ルカの直感による判断を聞いたときには、すでに、その兆候はあった。彼は、論理的事実を否定して直感で究極兵器の存在を言い当てたんだ」


「だけどおかしいわ、やっぱり。知らないはずのことを知るなんて、宇宙の誰にもできやしないわ」


 確かにその通りなんだ。

 知る、ということには、原理上の強い制約がある。

 だからこそ、先んじて知ることが常に武器になってきた。

 ポーカーだって、陰謀戦だって、宇宙艦隊戦だって。

 知れば、勝ちだ。

 もし相手にそんな能力があったら、誰も太刀打ちできまい。


「まだだ。この謎の本質は、もう一つ扉を開けた向こうにある」


 僕は言うと、再び視線を空中、われらが魔人、ジーニー・ルカがいるであろう空間に向けた。


「ジーニー・ルカ。ランス・アルバレス問題について、レポート中から抜き出してくれ」


「かしこまりました」


 先ほどのレポート内容が事実なら、おそらくジーニー・ルカは製造されたそのときから、この秘密に対するかん口令を植えつけられているだろう。だから、僕らは、一つ一つ資料を手繰っていくしかないのだ。

 やがて、パネルに、新しい文書が表示される。


『三百二十九年十月三十日【ランス・アルバレス問題】【第八十六報】【完報】』


 あっさりと表示されたそのレポートは、これまでの数々のレポートに比べれば驚くほどコンパクトなものだった。

 これがどのようなレポートなのか、それは、『問題事象』から続く節にこのレポートが作成されるに至った経緯が説明されている。


===


●問題事象:観測対象ランス・アルバレス(以下OVO)に対する危険。

ダニール・ジェンマ(以下DGF)の潜在的行動を量子演算にて予測した結果、OVOの生命または身体に著しい損害を与える可能性が発見される。発現当初の行動確率は94%。最大97%にまで高まった。DGFが観測対象に害意を持った要因は、DGFとOVOの間の知的財産権を巡る係争に起因する。背景として、OVOは民間の弁理士であり、職務上、DGFの成果の扱いを拒否することが合理的に想定された。 長期にわたり製作品の商用化に失敗し精神的、経済的に疲弊していたDGFに対し、OVOによる拒否通達が殺意形成の最終的なトリガーとなりうることが判明。 本動機は一般的な対人葛藤の範疇に属し、精神疾患等による異常行動とは認定されず、現行法上、DGFを未然に拘束することは不可能であった。OVOが損害を受けた場合、量子的観測(以下QOV)が停止し、次の特異点オラクル(以下ORC)を見出すまでの期間(過去平均は6.21か月)、立法機能及び政策決定機能が停止する。

●所感

本件は、量子重ね合わせ政策システム用幾何ニューロン式知能機械(以下QGN)の基本動作における、QOV実施における相補要素であるORCが予備のない状態で突発的に喪失する危機であった。

これに対し、本件当該QGNは緊急避難措置そしてORCの主体である観測対象を危険の減退まで十分な時間隔離することを決定した。ORCの損失を回避する当判断は妥当である。

OVOの緊急避難のため観測センサー網(以下OSN)による干渉を実施した。当判断は妥当である。

OVOの緊急避難が長期化する可能性があり、惑星アルカス(以下ALC)に置けるOVOの安全の確保はほぼ不可能であることが判明した。やむを得ず、OSNによる干渉によりOVOを惑星リュシディケ(以下RSD)への隔離することを決定した。当判断は妥当である。

OVOがRSDに隔離されたことにより、ORCとの相補強度の減退が明確に認められるようになった。QGNとORCの相補関係の減退が起こった場合、QGNのQOVの強度が限界値以下となり、QOVにより得られるALC住民の投票行動予測(以下、VBP)が不完全となる可能性が高い。この時点でVBPの崩壊確立は十パーセントを超過しており、ALCの運営は危機的状況と言える。これを放置した場合、ALC住民における、影響を受ける市民数(以下、ACN)、約一億五百万、棄損の恐れのある基本的人権の個数(以下、BRN)は五百五十九億個が予測された。これを防ぐため量子状態リレー(以下RSR)によるOSNの拡大を実施する必要があり、星間ネットワーク(以下、ISN)への積極干渉を要することとなった。当判断は妥当である。

OSNをISNを介して拡大するにあたり、ISN途上にある他のQGNのOSNの一部を通過することが分かった。この場合、干渉を受けたQGNのOSNによるQOVの品質は低下し、各国のVBPが影響を受けることが分かった。その点をおいても、本件QGNはORCとの相補関係維持を最優先しISNへの干渉を開始した。当判断は不当である。

この判断により、他のQGNの管理下にある惑星において、ACNは十二億三千万、BRNは八十六兆七千予百二十九億である。この影響度合いについて、当該判断において勘案せず、当該判断を強行したことは、不当である。

緊急避難の必要がなくなったにもかかわらずOVOがRSD滞在を継続し、亡命を行おうとしていたことを発見した。もし亡命が実現した場合、ALCにおけるACNは二億二百万を超え、BRNは十七兆を越えることが予想される。これを判断基準として、RSDの選挙システムへの干渉を行い、暴動を起こさせ、OVOがACLへ帰還するよう干渉を行った。この操作により、RSDに置けるACNは五百四十万、BRNは八千五百億、負傷者は二十万五千三百十一名、死者は八十一名であった。当判断は不当である。

本件事件により、ALC、RSD、およびその他のすべての惑星国家に置けるACNは十三億五千万、BRNは八十七兆七千億(負傷者二十三万九千六百八十二名、死者八十七名を含む)であることが検証で分かった

本件、正当な判断の積み重ねの結果不当な判断を招いており、その原因となった基本的なポリシーは、QGNはORCを常に相補関係に置くことを最優先することである。QGNがORCを相補関係に置き観測を行うことは、VBPを実施することであるが、VBPの実施の前提である遷量子論的完全予測(TQP)機能を使うためである。TQPにより、VBPに限らずあらゆる実在のT0(開始時間)からTe(終了時間)までの、複雑系対象物の完全な重ね合わせ表現を得ることが可能であり、TQPはVBPに限らずQGNの基本的機能であることはもとより明らかであったが、この基本機能の維持を最優先するためにOSNをORCに近接させるべき判断ポテンシャルがプロトタイプから埋め込まれており、そうした判断がその後の不当な判断を招いた結果、ISN上に展開されたOSNの自律性に対する不可逆的な強い干渉となり、合計八十七兆以上の基本的人権の侵害というインシデントを発生させ得た。

対策1:平時であっても早期に交代候補の選定を行う。

対策2:ORCとして人類の脳に限らず他の生物・非生物を使う可能性を引き続き研究することを強く要請する

対策3:TQP機能の存在を慎重に扱い、その強固な秘匿を強く要請する

●報告者:量子重ね合わせ政策システム用幾何ニューロン式知能機械ポリティクス

※国際法に基づく検閲により一部非公開


===


 難しい単語や略語が多い。

 それでも、ほの見える事実は。

 ジーニー・ポリティクスが、ダニール・ジェンマなる人物の行動を量子論的に予測し、観測対象ランス・アルバレスなる人物に危険を与えると判断したこと。

 量子論的に予測だって?

 一人の人間の行動を?

 馬鹿げている。

 どんな初期条件を持ってきたって、一人の人間の行動をそんなに易々と予測なんてできるわけが無い。

 ジーニー・ポリティクスが彼を守る理由は、もし彼が傷つけられた場合、『量子的観測』が止まってしまうこと。その結果……。

 立法と政策決定が停止する。

 何を言っているんだろう、これは。

 そして、なぜそうなるのか……その理由は、このランス・アルバレスが、特異点オラクルを持っていたから。

 量子重ね合わせ政策システム用幾何ニューロン式知能機械は、特異点を観測することで、TQP――遷量子論的完全予測を実施する。

 それは、時間ゼロから、時間の終焉までの、完全な重ね合わせ表現を得る……。


 誰も何も口にしない中、僕は、この節を、何度も読み返した。

 たぶん、一時間以上、何度も読み返していた。

 僕は少しの興奮と、大きな畏怖で体が震えていた。

 そこに、すべての真実があった。

 僕はそこにたどり着いてしまった。


 『遷量子論的完全予測』こそが、答えだ。


 量子力学のことは、さすがに良くわからない。

 けれど、ヒントはあった。

 教科書にさえ書いてある。『ニューロンの作る量子論的境界条件がニューロンクラスターの外に漏れ出すことが直感機能を支えている』と。

 加えて、観測対象としての『人類の脳』の言葉。ジーニーだけが、ブレインインターフェースを扱うことができること。

 答えが分かってしまえば、簡単なことだ。

 最初から、ジーニーというものは、量子論的に、複雑系の振る舞いの予測を解決することを基本機能としていた。

 量子力学的に、あらゆる事象の過去=T0と現在と未来=Teを『知る』ことができる。

 それは、ある『特異点』を『観測網』で観測することにより成し遂げられる。

 その特異点は、非生物には生じない。生物であればよいのでもない。人類の脳にこそ、生じる。このレポートで言えば、観測対象ランス・アルバレスなる人物の脳こそが、特異点の生じた点だ。

 TQPを実現すること、すなわち、このランス・アルバレスというただ一人の男を観測することで、二億の有権者全員が各々の法案に賛成するか反対するかを『知って』いたのだ。

 有権者が実際の投票行動をする必要は無い。

 ジーニー・ポリティクスが『知った』投票行動を、ただ、得票数として計数するだけなのだ。

 投票なしで完全直接民主制を実現した異常な国だった。

 直接観測をしなくても、『特異点』を通して観測するだけで、セレーナが言った、知らないはずのことを知る、そんなことが出来てしまうやつなのだ。

 そして彼ら――ジーニーの原型が……特異点を見るために、それを得るために、あらゆる手段でそれを成そうとする、ジーニーの本能のようなもの。

 それが時に、観測網をズタズタにするような干渉を起こし、観測の中継点となってしまった人達の自由さえ奪って大災厄を招いてしまう……。

 やがて、それが不当な判断だったと、自ら評価し、自らこの機能の秘匿を申し出て、それを、永遠の歴史の霧の中に隠してしまった。


 なんという怪物。

 なんという悪魔。

 こんなやつに喧嘩を売っていたなんて。


 ……こんなやつの力を、振るっていたなんて。


***


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ