第13話 リムの冒険者登録と初仕事
シルキーが棲んでいた屋敷を訪れた翌日、ウリュウ・ルナ・リムの3人は、朝冒険者が出払った頃、ベルテ村冒険者ギルドに来ていた。
リムの冒険者登録を行い、みんなで依頼を受けるためだ。
なぜすでに冒険者登録がされているはずのリムが、また冒険者登録をするのかというと、リムは帝国で冒険者登録を行った冒険者だからだ。
ウリュウやルナは王国での冒険者登録となっており、リムだけが帝国の冒険者として一緒に仕事をしていくと、依頼遂行中の王国内の街門のフリーパスなどの特典がリムだけ受けられなくなったり、依頼料の減額がされてしまうのだ。さらに言うなら、冒険者のランクというのは、その国々での冒険者ギルド内での依頼を完遂することで上昇していく。つまり、ウリュウ達一行が王国で依頼を受け続けていくと、ウリュウやルナはランクが上がるが、リムのランクは上がることがなく、依頼を受けるための最低ランクが設定されている依頼などを、リムだけ受けられない。ということになってしまうのだ。
幸いなことに、素材の持ち込みしかしてこなかったリムのランクはFランク。魔力の波長は登録されていないし、王国で登録しなおしてもランクは変わらない。……そもそもランクなんて気にもしていなかったというのもあるのだが。
そんなわけで、リムの冒険者登録と、ついでにパーティー登録を行うことにしたのだ。
パーティー登録というのは、依頼をそのパーティーメンバーで行うことで、報酬額はメンバー内での山分けとなるが、依頼ごとの貢献度をメンバー全員がもらえることが出来るシステムのことだ。
この貢献度を貯めていくことで、ランクアップの試験が受けられるようになるのだ。ちなみにこの貢献度だが、採取系依頼で入るものはほとんどなく、基本的には討伐系や護衛などの依頼で稼ぐものとなる。
これは冒険者のランクというものが、その戦闘力を基準に考えられ、設定されているからだ。
それら手続きが終わった後、ルナ達一行は自分たちが受ける依頼を選ぶべく、依頼が張られた掲示板を見に行った。
掲示板に張られた依頼の数は少なく、全部で6枚しか張られていなかった。
朝には13枚の依頼があったらしいのだが、混雑する時間を避けてきたのだから仕方がない。
決してルナがなかなか起きなかったからではないのだ。
だがそんな状態でもルナのお目当ての依頼は残っていた。
「これにするのじゃ!」
ルナが選んだ依頼は
【ベルンの森のゴブリンを10匹討伐】というものだ。
このベルンの森というのは、ウリュウとルナが初めて出会った森のことで、ウリュウは記憶がないので忘れてしまっているが、ルナがこの依頼を選んだのは、ウリュウとルナが出会うきっかけとなった思い出深い依頼でもあったからだ。
「ゴブリン退治か。確か力は弱いけど、弓やナイフといった武器を使う上、よく群れで行動したりもするモンスターだったよな? 大丈夫かな?」
「……リムとあれだけやれてゴブリンを怖がる意味が分からないのじゃ」
「……うん」
「でも武器を使うっていうし、油断は禁物だぞ?」
「わかっておるのじゃ! こんどウリュウに何かがあれば、ちゃんと最初から助けるのじゃ!」
「……ゴブリンが居たら臭いでわかる。奇襲は効かない」
「そ、そうか、ならこれにしようか?」
「そうするのじゃ!」
「ルナさ――お姉ちゃんがそれにしたいなら、私もそれが良い」
「……リム、もうお姉ちゃんだけで良いのじゃ」
「は――わかった」
「よし、じゃあチーム[未定]の初仕事、ゴブリン退治、頑張るぞ!」
「おうなのじゃ!」「……おー」
▽
「ただいま」「……ただいまなのじゃ」「ただいま」
「お帰りなさ――ど、どうしたの?」
一人で暇を持て余していたシルキーは、ルナ達の帰りを知ると、笑顔で3人を出迎えたが、3人の表情は暗かった。
「いや、ちょっと依頼に失敗して」
「ゴブリン退治に行ったのに、ゴブリンに一度も会うことが出来なかったのじゃ」
「そうなんだ?」
《すいませんでしたルナ様。私のせいで……》
《気にする必要はないのじゃ。妾がリムにお願いしたことだし、妾達の為にリムは頑張ってやってくれたことなのじゃから》
リムのしょんぼりした顔と、2人の思念波の内容を聞き、シルキーはリムがルナの為になにかをし、それにより何らかの失敗をしたらしいと悟る。
「じゃあ俺は、牛乳搾ってくるよ」
「わかったのじゃ」
――バタン――
「どういうことなの?」
「私がル――お姉ちゃん達の邪魔にならないように、連日ゴブリンやオークを追い回したせいで、ゴブリンやオークがみんなで引っ越しをしてしまったらしいのです。そのせいでゴブリンに遭遇出来ず、ゴブリン討伐の依頼に失敗してしまい、罰金として銀貨10枚を払うことに……」
「そ、そうなんだ? でもこれでこの村はゴブリンの脅威からは守られたから、結果的には良かったのかもしれないの」
「ですがこの辺りは、それでなくとも元々魔物が少ないので、このままでは冒険者としてやっていくのも少し大変かもしれません」
それについてはルナも感じていた。なんらかの移動手段を得るか、又は――。
「ふぅ、今考えていても仕方がないのじゃ。……それはそうと、まだそなたに名を付けておらんかったな? まずはそっちから先に考えるのじゃ!」
「そうですね」
「あっ、えっと、ちょっと待って欲しいの!」
「ん? どうしたのじゃ?」
シルキーがいきなり慌てながらルナとリムを止めたため、ルナとリムが訝しんでいると、シルキーは言いにくそうにこう切り出した。
「えっとね、怒らずに聞いて欲しいんだけど。この家……多分このままだとあと数年くらいしかもたないの」
「えっ?」「はい?」
ルナとリムは、一瞬何を言われたのかが理解できずに首を傾げてしまった。
「柱が全部死んじゃってるの。だからこのままだと、きっとこの家その内崩れちゃうの」
ルナはまず家のことを心配し、リムは家と一蓮托生であるシルキーのことを心配した。
「……あなたは大丈夫なんですか?」
「そうじゃったのじゃ! 家が壊れたらお主は――」
心配する二人に対して、シルキーは困ったような顔でこう言った。
「今のままなら大丈夫なの。シルキーはその家の人に名前を付けてもらう事で家族として認められ、家と一蓮托生になる代わりに、魔力を食べやすくなって、家の精としての力も十全に発揮できるようになるの」
「家の精としての力?」
「例えば私の手が離せないときに、魔力で箒を操ってお掃除したり、お風呂がある家なら魔力を使ってお湯を沸かしたり出来るようになるの」
「……名前を付けるのは中止なのじゃ。家事が出来るようになっても、シルキーが死んだら寝覚めが悪いのじゃ」
「ですね」
「ありがとうなの」
そんなこんなで、シルキーの名前を付けるのは中止となった。
――ガチャ――
「そう言えばそのシルキー、名前はまだないって言ってたよな? みんなでなんて名前にするか、考えてあげ――」
「ダメなのじゃ!」「ダメ!」「やめてぇー」
「えっ? ご、ごめん」
ルナ・リム・シルキーの3人は、この日から、ウリュウを連れてのこの家からの脱出方法の検討を始めるのであった。




