第2章ー4「スピリート・スパーダ」
「お前のその剣はとても危険なものだってことは分かっているのか?」
「はぁ? 何の話だ? こいつは俺が店のおっさんを脅して手に入れたやつだ。この剣が最強だってことしか知らないね」
(やっぱり、こいつはこの剣の事情を知らない…ならば、こいつを倒して剣を封じるしかない!)
サーニャは先手必勝で攻撃を仕掛けようとした。
(相手が剣を出した時が命取りだ…だから、なるべく遠距離の魔法を使う!)
サーニャは火の魔法指輪をつけた。
「くらえ! バーニングフォース!」
サーニャの炎がトラッシュに目がけて放たれた。しかし
「ふっ」
「なに!?」
トラッシュが剣を取り出した途端、サーニャのスキルが無効化された。特に防御スキルを出したわけでもなく、ましてや剣で弾いたわけでもない。
「なんでだ…? あいつは何もしていないのに…やっぱり、あの剣が」
「この剣がある限り、お前は俺に勝つことはできない!」
剣が紫色に変わった。
「くっ…まずい…」
サーニャは剣を見つめないようにしたが
「駄目だ…頭が痛い…」
サーニャの視界問わず、剣は彼女の魂を取りこもうとしていた。
「ならば…」
サーニャは守のリングを装着し、目を閉じ、ガードフォールを発動した。
「これなら例え目を閉じていても直感であいつの動きが分かる…あの剣を使うのをなんとしてもやめさせなければ…」
サーニャは目を閉じたまま、神経を目以外の所に集中させた。しかし
「そんな薄い守りじゃ効かないよ」
「なに!?」
「おらあ!」
「があっ…!」
トラッシュの剣がサーニャのガードフォールをたったひと突きで破壊した。
「なんで…? 3回までは無効にするはずなのに…」
サーニャは予想外の出来ごとに呆然としていた。トラッシュには黒色の紋章が顔についていた。
「さぁ、これで終わりだ」
「ぐあっ…」
トラッシュがサーニャの腹に剣を刺した。
「…」
サーニャはそのまま力が抜けたように倒れた。
「これで完了」
トラッシュは刺さっていた剣を抜いた。
「サーニャ…!?」
卓生はその様子を見て、声を震わせた。
「タクオさん、大丈夫ですか?」
キョウは卓生を気にかけたが
「大丈夫じゃねーよ…あの剣は魂を取りこむ剣なんだぞ。だから、サーニャは…」
卓生はだいぶ動揺していた。
「おいおいおいおい。こいつの魂はかなり脆かったぜ。お前の魂がどんなものかは知りたいところだが、まずはこいつのことも知りたいな」
「…」
トラッシュはキョウに勝負を持ちかけた。
「駄目だ。キョウ…お前じゃ魂を取りこまれる」
「おいおい。リーダーが言っていただろ? 相手を選べるって」
「て、てめえ…」
卓生は怒りの表情を見せていた。
「タクオさん。大丈夫です」
「待てよキョウ。あいつに魂を取りこまれてもいいのか?」
「僕に仲間を見捨てる真似なんてできません。それに、最悪魂が取り込まれてしまったら。タクオさん。サーニャさんをお願いします」
「キョウ…」
キョウはトラッシュとの勝負に臨んだ。
「よし、勝負を受ける気になったか」
「…はい」
「そうか。なら、行くぞ」
トラッシュから攻撃を仕掛けた。そして
「生まれよ…新しき武器よ…」
キョウが両手を合わせ念じた直後、剣が生産された。
「はぁっ…」
「ぐっ…中々やるじゃねぇか」
トラッシュはキョウの剣で弾かれ、少し動揺した。
「次は僕から行きます! はぁっ!」
キョウは剣を振りかざし、トラッシュに向かって突っ込んだ。
「…」
キョウが近づいた途端、キョウの瞳が紫色に変わった。その時
「あああああああ!!」
「キョウ!? どうした!?」
卓生はキョウの異変に気付いた。
「あ、頭が…」
「やっぱり、この…俺…私にはかなわない」
「はっ!?」
卓生はキョウだけでなく、トラッシュの異変にも気づいた。
「キョウ! 気をつけろ! そいつは多分剣に人格を乗っ取られかかっている!」
「え? 人格を…?」
「があああああ…やめろ…やめろ…」
トラッシュは剣を握りながら、何者かと戦っているような感じだった。彼はスピリート・スパーダに人格を乗っ取られかかりながらも、それに抵抗しているのである。
「よくわからないが、今がチャンスかも知れない…」
キョウはトラッシュを剣で斬りかかろうとした。しかし
「がああああああああああ!?」
「キョウ!?」
キョウはなにか結界のようなものに弾かれた。
「な、なんだこれは…」
「これは、私と彼の想いだよ…」
「!?」
キョウの後ろには、薄紫色の霊のようなものが現れた。
「あなたは誰ですか…?」
「私? 私はスピリート・スパーダのかつての持ち主だ。そして、突然だが、君の魂を私の中に取りこませて貰うよ」
「え?」
「ふっ…」
「…」
持ち主の霊が消えた途端、キョウは倒れ、そのまま動かなくなった。
「キョウ…!?」
卓生はキョウが倒れたのを見て、すぐに駆けつけた。
「キョウ! 大丈夫か!? まさか、お前も…!?」
「や、め、ろ…ふふふふふふふふ…」
「!?」
「ふふふふふふふふ…抵抗した時はちょっと面倒だったが、やはり人の人格を乗っ取るのはたやすい」
トラッシュの人格は完全に持ち主に乗っ取られてしまった。そして、トラッシュの肉体に変化が起こっていた。黒の紋章と紫の瞳に加え、髪に紫のメッシュがかかっていた。
「お、お前があの剣の悪霊か!?」
「悪霊とは失礼な。私はこの剣の持ち主だった男『ソウル・ヴァルキュリア』だ」
「てめぇ。俺の仲間の魂を取りこみやがって」
「なにを言っている。君の仲間の魂を取りこむことは、あの男が進んでやったことだ。そもそも、あの男が私を武器屋から盗み出し、この剣を使っていた時点で、あの男は私に乗っ取られるためにやってきたんだ。つまり、あの男は自ら進んで私に人格を乗っ取られにきたのだ!」
「勝手なこと言ってんじゃねぇ! 何が悲しくてお前に自ら乗っ取られに行くかよ!」
卓生はソウルの自分勝手な言い分に激昴した。
「そうか。ならば、貴様の魂もいただこう」
ソウルは余裕の笑みを見せた。




