受難2~心が死んでいくんだ~
「交換条件だヨ。」
お嬢様にアルテに誘われる前日。ルーファに、とある相談をした所、交換条件をだされた。
「交換条件?」
「そ。交換条件。対価を得たいなら、相応の対価が必要でしョ?等価交換。この世の理。真理だョ。」
そう言って、奴はにっこりと笑い右手を差し出してきた。
「・・・・善意というモノは、お前の中には無いのか・・・・。ルーファ。」
「生憎、善意でおマンマは食えないしネ。【損得なくして、動く事なかれ!】がうちの家訓。」
「流石、商人の息子らしいな。」
ルーファは、商人の息子だ。この歳でキャラバンを率いて、行商の旅に出た事もあるらしい。その商人根性に関心する。
「ーで。その交換条件ってのは?」
そう言葉を返すと、ルーファはもともと緩んでいる口元を更にへにゃりと緩め、鼻の頭をかく。
「あー。うん。ちょっとネ。きょーりょくして欲しいんだよネ。」
「協力?一体なんだ?できる事しかできないぞ?」
「なに、当たり前の事言ってんの?できる事しか頼まないョ!難しい事なんて頼むつもりもないし!ほんのささいな事!ちょっとオレに付き合って欲しいだけだよ!!」
怪訝な顔を浮かべると、ルーファが俺の肩を掴み詰め寄ってきた。
「じ・・実は・・・・好きなんだけどネ!どう接触したらいーかわからなくて。いきなりだと逃げられるに決まってるから。だから・・・・。」
いつも浮かべる飄々とした顔が、羞恥と焦りでいっぱいになっている。顔どころか耳まで真っ赤だ。
「脈も無さそうだし、諦めるつもりだったんだョ。でも・・・・やっぱり、好きな気持ちは消えそうになくテ・・・・だからハンス・・・・オレにきょうりょ・・・・」
ーガタン。
ルーファの言葉がそこで途切れる。此処・・・・放課後の演習場には今、俺とルーファの二人だ。Mrsシャーウッドの地獄の扱き。レクリエーション最下位の俺達は、その扱きを受けた。満身創痍の身体をおして、その片付けをルーファと二人でしていた。女の子のルビアナ嬢と、ボロ雑巾に成り果てたオルラカとナルキッススは、先に帰した筈だ。
「あ・・・・えっと・・・・その・・・・」
俺とルーファが、音がした方を向くと、其処には顔を真っ赤に染め上げ、俺達の視線から逃れようとするルビアナ嬢の姿が・・・・。
「どうした?ルビアナ嬢。忘れ物でも?」
俺の問いかけに、彼女は何故か答えず、プルプルと震えている。まるで産まれたての小鹿のようだ。大丈夫か?
「ご・・・・ごめんなさい。私・・・・その・・・・二人の邪魔をするつもりは・・・・」
やっと声を出したかと思えば、はわはわと両手で顔を覆いながらも、その指の隙間からしっかりこっちを見ている。うん。見ているな・・・・まるで見てはイケナイものを好奇心から見るような仕草・・・・。何故そんな目で、俺達を見ている?その様子にルーファの顔色がサッと悪くなる。
「ちょっ・・・・ルビちん!?えっ!?ジャマってナニが!?」
「ごめんなさい。私、その・・・・二人がそんな関係だなんて知らなくって・・・・」
「え!?そんな関係ってどんな関係!?ルビちん!?」
慌てふためくルーファ。うん?本当にどんな関係と思ったんだ?ルビアナ嬢。
「えっと・・ごめんなさい。聞こえちゃったの。ルーファ君が、その・・・・ハンスさんの事・・・・・・すき・・・・だって」
しどろもどろになりながら、ルビアナ嬢が懸命に口にする。
「告白・・・・私・・・・邪魔しちゃって・・・・ごめんなさい!!」
うん。なんだって?
「だァアアあぁあぁあああ!!!!」
「違うヨ!?違うから!ルビちんそれ、とんでもない誤解だからネ!有り得ないよ!有り得ない!オレがハーンスなんか好きになるわけじゃないでしョ!!」
ルーファが、顔面蒼白になり叫ぶ。ルビアナ嬢は、どうやら妙な所を目にし、耳にしたようだ。つまり、俺とルーファをそういう仲だと誤解し・・・・。
お嬢様といい、ルビアナ嬢といい・・・・女子は何故、すぐ男同士の恋愛を連想するんだ?その思考回路には、正直ついていけない・・・・あっ。なんか今心が死んだ気がする。
「あの・・・・ルビアナ嬢。それは・・」
俺からも否定すべきだな。っと声をかけようとした途端、はっと顔をあげ
「私、忘れ物を取りにきただけなんです!その、本当にごめんなさい!お邪魔しました!!」
っと早口で喋ったかと思うと、脱兎の如く逃げ出したルビアナ嬢・・・・。参ったな・・・・お嬢様に変な事、吹き込まないでくれるだろうか・・・・。ただでさえ、レオニダスとの仲を疑われているというのに・・・・
「あれは・・・・勘違いされたな・・・・グぇッ!?」
溜息混じりで呟くと、ルーファに徐に首元を絞められた。いきなり何するんだ!!
「・・・・ナンでこのタイミングで、ルビちんに・・・・」
わなわなと震えるルーファ。締め上げる力・・・・強まってるぞ!おい!
「・・・・よりにもよって・・・・だョ。しかも相手をハンスだと勘違いされて・・・・」
ヤバイ。本気で苦しい!ルーファ!今すぐ緩めろ!その手を!俺を落とす気か!おい!強い強い!!
バシバシとその手を叩くと、ルーファの力が緩んだ。
「あーもー。ほんと最悪。こーなったのは、ハーンスのせいもあるよネ。責任とってもらわなくちゃ・・・・」
「せ・・・・せき・・・・にん?」
いつも開いてるのか開いてないのかわからない。糸目の隙間から覗く、剣呑とした瞳とぶつかる。
「オレね。ルビちんが好きなの。」
衝撃の告白をされる。は?ルーファがルビアナ嬢を好きだって?そんな雰囲気感じた事なかったんだが・・・・あっ、あれか。レクリエーションやMrsシャーウッドの扱きで苦楽を共にするうちに芽生えた恋心。という奴か?正直、周りの恋愛云々は興味がないからわからなかったな。俺には、お嬢様で手いっぱいだ。ほんの少し目を離した隙に、とんでもない方向へと突き進むから・・・・ほんと、他人の恋愛云々を気にする余裕なんて持てない。
「そうか・・・・それは、その、気の毒に・・・・」
慰めになるかわからないが、俺もお嬢様にレオニダスとの仲を誤解されている。大丈夫だ。気にするな。気にすると負けだ。それでも生きていける。何の解決にもならないけどな。
「ヴィクっちの事もあるし、ハーンスを利用するのは学園内だけにしようと思ってたんだけど・・・・うん。やっぱり付き合ってもらう事にするョ。ハーンスの用事をダシにさせてもらう。うん。利害の一致。」
「つ・・・・付き合うって・・・・?」
なんとなく、嫌な予感がする。利用とか利害とか、ダシとか・・・・不穏な言葉が羅列されてないか?
「うん。心配しないで。今度の休みに、一緒にアルテに行って欲しいだけだかラ。」
にっこり笑うルーファ。口元は笑っているが、目が笑ってない。
「ちゃんと協力してくれるよネ?」




