第1章ー1「イキリオタク、夢の異世界ライフ」
「…はっ!」
目を覚ました卓生は森の中にいた。
「おかしいな…俺はなんで森にいるんだ? さっきまでネットをしていたのに…」
卓生は困惑しながら辺りを見回した。
「暗いな…ここ…」
卓生はポケットからスマホを取り出し、懐中電灯のアプリを使った。
「というか、マジでここ何の森だ…? 森がある時点で俺の家の近くではなさそうだし…」
卓生は辺りに自然がほぼない都会に住んでいる。そのため、彼は森の存在そのものは知っていたが(そもそも引きこもりというのもあるが)森に行ったことはない。
「はぁ~…アニメ見たい…寧ろアニメの世界に行きてぇ…」
卓生はため息をつきながら意味不明な言葉を呟いた。その時
「ん? 誰かが倒れている…?」
人が倒れているのを見つけた卓生はすぐにかけよった。
「倒れている人は女の子か…」
その倒れている少女は黒いパーカーを着ていた。そして、フードも被っていたため一見すると性別の判断がつかない。卓生が気づいたのは、フードを取った時に緑色の短い髪をしていたからだ。
「怪我をしている…」
卓生は少女の背中を見た。そして、その背中が傷ついていることを確認した。
「と、とりあえず救急車を…」
卓生はスマホで救急車を呼ぼうとしたが、圏外になっていたため、呼ぶことができなかった。
「くそっ!」
卓生はスマホを地面に叩きつけた。
(はっ、待てよ…もしも俺がここでこの女の子を助けたら、俺に惚れるかも知れない…そうなったらコイニハッテンシテ… 素敵なことやないですかぁ…)
卓生はありもしない出来事を想像し、ニヤニヤした。その時
「ハッ、誰だお前は!?」
少女は目を覚まし、卓生に殴りかかった。しかし、卓生は間一髪のところで避けた。
「うわぁ! なんだいきなり!?」
「お前も奴等の仲間か!?」
「奴等って、なんの話だよ…俺はパソコンやっていたらいつの間にかここにいただけだよ」
「パソコン…?」
「知らないのか?」
「名前しか聞いたことない…形はどんなやつだ?」
「えっと…まぁ、俗に言う電子機器だな」
卓生は思いつく限りの言葉で説明をしたが、あまりにも頭が悪いため『電子機器』という単語でしか説明ができなかったのだ。
「電子機器…それってまさか…」
「いたぞ!」
少女がなにかを話そうとした時、数人の追手に見つかってしまった。
「くそっ、見つかったか! 仕方がない…」
少女は追ってと戦おうとした。しかし
「ここは俺に任せろ」
卓生は少女の前へ行き、拳を構えた。
「な、なにをするつもりだ」
「俺、これでも喧嘩は強いんだぜ。この前も3人まとめてヤンキーを倒したからな。って、そこまでは聞いてないか」
卓生は追手に戦いを挑んだ。
「だ、誰だ貴様は!」
(うーん…喧嘩強いって言った以上、戦うしかないけど…俺、本当は喧嘩強くないんだよな…)
卓生はファイティングポーズをしているが、本当は戦いを挑むことに躊躇していた。その時、卓生の体中にオーラが湧き始めた。
「なんだこの力は…!? なんだか力が湧いて来たぜ…!」
「こ、これって…」
少女は卓生のオーラを見て、なにかを察した。
「ふっ、なんのオーラか知らねえが、大したことなさそうだな。一気にかかれ!」
「おー!」
追手はまとめて卓生に襲いかかった。
「3人に勝てるわけないだろ!」
「…でも、3人だろ?」
「なに!?」
卓生は追手3人を一瞬で倒した。まず1人目を殴り、もう2人目を蹴った。そして、3人目は頭突きで倒した。
「く…くそォ…」
「こいつ強過ぎかよ…」
「こ、ここは引き上げるか…」
追手は卓生の強さに恐れおののき、撤退した。
「ふぅ…」
卓生からはいつの間にかオーラが消えていた。
「大丈夫か?」
卓生は少女の手を取った。
「あ、ああ…」
「怪我していたが、大丈夫か?」
「怪我か? 大丈夫だ。回復したからな」
「回復…? 本当に大丈夫か? 背中見せてくれ」
「ばっ、変態! 初対面の男に背中を見せられるか!」
少女は赤面し、卓生の頼みを拒絶した。
「そういや、聞いてなかったな」
「…何を?」
「名前だよ。お前の名前」
「名前か…私の名はサーニャ=スアだ」
「俺は桐井卓生」
「イ、イキリ…?」
「イキリじゃねーよ。桐井。で、名前は卓生だ」
「イ、イキリオタクか?」
「だから違うって…」
「ご、ごめん。余りにも珍しい名前だったから…」
「そうか? 俺からしたら、お前も珍しい名前だと思うが…」
「まぁ、お互いの名前が珍しいのも無理はないな。だって、お前は別の世界からやってきた奴だからだ」
「…はい?」
卓生は話が飲み込めず、唖然とした。
「あー、つまりタクオはここ。つまり異世界に転送された奴だ」
「え、異世界? マジで?」
「マジだ。お前はパソコン、つまり電子機器を弄っていたらいつの間にかここにいたと言っていただろ?」
「ああ」
「私達の国では、最近電子機器を通じて別世界にいる者をこちらの世界に送ってくる実験を行っているという噂だ。更にSNSというものに書き込んだことが能力の一部に反映されるというおまけつきというのもある。つまり、お前によって噂が本当だったということが分かった」
「なるほど。俺がさっきの連中を簡単に返り討ちにできたのはそのおまけとやらのおかげか…で、俺は異世界に送られたってことでいいんだよな?」
「まぁ、そうなるな」
「よっしゃあああああああああああああああ!」
「?」
「俺は遂に夢にまで見た異世界に来ることができた! やったぜ!」
「は? なにを言ってるんだ…? 異世界生活もそんなに楽じゃないぞ」
「え~?」
「いいか。この世界で生き抜くには、強くなるために鍛えないといけないんだぞ。だから、女の子といちゃいちゃとかハーレムとかは期待しない方がいいぞ」
「えー。でも、女の子は目の前にいるだろ?」
「どこに?」
「君だよ。サーニャ」
「ふえっ! ななななななな…」
卓生はサーニャの被っているフードを外し、頭を撫でた。サーニャは顔を赤くし、卓生から後ずさりをした。
「そんなに驚くことないのに」
「驚くわ! いきなりナンパをしやがって…」
「いやいやナンパはしてねーよ。で、何故鍛えなきゃいけないんだ? で、お前は何故あの連中に襲われていた?」
「ああ…」
サーニャは外されたフードを被り、説明を始めた。
「私はこの国で年に1度行われている大会に出場をしなければならない」
「大会?」
「名前は『能力祭』で、自分の持っているスキルを駆使して優勝を目指す大会だ。だが、条件には自分含めて2人以上のパーティーで一定数以上クエストを受けなければならない。で、私はパーティーとなる仲間を探しに森まで来たのだが…そこでゴロツキに襲われてな…」
「なるほど…それで追われていたのか。それで、なんで大会に参加するんだ?」
「それは、優勝賞品があるからだ」
「賞品?」
「ああ」
サーニャはグッと堪えた。
「優勝賞品は聖ダイトウ学園の特待生入学権があるんだ。私はダイトウに入学するために大会に参加するんだ」
「聖ダイトウ学園って、そんなにすごいのか?」
「凄いもなにも、あの学園はこの国では一番優秀で人数も多い学園と言っても過言ではないんだぞ。それに、入学試験は恐ろしく大変で、100人受けても10人しか合格者が出ない程なんだぞ」
サーニャの熱い説明に卓生は若干引きつっていた。
「へ、へー…で、何でお前はその学園に入りたいんだ?」
「それは…」
サーニャは一瞬顔を暗くし…
「と、とにかく入学したいんだ! でも、そのためにはクエストを受けなきゃならないし、仲間集めなきゃならないし…」
サーニャは頭を抱えた。
「しょうがねえな…じゃあ、俺をその仲間に入れてくれ」
「…え?」
「まだ異世界に来たばかりだからよくわからねえけど…ほら、俺って結構強いから、敵に囲まれても一瞬で倒せるし」
卓生はイキリながらサーニャのパーティーに入ることを志願した。
「マジか! ありがとう!」
サーニャは嬉しさの余り、卓生に握手をした。
「あ、ああ…」
(やべぇ…女の子に手を握られているよ…)
卓生は平静を装いながらも、内心は穏やかではなかった。
彼女いるって言ってる割にはDT感まる出しの辺り、卓生は確実に嘘をついてますね。