受難1
ハンスsideになります。
三人称→ハンス視線
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その日 、とある令嬢の執事である青年は、判断力を鈍らせていた。連日から度重なる不運からか、それによりもたらされる疲れと心労からなのか・・・・とにかく彼は間違えたのだ・・・・
ー選択肢を間違えた。
それは、神の出来心からか悪魔の悪戯か・・・・その事により、受難は更に混迷をきす事になるのだが、その時の彼は気付く由もなかった。
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「ハンス。今度の休日にアルテに行くわ。貴方も一緒に来てくれるかしら?」
お嬢様に、そう声をかけられた。
「貴方のお休みの日で、申し訳無いのだけれど・・・・。」
申し訳なさと、期待に膨らむお嬢様の目を見て答えに詰まる。月に一度ある、執事でない日。俺の完全な休みの日。(お嬢様に関われない日など)必要ないという俺に、「ハンスにも自由な日が必要ですわ!」っと無理矢理に取らされた休み。
「休みの日まで、【仕事】をする必要ないからね。ハンス。ヴィーもハンスの手を煩わせちゃだめだよ。ヴィーとハンスは、【主人】と【執事】なんだからね。ケジメは、ちゃんとつけるべきだ。僕の言ってる意味。わかるよね?」
14歳の時に、ブルーテス(様)にそう釘をさされた。俺とお嬢様の距離が近すぎる。ーと。【仕事】でなければ傍に居られない。そんな事はわかっているつもりだった。ただ、無理矢理に取らされた休みは、嫌でも俺に現実を突き付けてきた。【理由】がなければ、傍に居られない。侯爵家の令嬢と俺の身分では、肩を並べる事なんてできる筈がない。分かりきっている事だった。しかしそれは、頭で理解しているに過ぎなかった。
執事でなく、ハンスでいる日。退屈な日。用もないのに、お嬢様の傍に行くわけにもいかない。何より、ソレをブルーテス様は許さないだろう。あの方の牽制に、苛立つと共に感謝も覚える。ソレは、分不相応な想いだと。お前の立場で何ができる?と。お嬢様まで不幸にするのか?と。渇望する想いに歯止めをきかせてくれる。
俺はお嬢様に相応しくない。
だから、完璧な執事としてお嬢様を支える事が、俺の生涯かけての誓いであり願いだ。一番近くでこの方の幸せを見守る。それが俺の幸せだから。
月に一度の【ハンス】に戻る日は、お嬢様を想いながら自室でだらだらと過ごす。それが俺のいつもだった。ただ、その日は違っていた。
「すみません。お嬢様。その日は先約があって・・・・。」
お嬢様に声をかけられるその前に、約束をしてしまっていた。あの件がなければ、後だろうが前だろうが先の約束など反古にするんだが・・・・。思案する俺に、お嬢様は残念そうに呟かれる。
「そう、たまのお休みだものね・・・・ソレを取り上げてまで、お願いはできないわ。レオニダスとフィロスと行ってくるわね。」
「フィロス嬢とレオニダスとですか?・・・・まぁ、三人なら大丈夫ですよね?くれぐれも迷子やトラブル事にならないよう、気を付けて下さいね?可能なら、ハイドやトリフォリウムも誘ってはどうですか?彼等なら街にも詳しいでしょうし。」
「そうね。声はかけてみるわ。」
にっこり微笑むお嬢様に、俺も笑顔を返す。多少の不安は過ぎったが、他に人がいるなら大丈夫だろう。そう思った。
「それより、貴方、最近溜息が多いわよ?目の下に隈もできているわ。」
お嬢様の手が、俺の目元をなぞる。
「すみません。最近、よく眠れてなくて。」
原因はわかっている。レクリエーションの疲れ。それが抜けきらぬうちに課される、Mrsシャーウッドからの扱き。・・・・ルビアナ嬢は、あまりの辛さから食欲不振に陥っている。あと数日の我慢といっても・・・・身体も心も限界に近い。それもこれも、オルラカとナルキッスス・・・・あの二人のせいだ。
フツフツと沸き起こる苛立ちを抑えようと眉間に皺を寄せる。そんな俺を、お嬢様が心配そうに下から見上げてくる。
「ハンス・・・・本当に大丈夫なの?」
「ええ。大丈夫です。」
【心配なのは、お嬢様の無防備さです。】っと言いたい所をグッと我慢する。相変わらず距離が近い。その距離に俺がどれだけ悩まされているか・・・・純粋過ぎるお嬢様は、何もわかっちゃいないだろう。言ったところで斜め上に解釈するに違いないが・・・・
「アルテでの買い物。楽しまれて下さいね。」
これ以上、お嬢様に心配をかける訳にはいかない。笑って誤魔化すと、
「ええ。お土産を買ってくるわね。楽しみにしてて。」
とお嬢様も笑い返してきた。先約を追求されず、ホッと一息をつく。あの件は、お嬢様に秘密だ。絶対に知られるわけにはいかない。
この選択を、後で俺は死ぬ程後悔する事になる・・・・。




